第8話 慣例行事の洗礼
終業時刻を過ぎ、皆で慣例行事のために店に行く。
ジーンの音頭で乾杯をすると、ルウム弟が、ニヤニヤと嬉しそうに横目で真矢と菜子を見ている。
「遠慮なく食えよ」
「はあい」
「いただきまあす」
真矢と菜子はにこにこと、箸を取る。
「しっかし、アレやったな。やっぱり先輩ら、格好いいわ」
「私らも訓練、しっかりせなアカンな」
「それより気になるんは、やっぱりあの魔物や」
「いつの間にか発生しているって、何なん、それ」
訊くが、ルウム兄はビールに夢中で聞いていないし、レスリは無口で、ロレインは口いっぱいに頬張っていて喋れないようだ。
ジーンとミスラが、飲食しながら答える。
「不思議なんだけどな。そうなんだよ。ねえ、隊長」
「ああ。それがわかれば、対処も早くし易くなるのにな」
ルウム弟は、
「ほら、食えって。ほら」
と執拗に勧めて来る。
「ありがとう。
解剖したらわからへんの、何か」
「やってみたいわあ。物凄い、興味あるわ」
「え?」
全員、口を止めて真矢と菜子に注目する。
「例えばや。胃の内容物で食性がわかるし、それで住んでいる場所もわかったりするやん」
「まあ、人を捕食するいうんはわかってるから、出て来るのは人やろうけど。
あの体で人を食べるって、全身か?どんな胃なんや。内臓だけとかか?」
「衣類とかはどうなるんやろ」
「ああ。前に、餓死者の解剖したんや。ビニールが喉から胃の上まで貼り付いて、それで気道を塞いでの窒息やったんやけどな。胃の中には毛糸とねずみの尻尾が残ってて、半分溶けて貼り付いとったわ。
その上、遺体を外から齧られとってな、ねずみに。肝臓がほとんどあらへんかってん。生活反応あったから、生きてたんや。痛いで」
「うわあ。痛そうやなあ。
でも、この前爆発事故現場の焼死体の解剖してん。気道が焼けただれててなあ。空気が熱風やったんや」
「それも苦しいなあ」
「嫌やなあ」
しみじみと言いながらパクパクと食べ、
「それ、もう焼けてるで」
「あ、ほんまや。
あ、生あるやん。生も頼もか。
追加ええですか」
とメニューを見て言う。
「あ、ああ。いいぞ」
ジーンが気圧されたように言い、真矢が店員にそれを注文する。
「それにしても、心配やなあ。私ら、できるかな」
「暴力とかに縁のない生活して来たから、メンタルがなあ」
真矢と菜子が言った時、店員がそれを持って来た。
「生レバーおまちどう」
「おお、美味しそう!」
ルウム弟が、青い顔でトイレに走った。
そしてジーンが、溜め息をついて言う。
「お前らのメンタルのどこに不安があるんだよ。魔物の死体を見た直後に平気で焼肉食える新人なんて、見た事ない」
真矢と菜子が、ケロリとして言う。
「私ら、解剖医やから。毎日何体も解剖してるからなあ」
「それに、初めての解剖実習の後に焼肉って、私らの学校でもあったしなあ」
「大体、青い顔で食べられへんようになるんは、男子やった」
「まあ、すぐに平気になるけど」
「なあ。生ユッケとか食べながら写真見たりもするしなあ」
「あはは。楽しみにしてたらしいルウム弟には気の毒やったけど」
「甘いわ」
ジーンとミスラは、
「強い・・・」
「鋼のメンタルだな」
と呟いた。
「気に入った!さあ、飲め!」
「そうでないと!」
ルウム兄とロレインは上機嫌で、レスリは、テーブルに飛んだ油を拭くのに忙しそうだ。
隊内の序列が、決まったようだった。
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