第6話 初出動

 訓練、取り敢えずは体力づくりが続く。

「この年でまた体育みたいなんやるとはなあ」

 真矢がぼやく。

「部活、思い出すわあ。あの頃はそれなりに楽しかったけどな。終わった後、片付けて、こんだら引いて」

 菜子が言うのを、真矢が聞きとがめた。

「こんだらって何なん」

「こんだらやん。え、知らん?こう、大きいバームクーヘンみたいなやつに取っ手が付いとってな、こう、引っ張って歩くねん」

「もしかして、ローラーか?」

「ローラ?」

「それは西城秀樹やろ。ローラー。伸ばすねん」

「あ、ローラー。

 そういえば、バームクーヘンみたいなとこ、ローラーやな。

 待って。あれ、ローラー言うん?」

「多分」

「知らんかったわあ」

 菜子は衝撃を受けたような顔をしている。

「何でローラーがこんだらになってんの?その命名、何で?」

 真矢が訊く。

「昔のアニメで、『巨人の星』ってあったやん」

「ああ、あったな。薄っすら知ってるわ」

「あれのオープニングのトコで、主人公の星飛雄馬がローラー引いてんねんけど、知らん?」

「ああ、引いとったなあ。うさぎ跳びとか、タイヤ引きずって走ったり、そういうスポ根特有のシーンが・・・あれ?もしかして・・・」

「そうやねん。『思いこんだら試練の道を』のとこ、ローラー引いてんねん」

「・・・重いこんだら?」

「そう!そういう歌やと思ったんや」

 真矢と菜子は、頭でそのシーンを思い浮かべた。

「プッ」

「重いこんだらって」

 笑い転げた。

 ジーンは、そんな2人を見て、安心しつつも、脱力していた。

 異世界から召喚されるという嘘のような事になって、しかも帰れないというのに、さぞ混乱し、気落ちするかと思いきや、実にノビノビとし、隊にも馴染んでいる。嘆き、落ち込み、ヤケになられるよりは何百倍もいいが、あまりにも順応しているので、拍子抜けだ。

 異世界人のメンタルなのか、あの2人が特別なのか、よくわからない。

「心配はなさそうですね」

 ミスラがこそっと言う。

「ああ。逞しいというか、助かったな」

 ジーンは頷いて、

「次の出動の時、現場に連れて行って、見学させようと思うんだが」

「ああ、そうですね。魔物はいないとか言ってましたからね」

「ああ。ショックを受けるかも知れないから、早い目にな」

 視線の先で、真矢と菜子は、

「高校生の綽名に『お蝶夫人』も大概やろ」

「夫人ってなあ。何歳やねん。老けてんの?」

と盛り上がっていた。


 見学の機会は、早く訪れた。

 翌々日、近くに魔物が出たと通報があり、隊は緊急出動となったのだ。

「魔物か。ピンとけえへんなあ」

「お化けみたいなやつかな?それとも、虫みたいなやつかな」

「人を捕食するんやろ?という事は・・・」

「あれか」

「あれや」

「『進撃の巨人』」

 真矢と菜子の頭の中には、オープニングテーマと共に、裸の巨人が現れていた。

 隊のメンバーは、真矢と菜子がおかしなことを言うのに慣れてきており、「また変な事を言い出したぞ」と静観していた。

「でも、あの跳ぶやつ、してへんな」

「でかくないんかな」

「形状にもよるかな。人を捕食できるんやろ。巨人じゃなくても、例えばトラとかワニとかでも人を襲うやん」

「襲うなあ」

「ピラニアも襲えるけど」

「また小さなったなあ」

「それくらい、可能性は色々ある、言う事や」

「成程なあ」

「巨人も困るけど、ピラニアサイズも嫌やな」

「じゃあ、真ん中取ってトラにしとく?」

「こっちの注文は聞いてくれへんやろ、菜子」

「聞いてくれるとしたら、何にしとく?私やったら・・・子犬サイズでええわ」

「子犬でも侮れんで。土佐犬の子やったら、小さくても凄いんちゃう?」

「確かになあ。

 じゃあ、真矢はどれくらいにしとくん?」

「ハムスター?」

「機動力がありそうやで」

「成程。それは困るなあ」

「うん、あかん。できれば、じーっと動かへんやつがええな」

「動かんやつ・・・カタツムリとかウミウシとか」

「ええな。楽そうや」

 2人がウミウシを希望したところで、バスは現場に着いた。

「ほら、あれだ」

 ルウム弟が指し示すものを、バスから降りて見る。

 それは、まるでーー。

「宇宙人やんか!」

「うわ!グレイやん!」

 なぜかテンションが上がる2人に、

「調子が狂う」

と呟くジーンだった。

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