第5話 飲み会というカオス

 ビールを一気に飲んで、気持ちよさそうに息をつく。

「ぷはあ。いやあ美味い!」

 ルウム兄は、酒好きだった。

「ちょっと、聞いてるの、こら。ああん?」

 部長秘書はアルコールが入るとアンドロイドみたいな仮面を脱ぎ捨て、どこかの姐さんみたいな迫力である。

「リン姐さん、はい、聞いております」

 小さくなって若干目を泳がせているのは、ルウム弟だ。

「美味しい、これ。うわあ」

 お菓子を貪り食うのはロレイン。スイーツ大好き女子だった。だが、大雑把さが出ていて、包装紙はポイ捨てして、ポロポロと欠片を落としている。

 それをキチンと捨て、テーブルを拭くのはレスリだ。面倒見が良くて神経質な質らしい。

「できたぞ。唐揚げとフィッシュフライとポテトフライの盛り合わせ。それと野菜の煮込み」

 ジーンが新しい皿をテーブルに持って来る。

 なかなかの料理上手だ。

「熱々ですねえ。うわあ、いただきまあす!あ、レモンかけましたね!?勝手にかけないで下さい。そんなにかけたいなら、ほら、ほら。あはははは!」

「い、痛い!目が、目があぁぁ!」

 レモンをキュッと唐揚げにかけたルウム弟に、笑いながらレモンで目潰し攻撃をするのはミスラだ。

 ひどいカオスである。

 それを真矢と菜子は、見ていた。

「うわあ、すごいなあ」

「ウチの宴会も大概やと思とったけど」

「でも、何か隊長が一番雑用してはるみたいやで」

「そうやなあ。ええ人やなあ」

「飲み会って、本性出るよなあ」

 2人はジーンの手料理を食べ、焼酎みたいなものをロックで飲んでいた。

「どうしてデイバッグに焼酎とウィスキーとビールくらい入れておいてくれなかったのか」

 嘆くルウム兄に、

「重いやん」

「アルコール持ち歩くって、アル中やん」

と真矢と菜子は返す。

 ジーンはようやく落ち着いて椅子に座った。

「お疲れさんです」

「美味しいですねえ。料理、お好きなんですか」

 ジーンのコップにビールを注ぎながら言う。

「ああ。学生時代から自炊してたからな。この中では唯一できるってだけだ」

 謙遜して言うが、ロレインが聞きとがめた。

「私だってできるよ。ゆで卵」

「・・・ゆで卵って、料理なん?」

「ゆで加減にこだわらんかったら、誰でもできるな」

「僕は生野菜サラダを作ったぞ!」

「ああ。大根の乱切りと引きちぎったほうれん草とぶつ切りの南瓜と握り潰したトマトを、全部生で和えたヤツ」

 ジーンが思い出したくなさそうに言う。

「真矢。それ、人間の食べ物なん?」

「馬用やろ。人間用とは言うてへん」

「失礼な!人間用に決まってる!」

 胸を張るルウム弟に、

「あんたが失礼や!」

「全国のお母さんとシェフに謝れ!」

「せめて自分でも食べてから胸を張れ!」

 菜子、真矢に続いて、ジーンも指さして怒る。

「僕は作れないなあ。せいぜい、トースターでパンを焼いてコーヒーを淹れるくらい」

 ミスラが言うのに、うんうんと頷く。

「潔いいからかまへん」

「自分をわかってるからなあ」

 すると、レスリはシリアルの箱を指さした。

「シリアルに牛乳かけるん?」

 コクコクと頷く。

「まあ、でけへんのに手ェ出すよりはええか」

「自分で食べへんもん作ってドヤ顔するより何倍もええ」

 皆でルウム弟を見ると、ルウム弟は涙目で

「ちくしょお!やっぱり根に持ってるのかよ!新人の割に若くないって言った事!」

と言うが、真矢と菜子はフフンと笑った。

「そんな事あらへんよ」

「まあ、人生の先輩として教えたらなアカン事がありそうやと思っただけや。なあ、菜子」

「こ、怖ェ。これだから、女はーー」

「リン姐さん、ルウム弟が文句言うてますよ」

「これだからーーとか。なあ」

「なんですってぇ。これだから、何。ああ?」

「ひいいぃ!!」

 それに全員、爆笑する。

「そういう真矢と菜子はどうなんだ?」

 2人はちょっと考えて、デイバッグに手を突っ込んだ。

「おにぎり」

「サンドウィッチ」

「どっちも買ったものを出しただけだろ!」

「隊長、ナイス!」

「突っ込みをわかって来たなあ」

 嬉しそうに笑って親指を立てる真矢と菜子に、ジーンは天井を見て呟いた。

「過労死しそう」


 挨拶と歓迎会だけの初日と違い、訓練が始まった。

 体力作りや、武器に合わせての武道である。

「いやいや。きっついわあ」

「学校卒業してから10年やで。しかも、大学の時なんか、まともに体育もやってへん」

「真矢はあれやな。書道はじーっと座ってるし、射撃もそんなに走らんやろ。持久力あらへんのとちゃう?」

「ないねん。菜子はどうなん。陸上で、何やっとったん」

「砲丸投げや」

「ああ・・・でも、カバディは足腰が鍛えられたんとちゃうん」

「まあなあ。でも、昔の話やわ」

「そうやなあ。

 なあ。気付いたんやけど、銃とか弓矢とかの飛び道具の類って、武器にできんのやろ」

「らしいなあ。手から離れたら、力が働かんとかいう話やったなあ」

「それやったら、弾に糸付けて撃ったらあかんの」

「真矢。楽しようとしてるやろ」

「当たり前や。楽を追及する先に、人類は数々の発明を成して来たんや」

「おお、成程。一気に罪悪感が消えたなあ」

「もしも、投げたもんでも使えたら」

「使えたら」

「例えば五円玉を投げられたら」

「銭形平次や」

「手裏剣やったら」

「忍者やな」

「おひねりやったら」

「演歌歌手のコンサートのおばちゃんやんか」

 しばらくして休憩終わりを告げに来たジーンが見た時、真矢と菜子は木の枝をマイクにして歌っていた。

「・・・何してるんだ?」

「2人ものまね紅白歌合戦や」

「・・・」

 ジーンはガックリと肩を落とした。

「異世界に突然放り出されて、意気消沈してると思いきや、随分と楽しそうだな」

 真矢はキリッとして言った。

「時間を戻す事はでけへんねん。時間は常に、先へ、先へと進んどる」

 菜子も握りこぶしを作って言う。

「だから、後悔しても、立ち止まったらあかん。止まったら死ぬんや」

「それやったらマグロやん」

「ううん。まあとにかく、楽しんだもん勝ちや」

「レッツ・フリーダム!」

 ジーンは嘆息した。

 

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