第6話 ガール・ミーツ・怨霊?
琳は、香蓮尼を待ちながら考えた。さっきまでいた池のある庭園が帝所有のものということは、このお屋敷も都の中心部にあるということになるだろう。
――都。永屋王の変、っていつ起こったんだっけ。多分、寧楽時代だよなあ。じゃあ、この都は
それにしてもこの時代、道幅の広い大通りにすら灯りがないんだな。香蓮尼は普通に歩いていたけれど、琳には一、二メートル先もよく見えない。
香蓮尼さん、怨霊が出る邸跡で一体何してるんだろう。まさか心霊スポットとか廃墟を巡るのがお好きだったりして……youtuberかよ。
いやいや、尼さんだから、霊を成仏させようとしてるって方がまだわかる。お経とか上げてるんだろうか、ばあちゃんも毎日お経上げてるけど、やっぱりお経の節回しも似てるんだろうか。ちょっと聴いてみたい。そもそも、昔のお経って今のと違うのかなあ。き、気になる。
っていうか、暗いところで独りじっとしてるのは逆に怖いよ。怨霊がいようが、二人で行動してる方が数倍ましでしょ。
「よし、行ってみよう」
琳は安直に決心した。
さっそく先程香蓮尼が入っていった門を目指して歩き始める。琳は夜目が利かないから、壁に触れながら進むしかない。
門から入ってみると、邸跡といっても
「香蓮尼さーん! どこですかー?」
琳は大声で呼んだ。
もうここからは壁伝いには行けないので、歩幅を狭くして慎重に歩く。中にももう一つ門があって、その向こうにひときわ大きな寝殿が見える。
ヨンチョウと言われても全然ぴんとこないけど、確かにめちゃくちゃ広いお屋敷だ。
そのまま寝殿に近づくと、木の床がミシミシと軋む音が奥の方から聞こえてきた。
香蓮尼さんが歩いているか、もしくは……怨霊? いや、怨霊なら、足はないはずだ。
琳はそう自分に言い聞かせる。
そして、もし香蓮尼さんが中にいるなら、脱いだ履物があるはず……。
琳は土間と板の間の境目に屈み込んで、手で探った。
「ん?」
右手に触れたのは、確かに草履のような、植物を編んだもののような感触だった。
けれど、左手に触れたのは――。
「何だこれ」
琳はそれを拾い上げ、目に近づけてみた。
裁縫に使う指貫みたいな布製の輪っかに、硬い木片のようなものがくっついている。琳はまじまじと観察してみたが、何に使うものだかさっぱりわからない。
一応ジーンズのポケットに突っ込んでおく。
とりあえず、香蓮尼のものらしき履物はあった。やっぱりあの足音は彼女に違いない。
「香蓮尼さーん? いますよねー! 入りますよー!!」
琳がもう一度叫ぶと、ドスドスと音を立てて香蓮尼が出てきた。
「ああもう! うるさいね!」
「だって! あんなとこで独りほっとかれたら怖いですよ!」
「大声を出すんじゃない、怨霊に見つかっちまう――」
「しっ」
琳が口の前に人差し指を立てると、香蓮尼も押し黙った。
香蓮尼の背後で、ピタピタと足音が響く。
いやいやいや。ガチで心霊スポットじゃないですか。
「香蓮尼さん、さっきまでは何もいなかったんですか?」
琳は小声で確認をとる。
「いなかったよ」
「……見に行きましょう」
香蓮尼は一瞬怯んだ。けれど、すぐに踵を返して奥へ向かっていく。琳も靴を脱ぎ散らかして後を追った。
現代の日本家屋のように部屋が細かく分かれてはおらず、寝殿全体が一部屋のようだ。
暗すぎて、少し離れたところにいる香蓮尼の姿はぼんやりとした影のようにしか見えない。
影はなぜか、しゃがみこんでいるように見えた。何か探しているような……。
「香蓮尼さん?」
「……いないようだね、怨霊は」
「騒いだから、いなくなっちゃったんですかね。もう、行きましょうか」
琳は肩を竦める。
香蓮尼が顔の見える位置まで近づいてきて、すっと目を細めた。
「あんた、動じない子だね、ほんとに」
「そうですか?」
琳はきょとんとする。
香蓮尼は少し哀しげに笑った。
「まあいい、その方が
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