2019年7月26日 幽霊の日に肝試し

2019年7月26日



西香さいか「ところでお二人とも。どうしてこんなド深夜にこんな薄暗い場所を歩かないといけないんですの?あなたが珍しく呼んでくださったので来てみましたが」


 西香さいかはやや退屈そうにそう切り出しながら、一緒に歩くあの子にニコリと嬉しそうにしながらそう言った。街灯がほとんど無いような林道のようなを西香さいか衣玖いく、あの子の三人で歩いている。


衣玖いく「珍しいわよね、この子がこんな夜に出かけようだなんて。っていうか西香さいか、この状況がなんだかわかってるの?」


西香さいか「わたくしとこの子の夜のおデートですわ。プラスおじゃま虫」


衣玖いく「邪魔は西香さいかよ。っていうか、やっぱりわかってないようだから言っとくけど、これは肝試しってやつよ、ね?」


 衣玖いく西香さいかに対してはじっとりとした目で、そしてあの子に対しては輝くような瞳で話しかけている。概ね西香さいかも同様だ。


あの子「うん。西香さいかちゃんも衣玖いくちゃんも幽霊を信じてないもんね、だから一緒に行ってみたいなーって思ってたんだ。」


 衣玖いく西香さいかもニコニコ笑顔で「うん!信じてない!」と言った。


西香さいか「幽霊なんてわたくし見たことありませんもの。一説によれば幽霊というのは人間の気の迷いがそう思わせるだけ、と聞きますわ。全く馬鹿らしい話ですわよ、わたくしのようにしっかりとした芯をもつ人間には見えるわけないものですわね」


衣玖いく「ま、大体同意見ね。ゴーストバスターズ1は好きだけど、話としては非現実的よね。幽霊がいるーなんて言ってる人はこれまでに地球上だけで何人死んだと思ってるのかしらね。もし死んだ人間が幽霊になってるなら私達生者の方が異端になるわよ」


あの子「ふふふ……そうだね……。ねぇ見て、ここがこのへんで一番の心霊スポットなんだって……怖そうだねぇ」


西香さいか「怖そうも何も、暗いだけのトンネルじゃありませんか。ここ歩くだけですの?」


衣玖いく「あぁー、そういえばここネットで話題になってるの見た覚えがあるわね。パリピ共がキャーキャー言ってる不快な動画が上がってたっけ」


あの子「ここをね、静かに抜けるのが肝試しなんだ。二人共、行こう?」


西香さいか「はぁーちょろいちょろい、ですわ」


衣玖いく「ほんと。これならお墓回るほうがまだ雰囲気あるんじゃないの?」


 先導するあの子は続く二人を笑顔で手招きしている。その時、衣玖いくの携帯がピロピロと鳴った。


衣玖いく「あ、待って。ルーから電話だ」


西香さいか「もうーなんですのぉー?置いていかれて拗ねてるんじゃありません?」


衣玖いく「かもね。……はい、もしもしルー?今超盛り上がってるところなんだけど何の用?」


留音るね『何の用ってお前、どこで何してるんだよ?今日の広域公園の花火大会見に行くんだろ?』


 その電話の声は数秒に一度、ザザ、という雑音が入っている。状況が状況なら霊的な干渉が、なんて思う人間もいるだろうが、衣玖いくは冷静にトンネルと林道による電波の影響があるのだろうと分析しながら離している。


衣玖いく「それまでには帰るわよ。用事それだけなら切るけど」


留音るね西香さいかも姿が見えないんだけど、ひょっとしてあいつ死んだ?』


衣玖いく「残念ながら一緒にいるわ。今西香さいかとあの子と一緒に肝試しに来てる。ちょっと歩いたら帰るから」


留音るね『は?』


 留音るねの声は訝しむような音をしていて、気持ちとして「何を言っているんだ?」というものだったが、衣玖いくはそれを「あの子と一緒なんてずるい」という気持ちから出たものだと受け取った。


衣玖いく「残念だったわね、あの子が肝試しに誘ってくれたのは私と西香さいかだけで……』


留音るね『いやいや、パチこいてんじゃねーよ。あの子なら今真凛と一緒に着物の着付けしてるぞ』


衣玖いく「……は?」


留音るね『だからあの子がそっちにいるわけねーじゃん。あ、真凛、着付け終わっ……うわー!さすがこの子の着物はめちゃくちゃ可愛いじゃんかーー!!』


 その留音るねの反応は衣玖いくには想像に容易いモノである。真凛に着付けされたあの子が現れて、留音るねがキラキラの瞳であの子の着物姿に見とれて出る感嘆の声だろう、と。


衣玖いく「ちょ、ちょっと待って。今ルーの目の前にあの子、いるの?」


留音るね『だからさっきからいるって言ってんだろ。ピンクの着物めっちゃ可愛いぞ、妙なことしてないで早く帰ってこいよ?……(ツー、ツー)』


 留音るね衣玖いくの話も聞かずに手早く電話を切ったのは、間違いなくあの子を愛でるためだ。だから間違いなくあの子は、今家にいる。でもそれはおかしい。だってあの子は今、目の前に……。


衣玖いく「ちょっ……えっ?」


 衣玖いくは顔をあげた。さっきまで西香さいかの隣にいたはずのあの子がいない。西香さいかは一人でとぼとぼトンネルの奥へ進んでいっている。


衣玖いく「さ、西香さいかッ」


西香さいか「はい?」


衣玖いく「あの子は……どこ……?」


 トンネルが風の音を反響させ、不気味な深みのある低い音を響かせた。


「はやく おいで」


「ふふふふ……」



「あなたも」





 というわけで、今日は幽霊の日!

 暑い日には怖い話でヒヤヒヤしたいものですが、最近じゃ科学的に論破されまくってるため現実的な幽霊を取り扱うメディアが減ってるんだそうですね。

 でも幽霊ってどこか夢を感じます。早く零の新作出ないかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る