可哀想な女の子

第9話 可哀想な子

『可哀想な子』

 近くを通る女の人やおじさん達は、私に向かっていつもそう言いました。私はまだ小さかったので、何で自分が可哀想なのか、全く分かりませんでした。

 小学4年生になった私は、前よりも少し賢くなりました。大人の言う言葉の意味も、理解出来る様になって来ました。

 私の1日は、お湯を沸かすことから始まります。と言っても、容器に水を入れて電源ボタンを押すだけですけど。

「ありがとう、未来。もう少しでご飯できるから机で待ってて」

 台所から顔を出して話しかけて来たのは、4年前に私のお父さんになった人です。見ず知らずの私を助けてくれて、自分の子供として優しく育ててくれました。

 リビングの机へと向かって、椅子に座ってご飯を待ちます。待っている間は、手で寝癖を直します。でも、私の髪は朝に弱いらしく、なかなか治ってくれません。仕方なく、はねたままの髪で学校に行く事がほとんどです。そうこうしている内に、ご飯が出てきました。

「冷めない内に食べて」

「はーい」

 お父さんは学校に通っていた若い時から自分でご飯を作っていたらしいので、大体の物は作れます。私としてはお父さんの料理は全部美味しいので、何でもいいのですが、夜ご飯はいつも私の食べたいものを聞いてきます。

「いただきまーす」

「はい、どうぞ」

 ちゃんと挨拶をしてからスクランブルエッグを食べます。甘くて少しトロッとした卵が私は大好きです。

 ふと思い出した事があり、私はお父さんに話しかけました。

「幸太ー。来週の土曜日に遠足あるからね。お泊りだから」

「あれ、来週だっけ?」

「そうだよ」

「分かった。何か欲しいものある?」

「ううん。大丈夫だよ」

 用件を済ませて、ご飯を食べ終えたら用意をして学校に行きます。

「幸太ー!行ってきまーす!」

「いってらっしゃい」

 お父さんのことを私は名前で呼びます。最初はお父さんとかパパとか、色々な呼び方をしてみましたが、どれもしっくりこなかったので、お父さんが名前で呼ぶことを提案したのです。

 毎日、学校に行く途中の交差点で、彼は待っています。私の、唯一の友達です。

「おはよう」

「ん」

 仏頂面の彼は、ちょっと幸太と似てるなと思う事があります。でも、彼はやる時はやる人なのだと、私は知っています。

 大人達はたまに、いい意味でとか悪い意味でとか、そういった言葉を使います。なので、ちょっと真似して、私も使ってみることにします。


 私と彼は学校ではとても有名でした。

 悪い意味で。


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