エリート会社員、会う
第4話 エリート会社員、探す
未来を病院に預けてから2日が経った。幸太はいつも通り会社に通っていた。今までと何も変わらない。でも、心の中に霧がかかった様な少しの不安感が幸太の頭の中に渦巻いていた。そんな時だった。不意に幸太の携帯が鳴った。
「はい」
『もしもし?〇〇病院です』
それは、未来が入院している病院からだった。未来の面会が許可されたため、本人の希望もあって来て欲しいとのことだった。
幸太は早速次の日に休暇を取り、面会に行くことにした。大会社とは言え、そんな中で中々の成績を残している幸太は、ある程度の融通なら通された。上司からも少し怖がられていると言うのもあるが。
「お兄さん、こんにちは」
ベッドに座った未来が元気に出迎えた。シャワーも浴びれたのか、髪も艶がある。
「こんにちは、未来ちゃん。具合はどう?」
「大丈夫だよ。病院って苦手だったんだけど、みんな優しくしてくれるの」
「そうか」
頭の中の霧が少し晴れた気がした。そして、幸太は近くにいた医師に話しかけた。
「あの、この子について何か分かりましたか?」
この医師は幸太を見ても怖がる様な素振りは全く見せなかった。過去に行った病院では、怖がられない事など無かったのだが。これからはこの病院に行こうかなと思った。
「そうですね...。なにせ、苗字すら分からないとなると...」
「難しい、ですよね」
「はい。ですので、佐久間さんにちょっと相談がありまして」
「どんなですか」
「見たところ、なかなか未来ちゃんと仲が良いようで。そこで、彼女が何か思い出せるように促して欲しいのです。どんな些細な事でも、親族を見つけられるように」
「...なるほど。自信はあまりありませんが、やってみます」
「よろしくお願いします」
それから幸太は未来の生い立ちについて思い出す事がないか話したが、特に思い出せることはなかった。
「お兄さん」
医師たちがいなくなったタイミングで、こっそりと未来が幸太に話しかけた。
「どうしたの?そんな小声で」
「ほんとはね、私、お家とか苗字とか覚えてるの。でも、それがバレちゃったらお家に返されちゃうんでしょ?」
衝撃が走った。この歳の子が考えるような事ではない。しかも、この子は親に会いたくない訳では無いのだ。自分が親の足枷になっていると本気で信じているのだ。こんな悲しい事があっていいのか。
「未来ちゃん...。悪いけど、それはお医者さん達に言わなきゃいけないんだ」
「なんで?嫌だよ。またあんなお母さん、見たくないよ」
未来は幸太の服にしがみついた。
「でも、大丈夫。大丈夫だから、悲しい顔をしないで。子供は、大人を頼っていいんだから」
未来の不安が消えた訳はない。しかし、幸太はやらなければならない。幸太の直感がそう言っていた。
「あの、先生」
少し経ってから、幸太はあの医師と話していた。
「未来ちゃんの母親の居場所が分かりました。僕、会いに行ってきていいですか」
2人の運命が動き始めた。
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