第3話 エリート会社員、始動
未来は、昔、父親を亡くし、母親の手一つで育てられたという。
「お母さんね、いつもニコニコしてたんだよ。でもね、だんだん何にも喋んなくなってきて...」
聞けば、未来は本来なら幼稚園の年長の歳だった。
「来年から小学生だねって言ってたのに」
「そっか...」
「でもね、私知ってるの。私はお母さんのお荷物だったんだって。テレビで私みたいな子のお母さんが言ってたの。だから、お母さん、重かったんだよ。だから、ちょっと休みたかったの」
なんて優しく、悲しい子だろう。幸太の心はもう保たなかった。
「未来ちゃん、君がこのままここにいたら、未来ちゃんの体が危ないんだよ。だから、一緒にお医者さんの所に行こう。未来ちゃんも疲れたでしょ?」
「...でも」
そう言いかけて、未来は困ったような表情をした。
「大丈夫だよ」
幸太が言った瞬間、未来はその無表情な顔を少しだけ明るくした。
「うん。そうする。あ、おじさんのお名前は?」
「おじさんじゃなくてお兄さんな。幸太だよ。佐久間幸太。幸せって書くんだ」
「ふーん。幸太は何でそんなにつまらなそうな顔をしてるの?」
「...癖なんだよ。それよりも、未来ちゃんは俺の顔見てよく怖がらないね。大人でも怖がられるんだけど」
未来はキョトンとした顔をしている。
「だって、お兄さんは怖いんじゃないもん。お兄さんの顔は、悲しい顔なんだよ。ほら、お名前にも幸せがあるんでしょう?」
「そっか」
そして2人は歩き始めた。
悲しい顔。今まで誰にも言われた事がなかったその言葉に困惑しつつも、幸太の心の奥は、少しだけ暖かくなっていた。
2人は程なくして病院に着いた。
「では、こちらで預かります」
そう言った医師に、幸太は
「あの...この子について分かった事があったら僕に知らせてもらう事って出来るでしょうか」
「...難しいですね。助けたとは言え、一応個人情報ですので。ただ、いつまでも病院にいる訳にも行かないので、引き取り先も決めなければなりません」
「お兄さん、また会える?」
点滴をしながら、若干弱々しい声で未来は言った。
「うん。きっと」
幸太はそう答え、医師に会釈をして家に帰った。
“また会える?”
幸太はある決心をした。
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