第1章 エリート会社員、始動

第1話 エリート会社員、出会う

 自分のデスクに座った幸太は、早速仕事を始めた。パソコンを操作しながら、電話対応をしていく。そっけない話し方だと客から悪い 評判もあれば、正確な対応だったと言う客もいた。すると、目の前のデスクに誰かが座る音がした。

「幸太、おはよっ」

 遅刻ギリギリに出社してきたこのショートカットの女は幸太と同期の立川光たちかわひかりだ。愛嬌に満ち溢れた彼女は、顔つきも整っており、貧乳という彼女自身のコンプレックスを除けば、完璧な女性像と言っても過言ではなかった。また、社内で幸太と会話のできる数少ない人間でもある。

「お前、遅刻ギリギリだぞ」

「いやー、おばあちゃんが階段登るの大変そうでさ〜。荷物持ってたら遅くなっちゃった」

 笑いながら光は言った。

「それで遅れたら本末転倒だろ?」

「もう、少しくらい褒めてくれてもいいのに」

 光はムッと頬を膨らませた。こういう所が男に好かれる理由だろう。

 対して、幸太は光が苦手だった。自分に無いものを全て持っている光が、幸太にはとても眩しいものに見えていた。



 時刻は正午を回り、昼休みになった。大会社なだけあり、3階には大きな社員食堂があり、大抵の社員はそこで昼食を取っていた。幸太も例外ではなく、食堂で飯を食べていた。

「幸太の近くって毎日誰もいないから席探す心配なくて、ありがたいわ〜」

「本当それな」

 そう言いながら横に座ったのは、光と同じく同期の森田晴一もりたせいいちと、五十嵐龍樹いがらしたつきだ。初めてこの2人を見る人は大抵、東京のチャラチャラした大学生という印象を持つ様な見た目だが、これでも会社での成績は優秀だった。

「お前ら、褒めてんのか貶してんのかどっちだ」

 幸太は仏頂面のまま言った。

「嫌だな、奥さん。褒めてるんですよ〜。ねえ、隣の奥さん」

 晴一は、自称チャームポイントの天然パーマの髪をいじりながら返した。

「ええ。そうですとも。隣の奥さん」

 龍樹も晴一に乗っかって言う。龍樹はワックスで前髪を右に上げて流した髪型をしている。もうこうなっては2人のノリを止めることは出来ないと悟ったのか、幸太は黙って食事を続けた。



 仕事が終わってから、幸太は昨日と同じく1つ前の駅で降りた。またあの子がいる様な気がして。

 橋の下を見ると、そこにはあの子の姿は無かった。

(お前は違ったんだな)

 そして、幸太はまた帰り道を歩き始めた。その時だった。

「お兄さんも1人?」

 幸太の後ろから声がした。反射的に振り向くと、そこにはあの子が立っていた。

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