ミライニサチアレ

手田リュウ

プロローグ 佐久間幸太という男

 ジリリリリ......

 佐久間幸太さくまこうたはベッドの中から手を伸ばし、鳴り続ける置き時計を止めた。いつも通り、洗面所で顔を洗い、冷蔵庫から昨晩の余り物を出して朝飯を済ませる。

『近年増加傾向にある捨て子を保護する団体が...』

 テレビを消し、寝室でスーツに着替えてから家を出た。

 駅を乗り継いで約1時間。着いたのは全国でも名の通っている大会社。受付を抜けてエレベーターに乗り込み、5階で降りて真っ直ぐ進む。

「ちょっと!道開けて!」

 先に廊下にいたOLがひそひそと言っているのが聞こえる。

「怖かった〜」

 通り過ぎてからそんな事を言われるのも慣れている。何故なら、佐久間幸太は子供の頃から人相が悪い事で有名だったからだ。この顔のせいで、今まで友達と呼べるのはたった数人しかいなかった。大体の人は一目見ただけで関わりたくないと思っていた。

(俺だって好きでこんな顔になった訳じゃねーよ)

 心の中でそんな事をぼやきながら、幸太は歩いて行った。

 小学生の頃に両親が離婚し、母親に付いて行ったが、その母親もすぐに再婚。幸太の居場所は徐々に消えていき、中学に上がる頃には家族に認識されなくなった(ただ無視されていただけだが)。

 その後は親戚の家を転々とし、高校卒業と同時に一人暮らしを始めた。娯楽を1つも経験していない代償に、成績は常に学年トップを取り続け、特待生として有名大学に進学、今に至る。

 会社に入っても幸太の位置付けはさほど変わらなかった。

‘‘仕事は出来るが愛想もクソもないロボット”

 これが幸太につけられた現在のレッテルだ。幸太の人生は、名前ほど幸せな物でも無かった。

 1日の仕事を終え、同じ帰宅路を帰る。そんな時だった。幸太はいつも降りている駅の1つ前の駅で降りた。意味は特にない。こんなにも些細な事で、現状が変わるかもしれない、そう思ったのかもしれない。


 駅から少し進むと、河川敷に出た。ふと横目で橋の方を見ると、橋の下で小さな女の子が一人で座っていた。小学生くらいだろうか。

「お前も1人なのか」

 ふと呟く。そんな自分が少し嫌だったのか、幸太は走って家まで帰った。しかし、あの少女だけが幸太の頭の中に残り続けていた。

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