魔王さま、モラハラのうたがいがありますっ!

ちびまるフォイ

裁判長、ひとことよろしいですか!?

「もう我慢の限界だ! 訴えますゴブ!!」


ゴブリンは激怒した。

かの傍若無人な魔王の振る舞いに我慢の限界を迎えてしまったのだ。


ゴブリンには政治がわからぬ。

女戦士を辱める事に関しだけは人一倍に敏感であった。

ただし本件にはあまり関係がなかった!


「ということで、被告・魔王。なにか申し立てはあるか?

 あればことごとく却下する」


裁判官は、今もなお彼の帰りを待つ友人セリヌンティウスのためにスピード決着へと促す。


「申し立てはないが……裁判の概要は知る権利があるのではないか。

 世はいまだになにについて訴えられたのかわからぬ」


「これだから加害者は自覚症状がないゴブ!!」


「いや、世は魔王だし……。悪いことを上げたらきりがないのである」


「モラハラゴブ!!!」


「え?」


「モラハラだよ!」

「あ、語尾なくてもしゃべれるのね」


裁判官はじろりと魔王を見下ろした。

本来玉座につくべきは魔王であるが今回は立場が逆転している。これぞ司法分権。


「魔王、配下のゴブリンからはモラハラと訴えられているが?」


「世がいつどこでなにをしたというのだ」


「これを見るゴブ!!」


ゴブリンはスクリーンに映像を投影した。

冒険者があんまりにも訪れないのでプレゼン資料作成能力が以上に高まったのだ。


「これは先日の魔王会議ゴブ」


「ああ、冒険者撃退の」


「見るゴブ! 魔王ときたら、我々に一切の発言をさせていないゴブ!」


「しかし作戦の全容と避難経路は案内しているだろう」


「俺たちも立派な魔王の配下であるというのに、

 まるで捨て駒みたいに扱っているゴブ! これは立派なモラハラゴブ!」


「そ、そうなのか?」

「そうです」


裁判官はうんうんとうなずいた。

合コンの席で裁判官を待つセリヌンティウスを待たせるわけにいかない。


「それだけじゃないゴブ!」

「まだあるのか」


「最近、魔王はダンジョンに入った冒険者を即撃退しているゴブ!!」


「当然だ。そっちのほうが魔王軍の被害が少ないしな」


「俺たちの仕事を奪っているゴブ!!!」

「えええええ……」


魔王は裁判官を見上げた。


「これはモラハラですか?」

「モラハラです」


「せっかく俺たちが準備していたというのに仕事を奪うなんてひどいゴブ!

 魔王が俺たちの仕事を横取りし続けた戦闘記録がこちらゴブ!」


「準備良いな!」


ゴブリンは裁判官に紙束の資料を提出した。

これまでにダンジョンを訪れた冒険者の数と、それに対応した魔王のデータが記載されていた。


「これだけゴブリンの仕事を奪っていたとなると、

 かなり深刻なモラハラですな」


「配下の魔物たちを守っていたとは思われないんですか」


「自分にストレスが与えられるような環境を作ること。

 それがモラハラなんですよ」


裁判官は和紙に「有罪」の文字を書く準備を進める。

セリヌンティウスに好みの女の子をかっさらわれる前に到着しなくては。


「それに、魔王は雑用を俺たちゴブリンにばかり押し付けるゴブ!!

 その依頼の仕方も高圧的ゴブ!! あきらかなモラハラゴブ!!」


「なにを根拠に……」


「魔王の音声も記録しているゴブ!!

 それに、仲間たちで隠し撮りした魔王の行動記録もあるゴブ!!」


「これが事実だとすればモラハラですよ」


裁判官はぎらりと魔王をにらむ。


「どれもこれもモラハラじゃないか……!」


「法は常に弱いものの味方です。

 相手が嫌がる環境を作ることは罪。立派なモラハラです!」


「……わかった。これ以上の反論は魔王としての威厳も保たれぬ」


「「「 やったー!! 勝ったぞ!! 」」」


ゴブリンはついに魔王を敗訴させることに成功した。

ダンジョンの外には「勝訴」の横断幕が掲げられ、訪れる冒険者を困惑させた。


「よかったよかった。これで良いダンジョン職場環境ができるでしょう」


「ときに裁判官。ひとつよいかな?」

「なんでしょう」


「相手が嫌がることをするのがモラハラになるのだな?」


「ええもちろん。やっと理解を示してくれたようで良かったです。

 これからはモラハラを意識して接するようにしてくださいね」


帰り支度を始める裁判官を魔王は引き止めた。



「では、モラハラ裁判の依頼をしてもよいかな?


 実は配下のゴブリンがいつどんなときも

 我の音声や行動を記録するものでストレスを受けているのだ。

 

 これはモラハラになるかな?」




「モラハラですね」


裁判官はセリヌンティウスに合コン不参加を告げた。

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