第23話脱走

神谷と電車に乗り遊園地に向かう。


電車には結構な人がいる。

人混み苦手なんだよな。

遊園地も人多そうだよな。

あ、もう気持ち悪くなってきた。

帰りたい。


「つーか、こんな時間に連れ出してお昼どこで食べるつもりだよ」

「え、遊園地行くんだから遊園地で食べればよくない?」

「やだよ、そういうとこ高いじゃん」


やっぱ女優さんって金持ってんのかね、マンションもオートロックついてる高そうなとこだし。

でも俺みたいな一人暮らしはお金大事。

自炊とかしてるわけでもないしね。


「えー、じゃあ奢ってあげようか?」


奢り、それは使うはずだったお金を使わなくてすむどころか他人から搾取できるとても魅力的な提案。

俺みたいな一人暮らしはお金が大事と言った通りこの提案は本来かなりありがたい。


「だが断る」

「いいからいいから」

「いや、お前絶対奢ってあげたからとか言ってくるだろ。それ嫌だから」

「いいね、私のことわかってきてるね」


えー、その勘違いやだなー。

別にわかってきたとかではないんだよな、そういうことされたくないってことなんだよな。


目的の駅に到着したので電車をおりる。


「じゃあとりあえずお昼食べよっか」


そう言い適当な店に入る。

よかった、高そうな店でもない。

勝手に高そうなとこ入って奢ってあげるっていう展開も回避出来た。


そうして食べ終わり神谷が払おうとしてたが、しっかりと止めて自分の分は自分で払った。

いや、ほんとだからな。奢られてないからな。


食事もすませたので二人で遊園地に向かう。

今回もやっぱり離れて歩かせてくれない。

そろそろ自由になりたい。


「着いたー、遊園地ー。何から乗る?」


神谷が遊園地に着いたすぐにはしゃぎだす。

え、神谷ってこんなはしゃぐ奴だったのか。

こういうとこ来ると舞い上がっちゃう感じの人?

お前、顔帽子で隠してるけどバレたら人集めんだからもっと静かにしろよ。


「まずはやっぱジェットコースターだよね」


勝手に決めて勝手に連れまわされる。

予想通りの展開だ。

これ俺ほんとにいる?

神谷紗菜の休日密着!とかの番組でぼっちが嫌だから無理矢理連れてこられてない?


そう考え周りをキョロキョロ見てみる。

特にカメラマン的な人は見つけられなかった。

最近ってそんな隠れて撮れんの?

撮るならしっかり俺の許可とれよ。あ、事務所NGなんで。


ジェットコースターでは行列ができている。

神谷は楽しそうに並んでるけど俺は辛い。

よくこんなのに並んでるな。

ただでさえ人の集まるとこ苦手なのに何でそんなとこに長いこといなきゃなんないのか。


苦痛に耐えているとようやく俺たちの番になる。

とりあえず行列から抜け出せたのでほっとする。


ジェットコースターは苦手でもないからこんなもんかって感じで終わる。

神谷は楽しそうにしておりもう一回あの列に並ぼうとしている。


「って、ちょっと待て。二回目はいらん」

「えー、楽しかったのに……」


ぶつぶつ文句を言っているがちゃんと別のに行ってくれるようだ。

次は何に連れてかれるんだと思っているとお化け屋敷の前に来ていた。

ジェットコースターとお化け屋敷ってベタなもん選ぶなぁ。


そうじゃない、そんなこと考えてる場合じゃない。

これは回避しなければ。

俺は怖いの苦手なんだ。

別に幽霊とか信じてるわけじゃないがああいう暗闇で驚かされるのは苦手だ。


「待て、神谷。ここはやめとかないか?」

「え、相馬くんお化け怖いの?」

「そういうわけではないが、せっかくこういうとこに来たんだ。もっと楽しめるのにしないか?」

「ここも楽しいし、せっかくって言うならここも入っとかないと」


そう言い無理矢理連れてかれる。

嫌だ、ここはほんと無理。


そんな願いは通じず俺はお化け屋敷に連行されていく。


「怖かったらくっついてもいいからね」

「そんなことは絶対にしない」


いや、ほんとマジで。

こいつにくっつくくらいなら走って出口目指すわ。

そんで神谷置いて一人で帰る。

お、この作戦結構よくね?

わざとビビったふりして走って帰る。

完璧だな。早速やろう。


とりあえずビビったふりだからな、キョロキョロオドオドビクビクしてみる。

そんなことしているとお化け役の女の人にビビらされる。


「……ひっ」


今のはふりではなく本当にビビった声。

いや、怖くないから。ほんと怖くないから。

けどこれで演技とバレづらくなっただろう。

計画は順調に進んでいるな。

次ビビらされたら走って逃げよう。


そう考えているとさっそく怖がらせにきた。

なので怖いから俺は走る。

これで今日は神谷とはおさらばだ。


走ってるしんどさとお化け屋敷の怖さが神谷から離れられる喜びで打ち消される。


怖かったお化け屋敷も無事抜けられた。

このまま遊園地を抜ければ俺の勝ち。


「どこ行くの、相馬くん?」


突然話しかけられびっくりする。

ちょっとお化け屋敷より怖かったかもしれない。


俺がしんどい思いで走ってるのに神谷は平然と並走している。

そういやこいつ足早かったな。

これは無理だなと諦める。


「ちょっと帰ろうかと」

「まだ来たばっかだよ」


いや、ジェットコースターとお化け屋敷でもう十分だろ。

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