第17話期待

あれから放課後になり帰る準備をする。


神谷は落ち込んだように俯いている時間が多かった。

それを見てクラスメイト達は話しかけづらくなったのか神谷(ついでに俺)の周りに人が集まることはなかった。

まぁ蓮くんはそういうの気にせずはっきり言ってきたけど。

大半は俺に対してのどうせお前のせいだろというような批難の視線を向けてきている。

俺のせいと言えなくもないがこれは神谷の自業自得だ。

だからその視線やめよ?

それ陰口と同じようなもんだよ?


こんな状況で弁当のことは無理だよな。

なんとなくだけど神谷は俺から話しかけてくるのを待っているような気がする。

俺から話しかけてもらうことで機嫌を直し仲直りって考えなんだろう。

それなら余計話しかけるわけにはいかない。

弁当は申し訳ないが自分で洗ってもらおう。


そう考え教室を出て帰り始める。


神谷がああなった事だし俺はこれでまた一人に戻れるだろう。

この数日だけでだいぶ疲労が溜まった。

今までの生活とは180度違った生活だったのだから当然だ。


人と関わらないと決めて誰とも関わらなかった俺が何故かあれほど神谷といたのだ。

引きこもりが突然部屋から出たのと同じようなものだと思う。

引きこもりになったことないから知らんけど。


やっぱり一人は落ち着く。

他人といると嘘や騙し、裏切りといった不安が押し寄せてくる。

そんなものに心を奪われているのでは落ち着くことなどできるわけがない。


俺の安寧は孤独の中にしかないのだろう。

この生活に舞い戻ることができた幸せを噛み締めながら夜を過ごす。




次の日、学校に行くと神谷が先に席に着いていた。

昨日最後に見たのと同じ雰囲気のままだ。

それでも俺が来たことに気づいてるようでこちらを気にしている様子を見せている。


これも演技なのだろうか。

わざとらしさをあまり感じない。

いや、わざとらしさをあまり感じないからこそ演技ではない神谷らしさというものなのだろうか。


まぁどっちでも俺には関係ないな。

もう神谷と関わることはない。

それを蓮くんやクラスメイト達にわかってもらえれば俺は晴れて完全に一人になれる。


なんなら今日を終えれば休日だ。

休みを挟むことによって俺への興味がなくなることだろう。

神谷が休日に俺に対する興味が一時の気の迷いであることに気づくだけでいい。

そうすれば神谷から話しかけてくることもなくなるはず。


俺は今から来週からの生活に心躍らせる。

まぁ今も似たようなものだが、まだ神谷が俺に話しかけてくるかもしれない。

俺への興味が薄れるまでは気を抜くわけにはいかない。


とりあえず今日は神谷に細心の注意を払っておこう。

これで最後になると思うとそんなことだろうと頑張れる。


俺の穏やかな生活を取り戻す。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る