第15話弁当

あの後神谷はついてこなかった。

諦めてくれたようだ。

まぁこの後があるからってことだろうな。

嫌だなぁ、時止まんないかなぁ。


昼休みになりどうせついてくるだろうと考え神谷を置いて早々と教室を出る。


「ちょっと待ってよ、なんで先行くの?」


神谷が追いついてきてそんなことを行ってきた。

なんでって言われてもね、追いつかれなかったら話さなくていいかなって思ってたからだけど言ったら怒られるよな。


「クラスの奴らに囲まれたくないから」

「それでも一緒に行けばいいじゃんか」

「いや、一緒とかまためんどいことになるだろ」


あれでも大変なのにそれ以上抱えさせられても困るんだよな。

こいつトラブルメーカーな自覚あんのかな。


「今度からはちゃんと一緒に行くからね」


え、今度とかあんの?

まさかこいつ俺の胃袋を掴めると思ってないよな。

果たして市販の弁当ばかり食べてる俺を満足させられるかな。


「ところで教室出たけどどこで食べるの?」

「そんなの人がいないところに決まってんだろ」


話したくないことは誰かに聞かれたくないだろ。

ただでさえこの人気女優さん注目集めるんだから。


「じゃあ屋上とか?」

「はっ、それはドラマの情報か? 現実の屋上はたまり場だ」


ドラマでは屋上とかは秘密を打ち明けるときなどに丁度よく誰もいないなんてことがあるが実際にはそんなことは起きない。

現実はリア充みたいなやかましい奴らがたむろしてんだよ。

それ全部追い払えるなら行くよ。


「えー、じゃあどこ?」

「校舎裏」



ってな訳で来ました、いつもの場所に。

俺のベストプレイスにして俺一人だけの場所。

まぁもう神谷連れてきたから俺だけの場所じゃなくなったんですけど。


「へー、ここいいね。風が吹いてて涼しいし全然人いないね」

「まぁな、俺が去年探したからな」

「……探してまで一人になりたいの?」


もうその話すんの?

お腹空いたんだけど。


「まず弁当食べない?」

「そうだね、はい弁当。結構自信あるから」


そう言い二つあるうちの一つを渡してきた。

自信はあるようだがどうせ女優だから周りが色々してくれて料理することないんだろう。

俺の辛口コメントをくらうがいい。


弁当を開けてみると唐揚げや卵焼きなどのおかずとご飯が入っている。

まず見た目でおかしなところはないようだ。

まぁそこは評価しておいてやろう。


問題は味だ。

味が悪ければ見た目がどれだけ良くても食べる気にならない。

ゲームや漫画でパッケージや表紙がいいが内容が薄っぺらなクソつまらんものに当たったことがあれば分かるだろう。

それの評価は見た目が良くても最低点になる。


さぁ、味わわせてもらおうか。


食べたと思ったか、まだだ。

万が一俺の舌が耐えきれないほどの代物だとしたらと考えると少し怯んでしまったようだ。

やるじゃないか、神谷。


「そんな弁当じっと見てないで早く食べなよ」


そう言いながら神谷が自分の弁当を食べている。


え、もしかしてこれ普通に食べれんの?

なんだよ、じゃあさっきまでの茶番じゃん。

……恥ずかし、穴があったら弁当食べてから入りてぇ。


味も大丈夫なようなので食べてみることにする。

まずは唐揚げから食べる。

うまい、冷めているはずなのにジューシーさがある。

ひと手間かかっているんだろうな。


「……どう?」


すこし自信なさげに聞いてくる。

さっきまでの自信はどこに行ったのやら。


感想を求められたがここで素直に答えると神谷が調子に乗るだろう。

だから俺はうまいとは伝えるが比べる物を低くする。


「冷食のよりうまいな」

「……そう言われると素直に喜べない」

「って言われても手作りとかずっと食べてないから冷食とかでしか比べれないんだよ」


俺が一人で過ごしだしてから自炊なんてしてないからな。

自分一人のために作って食べるってやる気出ないよな。


「自炊しないと体調悪くなるよ?」


ほんとなんで俺こんな元気なんだろうか。


「でも作ったことないからな」

「じゃあ今度から作ってあげようか?」

「遠慮しとく。弁当はうまいけどそんな簡単に俺のパーソナルスペース侵入されても困る」

「あーまたそういうこと言う。そろそろ理由教えてもらうよ」


……やっぱり話さないとダメだよな。

これからどうなるのか不安しかない。

弁当食べたら穴に入るつもりだったのに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る