第13話相談

さっきの休み時間に逃げることを決めた俺は今が菅谷先生の授業であることをひそかに喜んでいるのだ。

菅谷先生は意外と理解ある先生なので適当な理由で先生についていくことができるだろう。


とりあえず授業は真面目にうけておかないとな。

なになに、複素数はiでiは二つでマイナス1になると。

i(愛)は一つでは意味がなく二つで完成すると。

でもそのi(愛)マイナスだからいらないな。


i(愛)について学ぶことができ必要がないことを再確認でき満足していると授業が終わる。


蓮くん達が来ようとする前に急いで菅谷先生のところに行く。

結局蓮くんの名字ってなんなんだろうな。


「菅谷先生ちょっといいですか?」

「相馬か、話なら歩きながらでいいか?」

「そうですね」


そうして俺らは教室を出て廊下を歩く。

ふっ、こんな簡単なミッションもそうそうないな。


「で、話はなんだ?」


あー、何の話するか考えてなかったな。

話さないと教室に返される?


「クラスメイトから逃げるのが目的だったんだろ」


あらま、バレてるわ。

まぁバレてて問題ないというかその方が話は早いんだけど。

意外と生徒のこと見てんだよな、この先生。


「そうなんですよ、俺が神谷を脅してるって思われてて。信用ないらしいんですよ」

「それはお前の普段の態度のせいだと思うが」


そんな脅すほどの極悪っぽい態度してるのか?

一体いつのことだ、全然わからん。


「お前が仲良くなれば解決する問題じゃないか?」

「嫌ですね。俺は誰とも仲良くなりたくないので」

「神谷とは仲良いだろ」

「どこがですか。あいつが勝手にしてるだけですよ」

「それ神谷一人で置いてきてていいのか?」

「ちょっ、それ先に言ってくださいよ」

「まぁ後ろについてきてるんだが」

「は?」


そうして後ろを振り向くと堂々と神谷がついてきていた。

尾行ならちょっと隠れるとかしないわけ?

なんでそんな堂々としてるんですかね。

つーかなんでついてきてるんですかね。


「相馬くん全然気づかないんだね」

「あんな堂々としてるの普通気づくだろうに」


二人から呆れたセリフを吐かれた。

尾行ってそんな警戒するもん?

ストーカーとかある神谷ならまだしも菅谷先生はまだ20代だけどもうすぐおっさんなんだから経験ないでしょ。


「なんで俺がおかしいみたいに言われなきゃいけないんですか。ストーカーする側が悪いんでしょ?」

「悪いとかじゃなく無警戒だなって話だ」


俺の警戒心がなけりゃ今頃クラスで大変な目にあってるはずなんだが。


「後のことは神谷と教室戻りながら話せ」


いつのまにか辿り着いた職員室に菅谷先生が入っていく。


「だってさ。なんの話する?」

「なんの話もしない」

「じゃあなんで相馬くんは誰とも仲良くしようとしないの?」

「話さないって言ったよな?」

「話しながらの方が楽しいよ?」

「楽しくなれる話題じゃなかったように感じるんだが」

「えー、相馬くんのこと知れて楽しいよ」

「それ俺の楽しさないよな?」

「じゃあ私のことも話してあげようか?」

「えー、脅しのネタはいらない」

「そんなのないよ」


神谷は楽しそうに会話をしている。

他のやつともこうなら俺の苦労はないんだけどな。


「なぁ神谷、なんで俺以外とは友達になんねぇの?」

「相馬くんなんとなく気づいてるんじゃない?」


俺が感づいてるのは女優として崇められていて普通として扱われないってことだな。

少し距離の空いた接し方されてるように感じていた。


「普通の学生として扱われたいってことか?」

「そ、やっぱり相馬くんはわかってるんだ」


気にしてないように笑っている。

けど本当に気にしてないなら既に沢山友達ができてんだよな。

人気者として扱われるのが嫌なタイプってことか。


「だったらなんで俺に演技してくんだよ」

「友達と自分の好きなこと共有したくない?」

「なのに女優は嫌なのかよ」

「女優は特別扱いされるから嫌」


つまり演技は趣味の話だからいいけど女優は普通の学生らしくないから嫌ってことか?

それなら女優になるなよ。


「あいつらと友達になれないってのはなんとなくわかったよ」

「だから相馬くんが友達になってくれないと私友達0人だよ」


友達0人いいじゃないか。

それ目指してる俺にお願いしてきても困るんだよな。


「俺もお前のこと女優だと思ってるけど?」

「でも女優としては扱われないから」


そこで教室の側まできてることに気がつく。

一緒に行くのはまずいだろうから神谷に先に行かそうと考えた。


「神谷お前先教室戻れ」

「えー、一緒でもいいと思うけど」

「ダメに決まってんだろ」

「じゃあ先行くけどちゃんと相馬くんが友達作らない理由教えてもらうからね」

「は? なんで?」

「だって私のこと教えたでしょ」


そう言い神谷は先に教室に向かった。


くそ、そういやそんな話になってたな。

こいつに上手いこと操られたのが腹立つわ。

この関係性でどうやったら俺が脅してることになんだよ。


……はぁ、俺も教室いかねぇとな。

重たい足取りで教室へ向かうのであった。

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