第6話図書委員

「でね、演技はね――」


先ほど跳ねのけたはずの神谷が平然と俺の横を歩き演技の素晴らしさについて説いてくる。

興味がないって言ったのに。

適当に聞き流しておく。


「――という感じでね、演技でやった役も新しい私になるの。すごいよね」


語り終えたようだ。

これでおさらばかな。


「ねえ、ちゃんと聞いてた?」


あ、まだ続きます?

もう結構なんです。お腹いっぱいだわ。

購買向かってるけどお昼いらないんじゃない?


「聞いてなかった。興味ないって言ったろ」

「もう、聞いてみないと興味出るかわかんないでしょ」

「興味出なくていいんだよ。俺とは全く関わり合いのない世界だ」

「そうかな? 誰でもできると思うけど。さっきも言ったけど今までの自分に仮面をつけるから自分が全く違う自分になるの。だから今の自分がどうとか考える必要がないんだ」

「それでも俺がする気ないから関係ない」


今の自分を捨てれば偽物になれる。

そう言われてなりたいと思うわけがない。

そんなのはただの逃げだ。


「あれ? 学食じゃないの?」


そんな会話をしていたら学食の前まで来ていたようだ。

ちなみに購買は学食のあるところからさらに奥にある。


「俺はいつも購買だ」

「そうなんだ。じゃあ今日は学食にして一緒に食べよ。ね? まだ話終わってないし」

「その話に俺は興味がない」

「ふーん、時間も少ないから今日のところはそういうことにしといてあげる」


解放してくれるようだ。

疲れた。学食に連れていかれなくてよかった。

これ以上は興味もない演技の話聞かされ続けるのはしんどい。

家でいたら宗教の勧誘で突然宗教の話聞かされるようなもんだな。


購買でパン買って校舎裏の一人になれるとこ行こ。




 × × ×




それから放課後までは特に何もなかったのだが、放課後さっそく委員会での集まりがあるとのことで神谷と一緒に行くことになった。


「ね、図書委員って何するか知ってる?」

「知ってる」

「ほんと? 教えてよ」

「本整理と貸し出しの受付。それ以外はほとんどすることないな」

「あードラマとかでもそんな感じだね」

「実際は本の処分と追加なんかもあるけどそれは先生と図書委員長がするから関係ないってだけだ」

「詳しいね、なんでそんな知ってるの?」

「去年も図書委員だっただけだ」

「そっか、経験者なんだ。頼りにしてるよ」

「仕事ってのは上司の仕事を部下が奪っていくもんだ、新人」


長い会話をしているとやっと図書室にたどり着いた。

意外と教室から遠いんだよな。


扉を開けて中に入るとあらかた人が集まってるように見える。

俺らは途中神谷が道間違えたりしたから遅い方だろう。

なんで転校生のくせに素直についてこないんだよ。


「神谷紗菜だ」

「転校してきたって噂ほんとだったんだ」

「すごい綺麗だ」

「話しかけてもいいのか?」


神谷が入った途端ざわざわと図書室には似合わない喧噪が巻き起こる。

やはり神谷の人気は絶大のようだ。

他学年の人が初めて見て興奮している。

一応俺隣にいるんですけどね。気づいてます?


人気女優に何をどう話しかければいいのか悩んでるようだ。


人気女優だからって特別視する必要はない。

普通に話しかければいい。


あれ? さっき俺もしかしなくても神谷と普通に話してました?

普通に話しかければいいといっても俺は誰とも関わる気ないから当てはまらないんだけど。

恐るべし人気女優。


「全員集まったようね。じゃあ図書委員の仕事について話します」


いつの間にか集まっていたようで図書担当の文月ふみづき先生が仕切り始める。

仕事の内容は先ほど神谷に話した内容と同じだ。

隣から「相馬くんの言ったまんまだね」と小さい声で言われた。


仕事内容を話し終えると次に図書委員長を決めることになった。

これは毎年三年生がしているらしいので俺達には関係なく三年生達で話し合ってる。

これも去年と同じだ。来年も図書委員になるとしても委員長にはなりたくないな。


「残りはクラスごとの日程を決めれば終わりね。委員長お願い」


先生が委員長に頼んだと言っているがこれも簡単に決まる。

うちの学校は各学年五クラスあるので一学年が一週間毎に交代する。

そして一週間の内どの曜日を担当するかをクラス毎に決めるという感じだ。


なので俺らは二年の集まりに参加して話し合う。


「どうする?」

「やりたい曜日ある人いる?」

「神谷さん忙しいんじゃない?」

「神谷さん先決めていいよ」


そう言われて神谷は困りながら俺の方をチラッと見てくる。

好きにしたらいいと言おうとしたのだが他の奴に先に喋られる。


「神谷さん仕事週ごとに空いてる曜日違うんじゃない?」

「そうか、じゃあ神谷さん以外で決めて神谷さんの空いてる曜日で交代したらいいんだ」


神谷に意見を聞いていたはずなのに神谷の意見を聞かずに勝手に話を進めてる。

少しイラっとする。

こいつは転校してきた日の自己紹介で普通の学生と言っていた。

それはこんな女優だからと特別扱いされることを望んでいないということだ。


なんで神谷は喋らない。

お前が一言喋るだけでこの問題は解決するのに。


「神谷、俺はいつでも行けるが、お前は何曜が空いてる」


だから俺は普段しないであろう人助けというものをしてしまう。

これが本当に神谷の人助けになるかはわからない。

神谷が普通の学生生活を望んでるかどうかも、俺の意見を聞こうとしていたのかも。

それは神谷だけが知っていることだ。


「君、神谷さんと同じクラスの人?」

「あ、ああ、そうだが?」

「彼女は人気女優だから僕らが合わしてあげないといけないんだ。君もいつでも大丈夫なら神谷さんに合わしてあげないと」


合わそうとしてるからさっきいつがいいか聞いたんだが。

こいつら話聞いてるのか?

神谷の意見を聞いてないのに何で分かった風に喋ってるんだ。

神谷はまだこの場で一言も喋ってないんだぞ。


俺が苛立ったまま反論しようとしていると


「あ、あの、今スケジュール確認したら木曜が空いてます」


神谷が携帯を持ったまま慌てて声を出したようだ。

俺が聞いた辺りから携帯を触りだしていたみたいだが自分の予定を確認していたようだ。

慌てすぎて敬語になっていて俺の毒気が抜かれた。


「じゃあ俺らの希望は木曜だ」

「そうみたいだね。あとは僕たちが決めれば終わりだね」


そう言い話し合いを始める。

その話し合いも神谷のことがないのですぐに終わる。

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