第5話二度目の演技

授業は初日ということもあり、今後の授業内容を話してその後雑談する先生がほとんどだった。

とても楽だ。毎日がこれなら皆学校休みたいなんて思わないんじゃないか?

……いや、思うか。家でしたいこととかあるし外で遊びたいもんな。


授業は楽だったが、休み時間が辛かった。

毎回休み時間が始まると神谷の周りに人が集まってきていた。

うちのクラスだけでなく他のクラスからもだ。

なので俺はいつも逃げるように廊下に出ていた。回数が増えるほどその速さも増していた。

最初のころは神谷が何か話しかけようとしていたが無視した。


そしてやっと昼休みである。

さて、購買にでも行きますか。

そう思い席を立つ。


「あ、ちょっと……」


話しかけられそうだったが急いで離れて無視する。


「神谷さん一緒にお昼食べない?」


何人かの女子たちが神谷に向かってそう問いかける。


「あ、ごめんね。お昼はちょっと用事があって」


ふーん、用事あるんだ。

だったらなんで俺に話しかけようとしてたんかね。

どうでもいいか。


さーて、今日は購買で何買おうかな。

そんなことを考えながら一人で購買に向かっていると


「ね、ねぇ。相馬くん、待ってよ」


後ろからか弱そうな女の子に話しかけられる。

振り向くとそこには神谷が立っていた。


「あ、あのね。一緒にお昼食べようと……思ったんだけど」


髪をいじりながら落ち着きない雰囲気で喋っている。

最後の方はだんだん声が小さくなっていた。


また教室での神谷とは違っている。

教室での神谷はこんなにもか弱そうでも落ち着きがないわけでもない。

クラスメイト達への対応も落ち着いていてはっきりと答えている。


神谷は三重人格か?

さすがにそれは俺にはどうしようもない。

そう思い立ち去ろうとしたが。


「あ、ま、待って。……ひっ」


そう言いながら俺の手を取ってきた。

少しうっとうしいなと思い軽く睨んでしまいビビったようだ。


「何の用だ」

「あ、えっと、お昼……」

「その態度もうっとうしいんだよ」


髪をいじりながらおどおどしており目線が合わない。

この態度をやめて普段の態度に戻れないのかということを言おうとしたが思ったより言葉が強くなってしまった。


「そう言うなら教室でも話してくれればいいのに」

「すぐ戻れるなら変なことするな」

「普通に話しかけても相馬くん話してくれないじゃん」

「昨日のも今日のも普通じゃないならあれはなんのつもりだ」

「あれね、あれは演技」

「……は?」


今なんて言った? 演技?

なんでそんなことする必要がある。

散々ドラマでやってるんじゃないのか?

見せるにしてもクラスの奴らでいいはず。

わざわざ俺にそんなことしてくる理由がわからん。


「相馬くん普通に話しかけても反応してくれないから、演技で話しかけてみればどうだろって思ったの」


なんでそう思うんだよ。普通もう話しかけないか最悪嫌いになるだろ。

演技ならいけるって思うか? 人気女優さんの頭ぶっ飛んでるよ。

……でもそれで実際話しちゃってるから正しいのか?


「演技ってね、すごいんだよ。私なんだけど私じゃないの。仮面を被って知らない私になれるの。嘘の私が。偽物の私が出てくるの」


嘘で偽物、それは俺の嫌ってる人間関係と同じ。……でも違っている。

俺の嫌いなものは嘘を隠して上っ面の偽物の関係だ。

演技は神谷自体は嘘で偽物かもしれないがそれを隠すことなく当たり前かのようにさらけ出している。まるで本物のように。

それは俺の嫌っているものとは似ているようでまるで違っている。


だが決して本物であるとは言えないだろう。

結局は作られたもの。仮面だ。


例えばドラマならマイナスとマイナスをかければプラスになるように、偽物と偽物で一つの本物の世界を作ることができるのだろう。


それでも先ほどまでの神谷は一人で演技をしていた。

つまり神谷は本物のようであっても仮面を被り偽りで話しかけてきているということだ。


「だからなんだよ? 他人に嘘ついてそんなに楽しいか?」

「んー、ちゃんと伝わってないのかな? そういうことじゃなくてね……」

「いい、興味がない」


それだけ伝えると足早に購買に向かう。

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