No.3 未知との遭遇



 未知とは何だろう?

 例えば、幽霊や怪異、妖怪の類。

 ここでは、彼らが存在するかの有無は無視するとして。

 彼らも言わば、未知の存在であり、だからこそ恐れられていて、愛されているんだと思う訳です。

 幽霊が、実は世界輪廻システムという世界構造に起きたバグでしたとか。

 怪異は、人間の深層心理だとか。

 妖怪って、お菓子業界の陰謀ですとか。

 他にも、明日、未来、次の瞬間……。他者、家族、自分でさえも。

 人生は、見え隠れする未知とともにあると思うのです。

 彼女も一つ。

 というのは、彼女という二文字が、三人称だからじゃなくて。もっと、本質的に。

 彼女は、未知の塊である。

 その誕生から、その存在。まして、どんな能力なのかも分からない。

 何故なら彼女は、ここ、17戦目に至るまでの1戦で、一切能力を使わずに勝っているからだ。

 戦車チャリオッツとの一戦。

 もちろん、相手は使った。全力を尽くした。

 けれどこのゲームは、能力を使うことや、物理的にねじ伏せることが勝利ではないから。

 詭弁を通せばいいのだから。

 彼女は、この出場者の中でも、一目置かれる存在となっていた。



 * * *


 「私は今、とても幸せです」

 彼女は、希望溢れる笑顔で言った。

 彼女の声は、福音と呼んでも罰が当たらないくらいに、美しい。

 金色になびく髪は、肩まで伸びていて、白い肌は透き通ってしまいそう。

 天使、女神。

 清楚な姿は、そう形容せざるを得ない。

 希望に満ちた表現しか、出て来ない……。

 「だって、貴方という素晴らしい対戦相手と巡り合い、こうしてしのぎを削ろうとしている。私って幸せですよね、ああ、何て素晴らしい」

 そう言いながら、彼女は手を差し伸べて言う。

 「貴方も、そう思いません?」

 「……」

 心から、そう言っていることが分かる。

 蒼眼が、何者かを映した。

 ソイツは、ニコリともせずに、彼女の一挙動一挙動を見極めている。

 何て、無愛想な奴なんだろう。

 「……」

 白い布を器用に重ねて、衣服の様に身にまとう女。

 白い肌と、深い黒目。

 「……」

 2人は今、とある町の遊園地の、メリーゴーランドに乗っている。

 愉快な音楽と、女の声だけが響く空間。

 彼女たちは、しばし馬に揺られていたんだけれど。 

 「戦おう」

 未知のメフィスト、女は言った。

 数頭後ろに、楽しそうに馬を乗りこなす、乙女がいる。

 「ええ、そうですね。私としては、もっと乗っていたかったんだけれど。

 それも、仕方ない。戦うのも、楽しそうですよね。

 分かっています、分かっています」

 あわわわ、不器用にも乙女は転がり落ちる。

 「……」

 大丈夫だろうか? 女は、密かに思った。

 「いててて。私、ドジっ子でして」

 頭を摩りながら、彼女は笑う。

 女も馬から、華麗に飛び降りる。スタッ、格好良く決まっている。

 2人は向かい合う。

 という意味の捉え方、この構図でも明らかだった。

 乙女は満面の笑みで、まるで遊園地に遊びにでも来たみたい。

 女は、その無表情の中に、確たる殺気をよどませている。

 

  17戦目/女帝vs星

 『ある意味、未知である。トリックスターな、まあ、乙女のほうはスターなんだけど、そんな2人が。今ぶつかり合う……』


 では、私の合図でスタートです。

 「よーい……」

 乙女は大きく息を吸って、身をかがませて、力を入れる。

 一方の女は、何もしない。ただ、立つ。

 この2人が戦うとして、体格的に見れば、乙女は明らかに不利だった。女は乙女よりも、頭一個分背が高く、肉付きもいい。

 乙女に勝機はあるのか。

 それとも、ここまで勝ち上がってきたからには、強力な能力があるのか?

 ドンッ……!!

 その合図は、女から離れていった。

 あまりに一瞬なことで、女は面食らって怯む形となった。

 その隙に、乙女は走る。走る、走る……。

 女を置いて一直線に、ただ走り去っていく。

 そう、彼女のあの姿勢は、相手に一撃を入れるものではなくて、一目散に逃げるための走者の姿勢だった。

 女は思った。

 さあ、どうしたものだろうか。

 そう、今は無き彼の言葉を借りるなら。

 「人間は、腕だけが力か? いいや……」これは、そういうゲームじゃない。

 女は先程、乙女がとった姿勢を真似してみる。

 こんなものだろうか?

 それは非常によく再現出来てはいたんだけれども。女の体格では、プロの陸上選手にも劣らない覇気が感じられた。

 「いくか」

 ダンッ、そんな爆音が出るほど、彼女は強く足を踏み込んだ。

 2人は今、鬼ごっこの様な形になる。

 

 * * *


 ここまでは良い。

 とても楽しい。

 だが、ここから私はどうすればいいんだろうか?

 はあ、ハア、ハア。

 流石にその小さな体では、10分も走っているとキツイ。

 体中から汗が出て、息が切れる。口は渇き、喉は張り付いてしまいそう。おままけに、視線もふらふらしてくる。

 結構、危機的な状況。

 しかし、彼女は笑顔を忘れない。しかも、心の底から楽しんでいるらしい。

 彼女がこの10分間、うまく遊園地の中を逃げ続けられた理由。

 それは、この笑顔や前向きな心、そして足音を隠してくれる愉快な音、音、音だ。

 人間は、笑顔で走ると少し速く走れるらしい。

 そんな大差では、ないだろうけど。

 しかし、もう限界らしかった。

 「どこか、休める場所は無いのかしら?」

 ふらふらする視線で、ふわふわ辺りを見回して。

 「これだ!」

 というものに、彼女は出会えた。迷う様子無く、一目散に入っていく。

 外から3回ぐらいの高さまで続く、非常階段みたいな階段を、彼女は駆け上がる。

 「もう少し、もう少しよ!」

 あと一歩、あと一段というところで。

 乙女はふと、自分が上がってきた階段を見下ろして、それから下の道を見て。

 絶望した、訳ではないが。

 希望に燃えた、ハラハラした。

 「やっと、見つけた」

 女はそう言った。

 相変わらずの無表情、そして彼女に、10分間の疲れは見えなかった。

 「追いかける……」

 「わー、見つかっちゃった……」

 けれどね。

 乙女は前を向き直し、階段の先にあった駅のホームみたいな平地に出る。

 「では、お先に失礼!」

 シートベルトを着用、安全バーを降ろして……。

 スカスカな乗車口を離れる。

 ジェットコースターは、乙女だけを乗せて、ゆっくりと加速していった。

 乙女は両手を上にあげて、右に左に、上に下にと振り回される。

 シューンッつ、ひゃぁー。

 凄いスピード感と、横を流れ去っていく景色たち。

 クルクル回って、空気を切って。

 ヒュンヒュン走って、坂の前で止まる。急傾斜の先に、一番の目玉である、急降下スポットがあった。

 「楽しいわ、ほんと。彼女は、今頃何をしているのでしょうかね」

 乗車口で待ち構える、そんなイメージがよぎる。

 あれ、だとしてどうすれば? まあ、何とかなるでしょう。

 そんなことを呑気に思っていた矢先。

 「やっと、追いついた」

 頂点まであと数秒、そこで乙女は振り向いた。

 電車1両分ぐらいのコースター、その一番後ろ。より少し後ろ。

 女は走ってきていた。

 上っているのではない、走っているのだ。本当は、ありえない。何故なら今この機は60度くらい急斜面を上っているのだから。

 座っている乙女でさえ、ベルトが無ければ落ちてしまいそうなくらいに、のけ反っている。のに……。

 彼女はその長急こう配を、走っている。レールと直角になるように、ただ力強く、走ってきているではないか。

 また、乙女は希望に燃えてくる。絶望は、しない。

 「面白い、素晴らしい。貴方の能力、気になりますね」

 そんなに余裕だったのは、乙女がそんな気質だったのと。もう、コースターは斜面を上がり終えていて、余韻を楽しむ時間だったから。

 ガタンッ、それがこの2人を、一気に離す。

 きゃー、きゃーー。うわあああ。

 とにかく声が上がる、舌を噛みそうになる。

 ビュンビュン、風が髪をかき混ぜて、頬を伝っていく。背骨のようなパイプ状のレールは、そのまま地面に突き刺さってしまいそうなくらい、地面ギリギリを攻めていた。

 楽しい、ただただ楽しい。

 乙女に後ろを振り向く余裕は無かったけれど。

 もう一つの風が、というより音が。

 ガタガタガタガタ、ビュンビュンビュン。これらは、コースターの走る音。

 じゃあ、ダンダンダンッ、シューシューッ。これは?

 乙女は、驚きの笑みを浮かべて言う。

 後ろは振り向かないけれど。

 「素晴らしいですね……。ひゃー、それが貴方のー。能力ー? 何ですよね……。このままじゃあー。わたしーー、捕まっちゃいますよねーー」

 「ああ」

 女はペースを上げて、コースターの後部座席に手をかける。捉えた。

 そのまま、ガッチリと掴み、コースターに乗り込もうと……。

 ガタンッ、突如強い振動に、振り解かれそうになる。ガッシリ掴んでおいたのが良かった。でなければ、空高く飛ばされていただろう。

 コースターが、降下しきったのだった。

 とはいえ、ペースが下がる訳がなく。そのまま、前より緩い上り坂を駆け上り、また下がり、そして上がり。

 今度は、ラストの直線を狙って……。

 女は、その体躯をうまくコースターに滑り込ませると、次の座席、次、次と。最前列の彼女に、近づいていく。

 「まったく、何がしたかったのか」

 女は分からなかった。戦う、ルールは人それぞれだけれど、これじゃあ子供のたわむれではないか。

 危険性を無視すればの話。

 乗車口に辿り着くとき、女も最前列に辿り着いた。そして、ベルトを掴む。

 乱暴に振り解かれたとみられるベルトは、伸びきっていて使い物にならない。

 乙女は……?

 女ははっと、そのコースターを降りてから気付いた。

 彼女は、子供のようなものだ。見た目こそ、10代後半ぐらいなのに、あの動作の一つ一つを見る限り、その行動には無知ゆえの勇気の様なものがあった。

 冒険家のような、決断力と解決力。

 それが先程、まさに逃げ場のない環境で、真に発揮されたのだとしたら。

 「また、溜め直さなければ……」

 乗車口を、女はゆっくりと後にする。階段を降りていく。それは鷹さゆえに、時間がかかることだった。

 やっと、下に着いて。

 平地で、直線的な街道まで降りて、やっと走り出した。けれどその速さは、先程のような神速ではなく、ジョギングと言った方が良いものだった。


 * * *


 上手くいった。

 そう彼女は、乙女は笑っていた。

 「ああ、危なかったわ。捕まってしまったら、私勝てる気がしませんもの」

 本当に危なかったはずなのに、そんな雰囲気を一切感じさせないのは、もはや彼女の強さだった。

 もしかしたら、それが彼女の能力プルーフなのかもしれない。

 絶対に、希望を捨てない能力。

 それはいわば精神論だが、それゆえに強い。人間の行動をつかさどっているのは、その精神なのだから。

 でなければ、降下するジェットコースターから飛び降りて、レール下にひかれた水にダイブするなんて離れ業、絶対に出来ないだろう。

 彼女はそれを、一瞬で判断し、やってのけたのだ。

 体は寒いが。頭も衝撃で、グワングワンしているが。

 私は確かに、生きている。

 そしてまた、次のアトラクションに乗り込んでいた。

 ベルト、安全バー。それを取り付けて、彼女は足をバタバタと持て余している。というのも、今度の乗り物は、足から下を固定されていないからだ。

 上下動するドーナッツ状のそれは、今、動こうとしていた。

 フリーフォール。

 きっと、スタッフさんがいたのであれば、止められたであろう少女だが、今はもう、2人しかいない。

 愉快な音楽が流れ出した。

 それをBGMに、機体は上昇を始める。期待もうなぎ上りである。

 一階分くらいの高さまで来て、彼女は見つけた。

 見つめあった、視線が合ったのだ。

 「ふう、今度は逃がさないぞ……」

 女は先程の神速で、地面をけってこちらに迫る。

 その姿はさながら、サバンナを駆け回るチーターの様だ。

 半分まできた。

 乙女はやはり足を揺らしながら、下を眺めている。もう豆粒くらいになった女は、入り口まであと数歩まで来ていた。

 もうすぐ頂点。

 下を見て、乙女は眼を疑った。

 というのも、黒い一点が、前の豆粒が少しずつ、大きくなりながら迫ってくるではないか。

 上から、段々と大きく見えるという事は、下から近づいてきているという事。

 90度という、絶対にありえない角度。をそれを彼女は、もはや地面と平行な姿勢になり……。

 走ってくるではないか。

 流石の乙女も、これには唖然とした。

 笑顔を忘れたわけでは無いが、一瞬引きつった。

 そして言う。

 「本当に、貴方という最高の相手に会えて、良かったわ!」

 ガチャンッ、最高点で、機体は固まった。

 ここでは地面まで落ちる恐怖が狙いだが、今の彼女は、地面から恐怖が這い上がってきているのだ。

 恐怖するが、絶望はしない。

 むしろ、燃えてくるんです。

 ダッダッダ、その足音が近づく。

 女の顔が、あと少しまで近づく。その時に……。

 ブザーは高らかに鳴った。

 上昇を続ける女と、降下し始める乙女。その2人が、今まさに交差して。

 伸びた手は、届かなかった……。

 「私、先に初めの場所で待ってますーー!」

 二度も遠ざかっていく彼女を見て、女は悔しそうに見つめるが。

 追撃はしない、出来ないようだった。

 乙女は思った。

 「何で彼女、私を追いかけてこないんでしょう。さっきもそうだった。初めも。

 あの神速ならば、私に追いつくなんて造作もないことでしょうに。まるで、何か条件があるみたいに」

 最高点に設けられた鉄筋に、手を掛けこちらを見ている彼女。

 まあ、後で会えるだろう。

 その時は、最後になってしまうのね。

 

 * * *


 流石に、疲れてしまった。

 もう、走るのも限界に近かった。

 「ああ、楽しかった」

 メリーゴーランドの前で、彼女が走り始めた地点で。

 彼女は息を切らしながら、誰かを待っているようだった。と言っても、誰かなんて1人しかいないのだけれども。

 ダッダッダ、その足音が近づく。

 もう、聞き慣れた音。そして、走り慣れてしまったのか、プロさながらの、美しいフォームで登場した女。

 2人は、始めの構図に戻る。

 戦う、その意味の捉え方は、2人それぞれだ。

 ただ、今は初めとは違っている。乙女は相変わらず笑っていて、少し服を汚れてしまったくらいだけど。未知である女が、女帝が、仄かに笑っている。

 未知が、表情を見せた。

 「本当に、今日は楽しかった!」

 そう心から言う、彼女の精神力。

 女はそれを、ただ聞いていたんだけれど。

 「私もだ」

 ボソッと、聞こえるかどうかの小さな声で。

 未知が、感情を見せた。

 「それは良かった。本当は、もっと戦いたいのだけれども。もう、時間も時間なのよね。終わりにしないと、いけないみたい」

 乙女は、沈みかけの太陽を見て言う。

 太陽はこの空間の中で、沈み始めると沈みかける、それだけを続けている。

 まるで、壊れてしまった柱時計みたいに。

 「私から、攻撃といきたいわね」

 そう、乙女は笑った。

 女は、女帝は両手を前に出し、格闘家のような臨戦態勢をとる。が……。

 「じゃあ、これは私の言葉勝負なのだけど」

 そう言って、彼女は人差し指をビシッと向けた。

 まるで、探偵ドラマの決着シーンみたいに。

 「貴方、未知のメフィストよね。そう、因みに私は、希望のメフィストなんだけども。つまりね、貴方の詭弁というのは、未知に関するものな訳でしょう」

 未知はそれを、ただただ聞いている。

 「つまり、貴方の未知を破った時、それがこの勝負に於いての、勝ちだと思うのよ。貴方という未知を、私が破る」

 第一戦で、少年が男の、罠を破ったみたいに。

 「だから、私は見抜いたわ。貴方の未知である、能力の事を」

 女帝は、興味を持って聞いているらしかった。試合初めの彼女では、考えられないことだったと思う。

 「貴方の能力は、あの人間離れした動きよね。あの神速は、普通人では出せないものだわ。では、なぜあの時、貴方は、フリーフォールで急降下しなかったのか」

 一直線に駆け上がってきた彼女は、何故か方向が、ベクトルが切り替わった瞬間に、慌てたように鉄筋に手をかけた。

 体を支えることさえ、できなくなった。

 「それは、貴方は直線的な力に対して、加速度的に力を増幅し続けられる能力者だから。こうとしか考えられないの」

 だから、彼女は追いつけなかった。

 だから、彼女は遅かった。

 走り始めは、運動の開始は、並の人間と同じか、それ以下に違いないのだから。

 「ねえ、そうなんでしょう」

 彼女はそう尋ねる。

 女帝は、それを、静かに聞いていたのだが。

 「ええ、貴方は間違えていないわ。その通りね」

 ただし……。

 「それだけでは、駄目よ。それは、私の能力の一片にすぎないのよ。それだけでは、私という、未知の存在を打ち破ることはできない」

 女帝は言う。会話をする。もうそこに、彼女らしさという、未知ではない何かが芽生えていた。

 「ああ、確かにそうね。それは私思ったの」

 そして、少し考え込むようにしてから。

 「動物には、初めて見た物を、親と認識するって話があるわよね」

 雛鳥が、卵からかえったとき初めて見た物を、親と勘違いする。

 聞いた話で、実際に見たことはないが。

 「それに近い、と言ったら可笑しいのかもしれないのだけれど。貴方も同じように、初めて見た彼女の能力チャリオッツ、それを身に着けたんじゃないの?」

 それは、少し後に話すんだけれど。

 その誕生秘話は、後の話に取っておくんだけれど。兎に角女帝という存在は、この戦いの中で、誕生したと言っておこう。

 そして、初めて見た生き物こそ、戦車チャリオッツの少女なのだ。

 「あなた自身の能力、というかその存在は、未知であること。その一点に尽きるんじゃないの。未知であるが故に、恐れられ、誇張され、油断され、強くあれる」

 それが、貴方なのだとしたら……。

 「残念だけれど、私にとって貴方は既に」

 未知などは無い。

 これで、もう詭弁は破られた。

 女帝は微笑んだ。だってもう、自分を隠す必要も、意義もないのだから。

 彼女は言う。

 「ええ、その通り。ご名答よ。

 私は、未知のメフィスト。未知であること、それこそが強み」

 人は未知を求め、未知に恐れ、未知に魅かれる。

 「私の負けね。なんならもっと、話していたいのだけれど。時間も、もう無いのよね。陽が沈みかけている」

 もうそろそろ、黄昏時が終わる。

 そして次の、3時が始まる。

 「最後にね、貴方にありがとうを言いたいのよ」

 乙女は笑う、くすみなく。

 「だってもう、貴方は私のお友達よ」

 もう、未知ではない。だって、今日のわずかな時間を共に過ごした、お友達じゃないの。

 「ああ、お友達」

 いい言葉だ。未知の代わりに、なんて温かい言葉をもらえたのだろう。

 「貴方に出会えて、良かったわ」

 未知は、友に言った。

 「Doubt(ダウト)!!」

 跡形もなく、未知は消える。というより、既に未知など無かったのか。

 彼女は、悲しそうにたたずんでいた。

 希望はあるが、悲しみもある。

 淋しくもあるが、心強くもある。

 彼女は、私の中に生きているのだから。

 


 

 

 『これは、個人の感想です』

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