第120粧 火の使者はお節介焼きさん
渋った末にようやく私が頷くと、ハウザーがほっと安心したように微笑んだ。
「良かった。それじゃあ、明日の放課後に天体観測の準備室に集合だ」
「えっ、今日じゃないんだ……? とどめを刺すならいっそ早く!」
「とどめって、また何を考えているんだか。おそらく、そこまで心配するような内容にならないと思うけどね」
「そうは言われても、何を言われるか分からないから不安になるんだよね。だってハウザーも話す内容を知らないんでしょう?」
「それはそうだけど、そう構えなくても何かあったら俺たちもいるさ。それにガイアスともちゃんと話したんだろう?」
「え、うん」
何で知ってるのかと思ったけど、最近ガイアスと私の距離感が前より近いから気付いたのかな。
「君はガイアスが頼りないと思っているようだけど、あいつはやるときはやるんだ。だから、少しくらいは頼りにしてあげると喜ぶだろうね。まあ、普段は危なっかしいんだけどさ……」
「その普段の危なっかしさが致命傷になりかねないんだけどね……」
ガイアスに兄さまの中の人が私だとバレて以降、彼は何度も私をノワール呼びしそうになるし、態度もノワール向けだし、その度に慌てるはめになっている。
知られてはいけない人物に知られてしまった感がハンパない。
こうして芋づる式に色んなところにバレていくのかなあ。
まだ他の人に入れ替わりバレてないと思うけど、時間の問題かな。
そう言えば、周囲にもバレちゃったらどうするか考えてなかったけど……そうなったらどうしよう。
「それにしても、ガイアスはようやくノワール嬢を捕まえられたんだな。良かった、少しは安心したよ」
「捕まったって言い方されると、今まで追いかけっこしてたみたい」
どちらかと言うと、「どうしても遊んで欲しいわんこVSわんこが苦手で逃げ回ってる子」な構図の方があってるかもしれない。
「逃げ回っていたんだから、追いかけっこと状況は似たようなものじゃないか?」
「そうかも……」
ガイアスに頼りにして良いと言われてから、私は少し彼に歩み寄る覚悟が持てたような気がする。
だけど、まだ何かを頼ろうとするまで、心が追い付かないかな。
「そう言えば、いつもよりグイグイ来るやり方で、いつものガイアスとちょっと違った感じだったけど……もしかしてハウザーの仕込み?」
「多少はね」
その結果があの壁ドンか!
「ハウザーはガイアスにどんなアドバイスしたの?」
「眉間に皺を寄せて、どうしたんだい? もしかして、ガイアスが何かした?」
「な、なんかと言うか……!」
壁際に追い込まれて、耳元で愛を囁かれましたけど!
ちょっと思い出すのも恥ずかしいんですけど!
同じことを兄さまにされても、たぶん恥ずかしくもなんともないのにね。
あれかね、慣れかな!
「ははは。その顔、ガイアスに見せてやりたいね」
「むぐっ、どんな顔をしていると!?」
「悪い顔ではないよ。良いんじゃないかい」
からかわれたように感じて顔をむにむにして表情を確認する。
むむっ、ちょっと顔が緩んでた……かも?
「まあ、俺がしたアドバイスは、ノワール嬢はふらふらしているから、ちゃんと捕まえておいた方が良いだろうね、と言う程度の忠告さ。たいしたことは言ってないよ」
ほんとに? 思わずハウザーをジト目で睨みたくなってしまう。
「それにしても、ふらふらって……」
「ふらふら言いたくなるって。君はガイアスのこと、これまできちんと見ようとしなかっただろう?」
「ぐっ」
当たっているので、ぐうの音も出ません……! 出たけど!
「それだけじゃない。他にも……ノワール嬢は一度、周りを良く再認識してみると良いよ。今見えている景色が、違うものに視えるかもしれないからね」
お節介師ハウザーの追い打ちで、周りが見えていないと言われる始末である。
「でもなんで、今になってガイアスを焚きつけたの?」
「……そうだな。俺たち使者は、いずれ闇の根源と対峙することになるかもしれないだろう?」
「そうだね。改まってどうしたの?」
「この先、俺たちの身に何が起こるかは予想出来ないから、今のうちにきちんと話しておかないといつか後悔するかもしれないと思ったのさ。ここ最近は特に実感するよ」
確かに。
乙女ゲームとは違う道筋を辿りつつある今、何が起こるかなんて私にも分からなくなってきた。
でも将来現れる闇の根源を見据えての発言には、黒の神子側からは大変返し辛いです……。
「……まあ、本当に言いたいことは、なかなか言えていないけどね」
ハウザーが私の頭をポンポンと撫でて呟いた。
なんだろう?
まあハウザーが言いたくても言いえないことってなると、私には関係ないこと……かな。
話が終わったあと、ハウザーと別れてから私は明日へと思いを馳せる。
本当に、占い師は何を伝えるつもりなんだろう。
考えれば考えるほど、心の片隅にもやっとした気持ちが沈み込んでいく。
不安な気持ちを抱えたまま、私はその日を過ごした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます