第111粧 取り巻き令嬢による爆弾投下
トリアリスはヒナタちゃんを助けたいのか、ノワールを追い詰めたいのか、どっちなんだろう……。
トリアリスの行動が読めずにハラハラしていると、彼女は痺れを切らしたように声高に叫び始めた。
「この際ですわ。私はこの場で、ノワールさまの悪癖を公表いたします!」
「えっ?」
なんやて? このタイミングで? ノワールの悪癖を?? なんで??
悪癖って、たまに顔に手を当ててアザを見せるような中二ポーズを取ったりする癖のこと?
だとしたら、なんでトリアリスがそんなことを知ってるの!?
それはそれで恥ずかしいけど、たぶん彼女が言うのはそんな取るに足らないものじゃない予感がする。
だって、中二ポーズを身内以外の前でやったことなんてないし。
そもそも学園内でのノワールは、兄さまが演じている。
でもそれ以外の悪癖に心当たりなんて全くないんだけど、いったい何を言う気なんだろう……。
「皆さまにもそれを知って頂ければ、ノワールさまによる犠牲者をこれ以上出すことはなくなりますものね」
「トリアリスさまが何を仰ろうとしているか存じませんわ。けれども……あまり調子に乗らない方がよろしいですわよ」
「ふふふ。私にあなたの脅しは利きませんわ」
どうしよう、兄さま男の子なのに、二人の様子が女子同士の戦いにしか見えない!
兄さまの威嚇に負けない勢いでトリアリスは周囲に聞こえるように更に声を張り上げた。
「皆さま、良くお聞きになって! この女には妄想癖がありますわ!」
「ッ!」
「え?」
ノワールに、妄想癖?
「ありもしない未来を騙り、他者に本来とは異なる立場を強要しては、人の人生をズタズタに壊す。そんな最低な虚言癖が!!」
トリアリスは何を言っているんだろう。
確かに、私は予言のようなものとして、未来を語ったかもしれない。
でも他人に本来と異なる立場を強要しているって……え? なんのこと?
強要していることと言えば兄さまの女装くらいだけど、もしかしてトリアリスは私と兄さまが入れ替わっていることに気付いているの?
でも彼女の態度からは、私たちが入れ替わっていることに気付いているように感じられない。
それに、私が未来を語ったことで誰かの人生を壊してしまったって……どういうこと?
私はそんなこと……記憶に、ない……?
……え? ま、また?
恐ろしいまでの敵対心を向けられるきっかけとなる出来事を覚えてないって、おかしくない?
私まだ肉体年齢若いのに、昔のこと忘れすぎでは!?
転生前の年齢をカウントして精神年齢を計算してはいけない!!
それとも、知らないうちに誰かのことを傷つけていて、自覚がなかっただけ……?
「ノ……キュリテくん……」
「ヒナタ嬢……」
呆然としていると、私の隣にいるヒナタちゃんが心配そうな表情で私の服の袖を握り締めていた。
対して、トリアリスは私に向かって微笑むと、手を差し伸べてくる。
「ああ、可哀そうにキュリテさま。こんなに混乱されて……。さあ、私と一緒に、あの悪女から逃げましょう?」
トリアリスから得体の知れない不安を覚えた私は、思わずヒナタちゃんの手を取る。
すると、それを見た彼女が眉をしかめたような気がした。
「まあ、キュリテさま。神子さまが困っているではありませんか。そんなに接近してはいけませんわ」
彼女が私に向かって更に手を伸ばしたその時……。
「キュリテは、あなたの元に行かせはしませんわ」
「に……ノワール?」
兄さまが私の腕を取ってトリアリスから距離を取った。
「戯言はここまででして? あなたも随分と、虚言を仰られるようですわね。私驚いてしまいましたわ」
「私はあなたと違うわ! 虚言なんて!!」
「私が白の神子さまを脅す必要がないことは、占星術師さまや他の使者たちが保障してくださるでしょう。彼女の案内に私を推薦したのは、他でもない占星術師さまなのですから」
「くっ……」
「それにキュリテは、私に白の神子さまの案内を継続させるために決闘に臨んだのです。私がその決意を
「身内と言う手段を使ってキュリテさまに決闘するよう、あなたが強要したのでしょう!?」
「そのようなことをする意味が、私にありますの?」
「良いから! いい加減にキュリテさまを解放なさいませ!」
「ふっ、いくらでも仰いなさい。他に用がないのでしたら、私はここで失礼いたしますわ。ごきげんよう。さあ、行きましょう。キュリテ」
「あ、ああ……」
私の腕を引いてその場から離れようとする兄さまと一緒に、私たちは騒動の場から走り去った。
「キュリテさま! お待ちになって!!」
最初はノワールがヒナタちゃんをいじめてるって話だったと思うのに……どうしてこんなことになったんだろう。
良く分からないけど、追いすがるように聞こえるトリアリスの言葉は、本物偽物両方のキュリテの足を止めるのには力不足なことだけは確かだった。
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