第108粧 兄さま闇堕ち予備群説浮上
闇の因子の残り香である黒い霧が少しずつ霞んでいくのを前に、私は思ったことを口にした。
「残り香があるってことは、ヒナタちゃんを狙っているのは闇の因子に囚われた子……ってことだよね?」
「そうなるな」
「でも俺も現場にいたけど、他に誰もいなかったよ?」
猫はいたけど。と言う一言は余計かと思ったので、心の中にしまっておくことにした。
「まじで? だけどお前に限って闇の因子に囚われてるとかねえよな。基本ポンコツだし」
「謎の信頼感があるのは良いけど、ポンコツは余計だよ!」
しかも私は黒の神子なので、そのうち闇の因子に囚われる予定なのですが。
「なんなら教室にも戻って残り香がないか、確認してみるか?」
「そう言えば、朝の騒ぎのときウォルターが匂いがするって言っていた気がする……」
「チッ、先を越されたか! じゃあ調べるまでもなさそうだな」
駄犬くんがライバル視している人物が、決闘を挑まれた私からいつの間にかウォルターに変わっていた様子。
「うーん? なんでヒナタちゃんが狙われているんだろう? 白の神子だからかな?」
「さあなあ。俺は犯人じゃねえんだし、理由は分かんねえよ」
「犯人は誰なんだろう……。駄犬くんは分かる?」
「だから俺に聞くなって。どうせ闇の因子を抱えてるやつを探せば良いって思って聞いてるんだろ?」
「うん」
「ったく、簡単に言うけどな、闇の因子を抱えてるやつは意外に多いんだぜ? 手当たり次第に探すハメになるぞ。相手が闇の使者になってれば、すぐにでも分かるんだけどな」
「じゃあ今の段階で分からないってことは、まだ誰も闇の使者にはなってないんだね?」
「俺以外はな」
つまり闇の使者予備群は意外にも多いから、この前の駄犬くんみたいになってからじゃないと判別出来ない、ってことかな。
なるほど。
だから前回ウォルターは、予備群の中でも使者化する可能性が高そうなのが駄犬くんだと目星をつけて追っていたのかもしれない。
駄犬くんは偽の証を持っていたし、あからさまに怪しかったもんね。
「ああそれと例外があってな、闇の因子を隠せるような能力を持ってるやつは、俺たちでも分からないぜ」
「ふむ?」
「ウォルターがそう言うのがいるかもしれない、って疑ってたな」
なにそれ。なんか中二感あって大変格好いいんですけど。
いやそもそも、闇の使者の設定自体が闇堕ちなので中二じみてた!
それにしても、いじめの犯人かあ……。
ゲームとは違って、私はもちろんいじめなんてしてない。
入れ替わっている兄さまに置き換えたとしても、ヒナタちゃんに嫉妬はしてなさそうだし、嫌がらせするような理由もないはず。
そう考えると、当てはまる人物が誰なのか今のところは見当もつかない。
「そう言えば、いじめたやつはノワールじゃねえかって噂があるらしいな」
私が悪役令嬢について考えていたところ、駄犬くんも同じことを考えているみたいだった。
「それね! 失礼しちゃうよね!」
「平気で扇子ぶん回すし、妙に辛辣だし、あいつだったらやってもおかしくなさそうだけどな。だけど、椅子に画鋲なんてみみっちいことはしねえか。やるならもっとダイナミックにやってそうだよな」
「扇子を振り回していたのは、駄犬くんが少なからず悪意を持っていたからだよ。そうじゃなかったら、兄さまはそんなことしないもん」
「そうかあ? あいつが一番でかい爆弾を持っていそうなんだけどな」
「えっ??」
兄さまが一番の爆弾持ちってどういうこと? なんで?
ギャルゲーで言うと、攻略対象の好感度下がりまくって爆弾ついてる状態のことを言っているわけではないよね?
でもこの乙女ゲームにはそんなシステムなかったけどなあ。
そうすると……話の流れからして、兄さまが闇の因子を抱えてるってこと?
いやそれ絶対にまずいのでは……!?
「どっ、どういうこと!? 爆弾って……兄さまが闇の因子に囚われてるかもってこと?」
「今のところはそうは見えないけどな」
「なんだ、びっくりさせないでよ!」
「だけどあいつさ、しっかりしてそうに見えるけど、妙に危なっかしく見えてヤベーときあるじゃねえか。妙に殺意振りまいたりとかな。だから闇の因子に囚われる危険はあると思うぜ」
殺意。うーん、思いつくのは扇子投げられたときのことかな?
「お前の身内なんだし、あいつのことしっかり見てやった方が良いんじゃねえの」
「う、うん」
今は大丈夫だけど今後に注意……かあ。
経験者の意見だし、兄さまの動向に気を付けよう。
兄さまが闇堕ちするとかシャレにならないからね!
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