第107粧 駄犬くん「ペロッ。これは闇の残留物!」

 さすがに訓練に混ざれる? なんて聞き辛いので、どうして駄犬くんが訓練に混じっているのか聞くことにした。


「そう言えば駄犬くんって、まだ使者のフリしてるんだよね? 何で訓練に混じってるの?」


 ふと、変装中なことを思い出して俺と言い直す。


 そう言えばここまでの発言で何か失言してなかったかな。口調は私っぽさが多かったかもしれないけど……。

 そう思って辺りを見回してみたところ、私たち以外の人の気配はしないのでホッとする。


 とりあえず口調はこのままで喋り続けることにした。


「あ? お前に言ってなかったっけ?」

「ん? 何を?」

「フリじゃねえんだよ。俺、闇の使者のままらしいんだ。訓練に混じってるのは使者だからってこと」

「え!? それ、闇の因子に囚われたままってことだよね? だ、大丈夫なの?」


 また襲い掛かられたりしたら怖いんだけど!


 駄犬くんから距離を取ろうとすると、またもや必死に静止された。


「待て待て! さっきから逃げるな! だから言ってるだろう、もう大丈夫なんだって。お前だって、ウォルターが俺を浄化したのを見ただろ?」

「見たけど、本当に浄化出来たのかは俺には分からないし……」

「占星術師のお墨付きだから、信じて問題ねえって」

「うーん。占い師ねえ……」


 占い師は当初、駄犬くんが本当の使者じゃないことに気付いてなかったみたいだから、少し信憑性に欠けるとは思うんだけど。


「まあ、また闇の因子にやられたらどうなるかなんて、俺にも分かんねえけどさあ……」

「そこは自分に自信を持とうよ?」

「お、おう!」


 駄犬くんが闇の使者なら、彼は黒の神子の味方ってことになるのかな?


 でも訓練に紛れているし、実質白の神子陣営な気がするんだけど、どうなってるんだろう?


 白の神子側と黒の神子側の闇の使者が、それぞれ存在するのかな。


 まあ考え込んでも答えは分からないし、いまは深く考えないでおこう。


 元々していた話からすごくズレてるし。


「話を戻すけど、空気がよどんでると何があるの?」

「ああ、そう言えばそう言う話してたな。ちょっと待ってろ」


 駄犬くんが階段の踊り場の方へ左手を向けて目をつぶる。


 何をしているんだろうと思って見守っていると、踊り場のあたりが徐々に黒い霧に包まれていく。


「うし! こんなもんだろっ!」

「こ、これ……駄犬くんに襲われたときの!?」


 黒い霧は駄犬くんがおかしくなった時に見かけたときのものに、どことなく雰囲気が似ている。


 違うことと言えば、目の前の霧は風が吹いたら消えてしまうのでは……と思うくらいの薄さに見えることくらい。


「うっ。あの時は本当に、わりぃな……」

「前のことは気にしなくても良いって。それで、これは何? ヒナタちゃん呼んだ方が良くない?」

「この黒い霧は、闇の因子が活発化していたのを目に見えるようにしたんだ。残骸とか足跡とか、残り香みたいなもんかな。今はなんてことはないぜ」

「駄犬くんが空気がよどんでるって言ったのは、この残骸があったから?」

「ああ。で、こいつが残ってるってことは、闇の因子に囚われた奴がここで何か企んでいた可能性が高いってことだ」

「なるほど……」


 推理モノで言うと、殺人現場での犯人の足跡、とでも言うべきかな。

 外からの働きかけにより可視化されるので、ルミノール反応で血痕を探す方が近いかもしれない。


 乙女ゲームだと現れた闇の使者を感知して、使者と一緒にひたすら浄化していくだけの簡単なお仕事だったから知らなかったけど、そんな裏設定があったのかーと思わず感心してしまった。


「で、どうだ? これが訓練の成果だ! すごいだろ!」


 闇の因子の残り香を視覚化したことを褒めて欲しそうなはしゃぎ具合で駄犬くんが胸を張っている。


 ガイアスとは違うけど、やっぱりわんこみたいだね!


「駄犬くんすごいすごい!」

「全く感情がこもってねえな!」

「おめでとう! 駄犬くんはレベルアップして、名犬見習いくんに進化した!」

「なんでだよ! せめて人間に進化させてくれよ! しかも見習いかよ!!」


 からかいながら褒めてしまったせいか、怒られてしまった。

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