第106粧 黒の神子「いけっ!名犬……名犬?ダーケン!匂いを辿るだ!」
放課後になってから、私は駄犬くんを引き連れて……正確には勝手についてきたんだけど。とにかく学園内を捜索中。
頼もしいかどうかはさておき、なんだか警察犬連れている感じでワクワクしてくる。
「なあ、いい加減に機嫌直せよ。なんでそんな不機嫌なんだ?」
でもワクワクしたのは一瞬のことで、すぐにヒナタちゃんのいじめのことを思い出してしまい、気付いたら不機嫌さが表に出てしまった様子!
しかしまさかそれが駄犬くんに気付かれるとは思わなかった。
「もともとこういう機嫌ですう」
騒ぎのあと、どういうことかウォルターとハウザーに問い詰めても上手くはぐらかされるし、最近視線を感じるガイアスには今近づくのはなんか危険な気がするので、結局のところ私だけが蚊帳の外の状態が続いている。
ちなみに、ヒナタちゃんのことを聞いてもそっけない返事が返ってきそうな兄さまには聞いてない。
「そんなわけないだろ! お前いつもは能天気でポンコツじゃねえか」
「えっ。今はポンコツじゃないとおっしゃる?」
「えっ。今もポンコツだろ?」
少しくらいは否定してくれたって良いのよ……。
「ところで、さっきっからウロウロしてるけど何してるんだ?」
「もちろん、ヒナタちゃんをいじめた犯人を見つけるんだよ!」
みんなして遠ざけたがってるみたいだから、こうなったら自分で調べるしかない! と決意して今に至る。
「手がかりはあるのか?」
「ないアルよ」
「どっちだよ!」
「駄犬くんは何か知らない?」
「ツッコミは無視かよ!」
駄犬くんはツッコミ上手だね。
将来は芸人にでもなった方が良いんじゃないかな?
「俺は知らねえな。ただ、ウォルターたちは犯人の目星が付いてるみたいだぜ」
確かに、そんな素振りに見えないこともなかった気もするけど……。
「じゃあ何で、何回もいじめられてるの!? 目星付いただけで何もしてないの??」
「知りたいならあいつらに聞けば良いじゃねえか」
「何でか分からないけど、教えてくれないんだよー!」
「分かる! お前に言うと、余計なことに首突っ込みそうだからな」
「そんなことは……ありますけども」
否定できないことが大変悲しい……。
「だろ? 今まさに首突っ込もうとしてるしな」
「だってヒナタちゃん泣いてたんだよ? 放っておけないよ!」
いじめについて何も情報がないので、私たちはヒナタちゃんが落ちた階段までやってきた。
思えばヒナタちゃん階段落下事件は、色々と不自然だった気がする。
もしかしたらあの時点で、すでにいじめが起きていたのかもしれない。
現場はガイアスが床に開けた穴はそのままで、その周りにロープがかけられている。
だいぶ範囲が広いので、階段は実質使用禁止になっていた。
「何でこの床、穴空いてるんだ?」
「ガイアスが魔法使ったときに出来たんだけど、そのままみたいだね。これガイアスが弁償するのかなあ……」
「あいつ土の使者だろ? こういうの直せんじゃねえの?」
「あ、確かに?」
思わず納得しているうちに、駄犬くんが私よりも先に調査モードに入っていた。
「で? 神子はここから落ちたんだろ?」
「そうだね。で、どう思うかね、駄犬くん。事件の香りがするだろう?」
「しねえよ。何だよ事件の香りって。匂いで事件があったか分かるのかよ。ウォルターじゃねえんだぞ」
「駄犬くんじゃなくて、ウォルター連れてくれば良かったかな。いやでも駄犬くんだって匂いで何か分かったりしないの?」
呼び始めたのは兄さまだけど、駄犬くんって呼ばれてるくらいだから嗅覚で手がかり掴めないかなあと期待してみた。
「犬じゃねーんだから分かんねえよ! 普通は!」
「やはり駄犬くんは、名犬ではなく駄犬だったか……」
そもそもウォルターはどうして匂いで異変が分かるのかが謎なんだけどね。
「うっせ! そもそもウォルターが匂いで何かが分かるのがおかし……ん? ……待てよ?」
駄犬くんも全く同じことを考えてるんだな、と思ったら駄犬くんの様子がおかしかった。
なんかそわそわしてる周囲を見渡している。
ま、まさか……!
「えっ? 匂いするの? わんこへの一歩歩んじゃった?」
「歩んでねえよ! 匂いじゃねえよ。空気がよどんでるんだ」
「えっ? そうなの?」
「普通の奴には分からないかもな」
「駄犬くんは普通じゃないと仰る?」
一応私、黒の神子なんですけどね?
「俺も最近、訓練受けてて知ったんだ」
「へえ。訓練の成果、順調に出てるんだ?」
「へっ。まあな!」
褒めると調子に乗りやすいよ、この子。
でもよく考えてみると、駄犬くんは使者じゃなかったんだよね?
じゃあ私も訓練すれば、同じようなこと出来るのかなあ……。
使者に混じってしれっと訓練出来るような動機なんて思いつかないけど。
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