第105粧 悪役令嬢はまだ何もしていません!
兄さまの無実を主張をしに行こうと身を乗り出しかけた私を、ウォルターが止めた。
「やめておいた方が良い」
「なんで!?」
兄さまはヒナタちゃんに対して態度が悪いだけで、嫌がらせなんてしてない。
だからどう考えても冤罪なのに、ここから見てるだけなんて耐えられないよ!
「君が仲裁に入ったところで、たかが知れているからだ」
「でもこんなの、放っておけないよ!」
「それじゃあ補足しよう。最近、ハウザーから何か言われたんじゃないだろうか?」
「え? それ今する話? この状況に何か関係あるの?」
「ある。これは自分たちの推測だが、キュリテが行くと後々火に油を注ぐことになる可能性が高い。だから、今は抑えて欲しい」
「どういうこと? ハウザーもヒナタちゃんにあまり近付くなって言っていたけど……。なんでノワールとヒナタちゃんの噂話に、キュリテが関わってくるの!?」
ウォルターに詰め寄ろうとした時、彼はふいに教室内に視線を向けて言った。
「そんなことより、ようやくガイアスが来た」
「えっ? ガイアスいつ来たの?」
「さっき目があったから、急ぐようにアイコンタクトで誘導した。そのまま、向こう側の入り口から入って行った」
ガイアスって鈍感だからアイコンタクトとか通じない気がしていたけど、ただの偏見でした。
なんとなくウォルターにうまくはぐらかされた気がしながらも、二人一緒に廊下から室内の様子を覗き込む。
すると、ガイアスがノワールに変装中の兄さまを庇うように立っていた。
「君たちはどうしてそんなことを言うの? ノワールは……」
何言われるのか分からなくて緊張するから、変なところで言葉を切らないでよ、ガイアスー!!
あとなんでチラッと廊下に居る私のことを見たの!!
「そんなことする人じゃないよ!」
「そ、そうです……! ノワールちゃんは、いつも私を助けてくださっています……!」
ガイアスが助けに入ったことで、ヒナタちゃんは周りの女の子に意見を押し流されずに済んだみたい。
さすが攻略対象!!
「ヒナタさまの使者までそう仰るなら……」
「でもガイアスさまは、ノワールさまの婚約者でしょう? 信憑性に欠けますわ」
「それなら、俺も加勢して良いかい?」
それでも食い下がろうとした女の子たちの前に、ハウザーが現れた。
「俺も使者だけどノワール嬢の昔馴染みだから、説得力は低いだろうけどね。……だけど、これだけ味方をする人が居ても、信じられないかな?」
ハウザーに優しく言い聞かされた女の子たちは、しぶしぶと撤退していった。
「大丈夫? 嫌な事されてない?」
ノワールを演じる兄さまの顔を心配そうに覗き込むガイアスを遠目に見ていると、入れ替わっていることに罪悪感が沸いて心がちくりと痛んだ。
「いいえ、大丈夫ですわ。それより白の神子さまは……」
「わ、私も……大丈夫です!」
「嫌がらせはこれで何度目だろうな」
「このままだと良くないよ。占星術師さまにも相談してみよう?」
ハウザーの「何度目だろう」という言葉に、嫌がらせが数えられるような回数ではないと言う意味が含まれているように感じた私は、隣にいるウォルターに視線を投げる。
「そう言えば……さっきも女の子たちが、今までにもあったって言っていたよね? これが初めてじゃないの?」
「そうだ」
「どうして教えてくれなかったの? ヒナタちゃんも教えてくれなかったし……。言ってくれれば私だって助け……」
「君の助けは必要ない」
「ッ!? どうして!?」
ウォルターの辛辣な台詞に、私の存在が必要ないと言われているようで胸がずきりと痛みかけた。
でも、次に口に出してくれた言葉から、私を心配してくれての事だと気付かされる。
「いずれ、白の神子と親しくしている君にも危害が加わる可能性がある。ダーケンのときのように、力のない一般人の君が襲われることは避けなければいけない」
「え? どういうこと?」
「嫌な匂いがする」
「匂いって……」
「ダーケンのときと同じ、闇の因子に関わるものの匂いだ。いじめは白の神子に敵意を持つ闇の因子に囚われた者の仕業の可能性があると考える」
「えっ」
ウォルターの闇の因子の発言にギクリとした。
……あれ?
これってもしかして……。
嫉妬した黒の神子が白の神子をいじめてそれがバレるって言う、イベントと同じ流れじゃないの!?
わ、私じゃないよ?
私、嫉妬してないからね?
ヒナタちゃんが階段から落ちてガイアスが助けたとき、少しもやっとはしたけど、あれ別に嫉妬でもなんでもないよね!?
誰にも聞かれてないけど、内心でそう否定してしまうくらいには焦った。
でも黒の神子がいじめてないとすると……ヒナタちゃんをいじめてる人物は一体誰なんだろう?
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