第104粧 悪役令嬢の名にふさわしき噂話
ヒナタちゃんと距離を置いた方が良い。
なんて言われてしまったけど、お弁当はいつも通りのメンバーで食べている。
とは言え、私の座る位置はヒナタちゃんから遠くなってしまった。
ついでなのか何なのか分からないけど、ヒナタちゃんと未だ案内役を務める兄さまの間にも距離がある。
そんなわけで、使者男子組に囲まれるヒナタちゃんが居心地悪そうに救いを求める目で見てくるけど、私にはどうしょうもない。
ごめんね、ヒナタちゃん!
あとまだ使者に慣れきったわけじゃないのかー!
さすがに囲まれて逃げ場がない状態に陥るのはダメだったかな。
それにしても、こんなことしてるだけで噂とやらは落ち着くのかな?
そもそも私は噂の内容を聞いてないから、何をもって落ち着いたかどうかなんて判断出来ないのだけど……。
そんなある日。
登校して教室に入ろうとしたところ中が騒がしいことに気付いた。
「どうしたんだろう? 何かあったのかな?」
「……白の神子の周りに人が集まっていますわね」
「うん? 何でだろう? ヒナタちゃん大丈夫かな。ちょっと様子をみ……」
「……。キュリテはここに居なさい」
兄さまと一緒に教室に入ろうとしたけど、何故かぐいぐいと廊下の端に追いやられてしまう。
「なんで? 一緒に様子を見に行くよ」
「良いから! あなたはここに居なさい!」
「う……うん?」
兄さまの強い口調と凄い剣幕に押し切られて、私は大人しく廊下で待つことにした。
こうして一人ぽつーんと残されていると、廊下に立たされてるみたいなシチュエーションで嫌なんですけど……。
と思いながら、おそるおそる室内を覗き込む。
「白の神子さま、どうかされましたの?」
「あっ……ノワールちゃん……!」
ノワールな兄さまに声をかけられたヒナタちゃんは、何故か涙目だった。
「……!」
ヒナタちゃんの様子にドキッとして中に入って慰めようと思ったその時、誰かが私の肩を掴んで引き止めた。
「待つんだ、キュリテ」
振り返るとウォルターだった。
「どうして止めるの?」
「教室内の様子がおかしい。今君が乱入するのは得策ではないと思う。見守ろう」
「でも……」
「神子のことなら、近くにノワールがいるから心配する必要はない。それに、いつも通りであれば、そろそろハウザーやガイアスが来る時間だと思う。……とは言え……これは、良くない」
言葉を濁して中の様子を見守りに入ってしまったウォルター。
ハラハラしながらも仕方なく私もその隣で見守ることにした。
ヒナタちゃんの周りに集まっている女の子たちが、兄さまに向かって険悪な表情を向けて言った。
「ヒナタさまの椅子に、画鋲が置かれていたのです! それも一つだけではなく、沢山!」
ん……? なにそれ、まさかの嫌がらせ!?
「こういったことは今までにも何度もありました!」
え。なにそれ、初耳なんですけど……。
つまり、ヒナタちゃんが涙目なのは嫌がらせが原因ってことかな。
椅子に画鋲だなんて小学生みたいなしょぼいやり口だけど、気弱なヒナタちゃんを怯えさせるのには十分かもしれない……。
まったく、ヒナタちゃんを泣かせるなんて! やったやつ出て来い!
なんて思っていたら……。
「私たち、あなたの悪い噂は良く知っています!」
「そうです! ヒナタさまにこんなことをしたのは、ノワールさまでしょう!?」
「えっ? あのっ……ノワールちゃんはこんなことしな……」
「良いんですよ、ヒナタさま! ノワールさまのことを庇わなくて!」
「えっ? えっ?」
ノワールな兄さまが責められ始めてしまった!?
「え? どういうこと?」
「……どうやら、ノワールが白の神子をいじめているらしい、と言う噂が出回っているようだ」
「へっ? なんでっ?」
「普段の神子に対するノワールの態度にも、多少は問題があると考えるが……」
兄さまはヒナタちゃんに対して、ツンツンしてますものね……。
もしかして、ハウザーが言いたくなかった噂ってこれのこと?
悪役令嬢がヒロインをいじめてるって噂!?
完全に勘違いしてたわー!!!
え? でもそれって、中の人はともかく外見的にはキュリテ関係ないよね?
でも今は、そんなことより……。
「兄さまは無実だって言いに行かないと!」
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