第103粧 火の使者は噂話の火消し人のようです

 ガイアスの話を続けられても困るので、私はハウザーに話を戻すよう促した。


「それで、噂ってどんなこと? 近付くなって言うくらいだから、ヒナタちゃんが関係すること?」

「……悪いけど、出来れば君の耳に噂の内容を入れたくないんだ。あまり良い話でもないからね」

「そうやって隠し事されると気になるよ!」

「まあまあ。君がヒナタ嬢と距離を取ってくれれば、噂は少し落ち着くかもしれない。……と、俺たちは睨んでいるんだ。だから、内容はともかく……ね?」


 だから追及しないでね? ってことかな?

 しかし、ウインク付きで説得されても悪役令嬢たるこの私には一切通用せんわー!


「つまり、私とヒナタちゃんに関連する噂、ってこと?」

「……まあ、あながち間違いではないね」

「うん? なんだろう?」


 言いたくないからなんだけど、やけにぼかすなあ。


 第三者から見たヒナタちゃんと私……。

 つまり、白の神子と悪役令嬢の双子の兄の噂ってことだよね?


 もしかして、キュリテ姿な私とヒナタちゃんの距離感が近いことによって、はたから見るとお付き合いしてそうに……え? 見える?


 普通の友人っぽく振舞ってるつもりですが??


 でも私が一瞬そう思ったくらいだから、二人の仲の良さを勘違いしている人がいてもおかしくはないし、そう思った人たちが「キュリテとヒナタが付き合っている」なんて噂を立てていたりとかしているかも……ってことかな?


 うーん、もしかしなくても私、兄さまの格好でヒナタちゃんにグイグイ行き過ぎた?


「まあ噂のことについては、そのうちあいつから同じことを言われるだろうな」

「兄さまからは前々から、俺の格好で近付き過ぎだのなんだのと言われておりまして……」

「そうだね。キュリテは使者でも案内役でも同性でもないから、あいつとして近付き過ぎるのはあまり感心しないな」

「そっか……。ヒナタちゃんは男の子を避けてるのに、キュリテだけ距離感近いと不自然だもんね。ヒナタちゃんとキュリテが付き合ってる説が出てもおかしくないね……迂闊だったよ」

「あ、うん?」


 ハウザーの反応がなんか微妙だった。

 あれ? ヒナタちゃんとキュリテの恋愛とかそういう噂じゃないの?


「まあ、君が友人として彼女に接したい気持ちは理解出来るけどさ。当分は我慢してくれないかい? しばらく彼女のフォローは俺たちでしっかりするから」

「分かったよ……」


 そう言われると私だけが駄々をこねるわけにもいかない。

 それに、ヒナタちゃんと兄さまの負担を増やすわけにもいかないから、大人しく頷くことにした。


「最近ヒナタちゃん大変そうにしているから、ちゃんと見てあげてね? 困っていたら積極的に声をかけるんだよ?」

「ははは。そうしていると君はヒナタ嬢の母親みたいだね。大丈夫、俺たちに任せて。最近はある程度なら彼女に近づいても大丈夫みたいだからさ」

「それなら少し安心かな。じゃあヒナタちゃんのこと、任せたんだからね?」

「ノワール嬢のそう言う面倒見の良いところ、前から変わらなくて嬉しいよ」

「そう? 面倒見良いのは私じゃなくて、ハウザーと兄さまだと思うけどなあ?」

「あいつが面倒見良いのは、ノワール嬢に対してだけだよ。あいつは君のそういうところを見習っているようだからね」


 そう言ってハウザーは私の頭をぽんぽんと撫でた。

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