第102粧 火の使者からの忠告……と思いきや?

 ヒナタちゃんが階段から落ちてから数日間が経過。


 最近ガイアスがこれまでにないくらいにチラッチラッとこっちに視線を飛ばしてくるので、超ドキドキします。


 なんだろうなあ、やだなあ、こわいなあ……と思って警戒していると、だいたい兄さまが率先してガイアスに話しかけてくれるので、その隙に脱兎のごとく現場から離脱!


 相変わらず兄さまには助けてもらってばっかりだった!


 ダメじゃん! 私の決意どこ行った!

 どこかで挽回せねば!


 そう強く誓うものの、なかなか目標が達成しない日が続く。

 達成できない目標などと、言ってはいけない!


 そんなある日。

 授業の準備をしているとハウザーが椅子を寄せて話しかけて来た。


「キュリテ、今良いかい?」

「ハウザー? 大丈夫だけど、どうしたんだ?」


 先を促すと、ハウザーは周りを見渡してから声を潜めて話を始めた。


「君、最近ヒナタ嬢と仲が良いだろう?」

「え? うん。そう思ってもらえてるなら何よりだよ」

「ああそうか。ノワール嬢には同性の友だちがいないからね……」


 ハウザーよ。そんな可哀そうな目で見ないで……。軽くへこむよ。


「それで、ヒナタちゃんがどうかしたの?」

「そんな君には、酷なことを言うことになるんだけどさ……」

「え……な、なに?」


 正解はCMのあとで! みたいな溜めを作らないで欲しいんですけど!

 言い方が悪い報告するみたいで怖いんだけど!

 酷なことって言うからには、悪い報告なんだろうけど!!


「あまり彼女に近寄り過ぎないで欲しいんだ」

「ど、どうして!?」


 ハウザーが口にした言葉は、予想通り悪くもあり衝撃的な内容でもあった。


 え? 何かの冗談?

 白の神子と使者の距離感がまだまだあると思って油断してたけど、知らないうちにヒナタちゃんとハウザーの恋愛フラグ立ってたって言うの!?


 ってことは、ハウザー攻略ルートの流れで、黒の神子関連で何か感づかれているんじゃ……?


「うまく伝えることが出来ないのが心苦しいんだけどさ……。彼女のことはキュ……じゃない、ノワール嬢と俺たちが出来るだけフォローするよ。だから、少し距離を置いてくれないか?」

「解せぬ! 納得のいく説明を頼む!」


 あれですか!

 ついに、悪役令嬢は俺の神子に近寄るなと、そう申されますか!?


 私、ヒナタちゃんに悪いことしてない!

 ぼく悪い悪役令嬢じゃないよ!!

 大事な事なので二度言った! ……心の中で。


 私の脳内のテンションの高まり具合とは裏腹に、ハウザーは眉をしかめて回答を渋っている。


「そうだなあ……。最近ちょっとした噂が広まっていてさ……」

「あれ? 思ってたのと違う。噂って? どういう?」

「何を考えてたのか分からないけど……やっぱり知らないか」

「ぼっち勢の私には、噂なんて無縁なものでして」

「ぼっちなんてことはないだろう? ノワール嬢にはガイアスがいるじゃないか。なんで逃げてるのか分からないけどさ。……ガイアスのこと、嫌いじゃないんだろう?」

「うん、嫌いじゃないけど……。好きかどうかって言われると……どうなんだろう? いわゆる政略的な婚約ですし」

「政略ね。少なくともガイアスは、ノワール嬢に好意を抱いているようだけどね?」


 ヒナタちゃんとも、ガイアスをどう思っているかの話はしたなあ。

 だけど私の気持ちは、自分でもよく分からない。


「それはさておき」

「さておかれるガイアスの気持ちも、少しは考えてやってくれよ?」

「うーん……それはまあ、おいおい?」

「はあ……ダメだなこの二人は」


 だから、そんな可哀そうなものを見るような目で見られても、困りますってば。

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