第101粧 悪役令嬢は兄さまと助け合いたいと願う
「少しは落ち着いたか?」
「……うん。ありがとう……」
ひとしきり抱きしめ合った後に離れた兄さまの言葉に答えたけど、まだ名残惜しく感じた私は兄さまの服の裾をきゅっと掴んだ。
「でもね、やっぱり、ごめんなさい……。キュリテが昔怪我をしたのは、私のせいだから……」
「だからっ!」
声を荒げそうになっている兄さまの様子が不思議になって顔を覗き込むと、どこか不機嫌そうな表情をしていた。
「っ。……そのことはもう、気にするな。俺はノワールを助けたくて、お前が助かってくれた。助けた俺自身がそれで良いと言っているんだ! だからもう、これ以上は気にするな」
私と目が合うと我に返ったように声のトーンを抑えて続けたけれど、その様子をは何かを我慢しているような雰囲気がして……。
兄さま自身は頼ってくれと言うけれど、兄さまの負担を増やしている原因が私なんだと思うと心が苦しくなる。
兄さまにこんな顔をさせちゃいけない……。
私だって、もっとしっかりしないといけない……!
「じゃあ……兄さまが危なくなったら、私が助けるね! 私が助けたいんだから!」
もっと私のこと、頼って良いんだよ!
……頼りないかもしれないけど。
そう思いながらもう一度兄さまをぎゅーっと抱きしめると、頭を撫でられた。
「……それじゃあ俺は、ポンコツなノワールに助けられることがないように、気を引き締めないとな」
「む、むう」
なんかうやむやにされた気がするし、現段階で全く頼りにされていない件。
いつか挽回せねば! と思って少しむくれていると、兄さまがふと何かを考えているような素振りを見せた。
「ノワール。他に何か思い出したことはあるか?」
「え……?」
もしかして、他に思い込んでいたり、忘れていることがあるの?
「もしかして……この前話していた、予言に関係する令嬢の話?」
「いや……悪い。なんでもない」
「えっ? ね、ねえ兄さま! 私他になにか……やっちゃった……?」
歯切れの悪い回答に心配になってすがりついて追及しようとすると、ドアからノック音が聞こえてきた。
「エスか。ノワールが起きたから、夕食の準備をしてくれ」
「承知いたしました。お二人分、お持ちいたします」
「二人分? まさかこんな時間に二人前も食べられるなんて……。罪深すぎる……」
「そんなわけがあるか。寝る前に食べすぎると太るぞ」
「え? じゃあどうして二人分? 兄さまの?」
「ああ。俺もまだ食べてないんだ」
もしかして、気絶してた私に気を使って待ってくれたのかな。
今日は私のポンコツ加減が浮き彫りになる一日で悲しみしか感じない。
「一度着替えてくるから、一緒に食べよう」
「うん! 待ってるね、兄さま」
ベッドから降りた私は兄さまと一緒に部屋の外に出て、部屋に戻っていく兄さま見送る。
ひらひらと右手を振りながら、ふと気絶する前に左手が痛かったことを思い出した。
「……」
あの時、私のアザには一体何が起きていたんだろう。
これ以上兄さまに負担をかけたくないから、扉を閉めてからアザチェックを開始!
たぶんベッドに寝かされる前に、エスが私を着替えさせてくれたんだろう。
ワンピース姿の私の手は、手袋をしていない素手の状態になっている。
さて……と。
今こそ、闇に隠されし我の真の姿が垣間見えし刻ッ……!
なんて格好をつけて、天井の明かりに左手をかざして見ると……。
「……え?」
前に見たときよりも、アザが薄くなっているような気がする。
なんで? 私何もしてないよ??
それとも記憶がおかしかったこととアザが、何か関係してたりとかするのかな?
記憶と言えば、ご飯の話題に気を取られて、他に何か忘れていることがあるかを聞き出すのに失敗していた!
「うーん、それにしても……」
力に目覚めるような兆候も全然見られないし、アザがこのまま薄くなってくれれば、黒の神子にならなくて済むのかな?
なんて風に一瞬安堵しかけたけど、ヒナタちゃんの階段落下事件が起きたばかりでまだ断言できない。
油断しかけたところに起きた事件だったから、気を抜かないようにしないと。
でももし、黒の神子が力に覚醒しなかった場合、闇の根源はどうやって目覚めるんだろう?
白の神子であるヒナタちゃんはすでに召喚されたから、黒の根源が目覚めないなんてことはきっとないと思う。
だとすると、黒の神子の代替として、黒の根源を目覚めさせるような要因が他にも存在するのかな?
でも黒の神子の代わりに闇の根源を目覚めさせるような存在が何なのか、想像できない。
「……もしかしたら今までに、私が見落としていることがあったりするのかな」
今の状況はストーリーとは違うようで、何かしら似たようなイベントが起きている。
変化を求めたのは私だけど、破滅回避出来そうな感じがするようでしないような気がして、若干のコレジャナイ感がある。
落ち着いて考えてみるとそれはまるで、日常の整合性が保たれる範囲で世界が何かによって巧妙に欺かれているように感じられて、どこか薄気味悪さを感じさせた。
きっとこんな風に感じるのは、ストーリーを知っているからこそなんだろう。
「未来が見通せないなんてことは、ごく当たり前のはずなのにね」
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