第098粧 悪役令嬢のほっぺすりすりまどろみタイム
ふと。
ふわふわとした夢見心地の中、手にじんわりとした温かみを感じた。
心地の良い温度をもっとしっかりと確かめたくなって、手を動かそうとする。
何故か一瞬だけ引っ張られるような感覚がしたものの、そのあとはつっかえが取れたように意志通りに動いてくれた。
「んん……」
手を頬に当てるとじんわりと頬に伝わる手の温度からは、まるで自分のものではないような温度差を少しだけ感じる。
「あった……かい……」
誰かがそばにいてくれているような安心感をもたらしてくれる体温をもっと感じたくて、手をぎゅーっと頬に押し付けた。
「……ノワールは、俺が守るから」
そのとき、兄さまが真剣な口調で喋っているように聞こえてきた。
「うぅ……ん?」
兄さまの声で、私の意識が一気に覚醒していく。
そして、いつも寝ているお布団に包まれるような感触と、ほんのりと安らぐ香りがすることに気が付いた。
私がいたのは、自分の部屋のオフトゥンだった。
こうやって横になっていると、もうちょっと寝たいなあなんて思ってしまう。
そんなわけで、夢見心地だと思っていたけど、実際に寝ていた件。
それにしても、いつ寝たんだっけ?
寝たときの記憶がないんだけど?
それに夕飯食べたっけ?
そもそも今何時?
そこまで考えた私は、時間を確認するために辺りを見回そうと思い、まだぼやける目をこすろうとして手を動かしたけど……左手がまた引っ掛かるような動きをする。
「うー……?」
「……気が付いたのか?」
声が聞こえる方向にぼんやりとした目を向けると、女装姿の兄さまがベッドのそばに椅子を寄せて座っていた。
そう言えばさっき兄さまの声が聞こえたんだった。
「兄さま? いま何時? ご飯はまだかなあ?」
「おま……はぁ……。呑気だな……」
兄さまが溜め息と共に手を放すと、私の左手も自由に動かせるようになる。
あ、私の手が動かなかったのって、兄さまが握ってくれてたからなんだ。
むう、それだったらもうちょっと握ってくれると良かったのになあ。
それに良く考えてみると、寝ぼけてるときに私が頬ずりしたのって、兄さまの手だったのかー!
私よ、何故寝ぼけてたし!
どうせだったら意識のはっきりしてるときにスリスリしたかったー!!
あわよくば、手をにぎにぎして感触を味わえばよかった!
いろんな意味で残念すぎる!
私の考えてることが残念などとは言ってはいけない! 絶対にだ!
「いつもなら、そろそろ寝る時間だ」
「えっ!?」
「夕食はノワールが起きたら持ってくるようにエスに伝えている。もうすぐ様子を見に来るだろうから、少し大人しくしておけ」
「なんだー! ふぅ、焦った」
思ったより長い時間寝ていたことを知らされた瞬間に飛び起きたけど、兄さまの言葉に安心してベッドサイドに座り直した。
そう言えば、私が兄さまの部屋に行くことは多いけど、兄さまが私の部屋に来ることは滅多にない。
全く来ないわけではないけど。
私はどうでもいい用事でも気軽に行くのに対して、兄さまからすると私の部屋にわざわざ来るような用事がないからあまり来ない、とも言えるかもしれない。
……悲しい!
だから今、私の部屋に兄さまがいることが嬉しくなって、少し顔が緩みそうになる。
「なにニヤニヤしてるんだ……」
「え? どうして兄さまが私の部屋にいるんだろうって思って!」
緩みそうなんじゃなくて、緩んでいた!
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