第096粧 婚約者は白の神子に手を差し伸べた! しかし好感度が足りない!!

 思いがけないタイミングで聞こえてきた婚約者の声に、私の背筋がぞわっとする。


 でも、ガイアスが……白の神子の使者が来たのなら、もう心配ない!

 ヒナタちゃんは絶対に助かる!


 私が心の中で断言するのと、階段の床からベキベキと音が聞こえてきたのはほぼ同時だったかもしれない。


 凄まじい音に続いて、植物が床を割って勢いよく飛び出して来ると、驚いたヒナタちゃんが短く悲鳴をあげた。


「きゃっ!」


 植物のツタは瞬く間に成長し、地面に衝突する寸前だったヒナタちゃんを優しく包み込む。


 そうして私の右手は、ヒナタちゃんに届く前にツタによって阻まれてしまった。


 偶然のタイミングでしかないのだけど、ガイアスに私の存在を拒まれたように感じてしまってチクリと胸が痛むような気がしたけど、ヒナタちゃんが助かったことに一安心。


「よ、良かった……助かった……」

「にゃあ」


 ほっとした途端に気が抜けて思わずしゃがみこむと、いつの間にか威嚇をやめたオプスが私の膝に前足を乗せて甘えてきた。


「にゃー」


 さっきまで触ろうとすると逃げようとしていたけど、今は大人しくしているので思う存分なでなで出来る。


 行き場をなくした右手でオプスを撫でていると、私は一人ぼっちじゃないと勇気づけられるような気がして、少し安心する。


 まるでツタによって世界が二つに分かたれたような光景の中、私はオプスと一緒に大人しく向こう側の様子を眺めることにした。


 でも、なんだか胸がむかむかする……ような気がする。

 それに頭も少し痛い。


「神子さま!!」


 土の使者であるガイアスが、緩やかに地面へと下ろされたヒナタちゃんの元に駆け付けた。


 いつもふわふわした空気を醸し出すガイアスが今は緊張感に溢れた表情でヒナタちゃんに手を差し伸べる姿は、まるでお姫さまにかしずく騎士のようにも見えた。


 まあ、そうだよね。

 二人は白の神子とその使者なんだから、そう見えるのはあながち間違ってない。


 でもそんな光景を見ていると、何だかガイアスが遠くに行ってしまったように錯覚してしまう。


 いつもガイアスを避けているのは私なのに、何故か寂しく感じて……。


 あれ? これ嫉妬じゃないよね?

 いやまさか……だってそんな資格も理由も、私にはないわけで。


 助けようとした間に、色んなことを一気に考えすぎたから、頭が混乱してるのかな。


「ガ、ガイアスくん……! あ、ありがとうございます……!」


 ヒナタちゃんは差し出された手を取らずに、震える声で礼を言って自分の力で立ち上がる。

 ヒナタちゃんからガイアスに対する好感度は、まだまだな様子。


 それにしても普通は、ヒロインが攻略対象の好感度を上げるのでは?

 なんだかヒロインと攻略対象の立場が微妙に逆転しているような気がする。


 ちなみに、役目を終えたツタは、するすると地面に逆戻りしていた。

 ……床は穴が開いたままだけど。


 これ、誰が修理するんだろう?


「神子さま、大丈夫? 何があったの?」

「その……階段から落ちてしまって……」

「うん?」


 答え辛そうに曖昧な返事をするヒナタちゃんの様子に首を傾げたガイアスが辺りを見回す。


 あっ! ぼーっと二人のことを眺めて見てたけど、よく考えるとまずいまずい!!


 私は悪いことはしてないし今は兄さまの格好をしているから、なんてことはないような気はするけど……。


 だけど、ヒナタちゃんが私の目の前で落ちたことを考えると、このままだとストーリー的に婚約破棄への一歩を歩んじゃうことになるのでは!?


 今ガイアスに私がいることを知られるのは、絶対に良くない!

 白の神子階段落下事件の容疑者候補から、黒の神子が外れるようにしなくては!


 私はガイアスに見つかる前にオプスを抱き上げてそろりと立ち上がろうとする。


「え? キュリテ?」


 した……のだけど。


「あっ」


 怪訝そうな瞳で見つめて来るガイアスと、私の目が合ってしまった。


 犯人じゃないけど、現場に戻ってくる前に見つかってしまったよ……。

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