第095粧 白の神子、危機一髪!
ヒナタちゃんの守ると言う言葉に意外さを感じると同時に、どこか胸が締め付けられるような感覚を受けた私が呆然としていられたのは、一瞬のことだった。
「っ!」
突然左手の甲に鋭い痛みを感じて、思わず声を出しそうになる。
すぐに和らいだものの、私はじんじんと痺れ続ける左手を咄嗟に庇おうした。
ヒナタちゃんは私がぼうっとしているうちに階段の踊り場に辿り着いたらしい。
私の様子に気付いたのか、私よりも高さのある場所から困惑した表情をこちらに向けていた。
「ど、どうしましたか?」
実際のところビックリした上にまだ小さな痺れが続いているだけで、辛く感じるような症状でもないので、本当にたいしたことはない。
と言うか、戻って来られて説明が必要な状況になったとき、どう誤魔化せば良いんだろう。
手の痺れについて言うと、きっとヒナタちゃんは「手袋を外して手を見せて」って言うような気がする。
だけど、白の神子に黒の神子のアザの事を知られるわけにはいかないから、見せられるわけがない!
まだ家族にしか見られたことないのにー!
要するに、戻ってこられるとすごく困る!!
「な、なんでもないから、気にしないで先に行っていて」
私は何でもない素振りを見せて、戻って来そうな様子のヒナタちゃんを慌てて制した。
「ほ、本当ですか? 痛そうにしてましたけど……」
「うん、大丈夫。それに、闇の気配を感じたなら、早くみんなと合流した方が良いんじゃないか?」
「でも……」
まだ心残りがありそうな表情をしているヒナタちゃんを説得していると、不意にオプスが唸り声を出し始めた。
「ウゥー……!」
どうしたんだろうと思って足元に視線を落とすと、それまで階上に向いていたオプスの目線がヒナタちゃんの方向へ移動していた。
「も、もしかして、猫さんに引っかかれましたか!?」
「何もされてないって! 俺のことは良いから、先に行くんだー!」
こんなタイミングで、一度は言ってみたかったこの台詞を言うことになるとは思わなかったー!!
唸り声をあげたオプスの様子にヒナタちゃんが勘違いしたのか、慌てて階段から降りてこようとする。
まるで飛び掛かりそうな雰囲気を醸し出すオプスをヒナタちゃんに近付けさせないために、私はどうにかオプスを抱っこしようと手を伸ばす。
その瞬間。
「えっ……?」
ヒナタちゃんのドキリとするような声が聞こえて来て、私は思わずビクッと跳ねるように階段を見上げる。
「どうし……」
ヒナタちゃんへ問いかけようと思った言葉は、最後まで出なかった。
顔を上げると、ヒナタちゃんは階段から降りようとしているところだった。
けれども、上半身が不自然にのけぞっている姿を見て、私は息を飲む。
ヒナタちゃんの身体が、まるで誰かに押されたかのように階段の踊り場から投げ出されているところだったから……!
「……っ!」
知っていたはずなのに、私が悪役令嬢の格好をしていないことですっかり油断していた!
階段の踊り場での、悪役令嬢とヒロインの遭遇。
……さっきから何回か、一緒に階段上り下りしてるけど。
どう考えても、何らかのイベントの予兆を感じる配置。
……近付いたの私からだけど。
私が悪役令嬢としての姿をしていなかったとしても、結局は乙女ゲームのシナリオに関連する物事が起こり得るのだと実感した。
でも今は、乙女ゲームのこととかツッコミとか、そんなことを考えている場合じゃない!
何より重要なことは、今私の目の前にいるヒナタちゃんが、怪我をしそうだってことで……!
助けに行かないと……!
そう思った瞬間、左手の甲が何かを感じ取ったように、先ほどよりも明確に強く疼いた。
「ッ!」
こんな痛み、耐えてでもヒナタちゃんを助けないと……!
「ッ……危ない!!」
「は、離れてください!!」
着地地点で下敷きになる形で受け止めようと走ろうとした時、ヒナタちゃんの叫びによって私は反射的に静止してしまう。
「あ……!」
ダメだ、今からだともう受け取れる体勢がとれない!
「ヒ……ヒナタちゃん……っ!」
どうして私はこんな大事なときに、あるはずの力もロクに使えないの!!
それでも最後の望みとして、目の前に落下してくるヒナタちゃんに向かって右手を伸ばす。
ただ呆然としているだけなんて、絶対に出来ない……!
「届け……!」
呟くと同時に、突然指先に何故か大事だったものをつかみ損ねてしまったような感覚と、胸がぎゅっと詰まるような思いを感じる。
「え……?」
思わず焦ってヒナタちゃんの無事を確認する。
まだ落ち切っていない!
だからどうか、間に合って……!
私はもう後悔したくない……!
「零から一を生み出す、大地の力よ!」
そんな中、ふんわりとして聞いたことがある、だけどいつもより緊張感を孕んだガイアスの声が、廊下内に反響した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます