第094粧 黒猫のもふもふ攻撃! 黒の神子はもふを堪能したくて身動きが取れない!
無事に印刷物を運び終えた私たちは、教室に向かって並んで廊下を歩く。
「キュリテくん、ありがとうございます! とても助かりました……!」
「どういたしまして。お役に立てたならなによりだ。ところで、今日の放課後は訓練?」
「は、はい! 使者の皆さんと一緒に訓練です」
「そっか。応援してるよ」
「はい! ありがとうございます」
一応私は敵サイドなんだけど、応援しちゃって良いのかな?
なんて思いながら、これから上る階段を見上げたときだった。
視界の端に、黒い影が映り込んだ!!
「っ……!?」
ヒェッ!?
なんか黒いのが階段の上にいる!!
まさかゴキッ……!?
……と思ったけど、よく見たらそこに居た存在はゴキよりも大きい黒猫でした。
危うく兄さまの格好で叫ぶところだったよ!
でも良く考えてみると、こんなでっかいゴッキー居たら怖すぎる……。
それにしても、どうして校舎内に黒猫がいるんだろう……? と思っていると、黒猫が階段からぴょんっと飛び跳ねた。
「わっ!?」
百点満点な着地を見せた黒猫は、迷いなく私の足元に辿り着いてぐるぐると回り始める。
「……にゃー、にゃ」
「も、もしかして、オプス?」
駄犬くんの騒動ぶりに出会った黒猫を抱き上げようとしたものの、するりと手をかわされてしまう。
オプスは私の方ではなく、何故かさっきまで居た場所の近くをチラチラと見上げている。
まるで何かを警戒しているように鋭い視線を追ったものの、そこには何もなかった。
……え? もしかして、私には見えてないだけで、幽霊でもいるの?
や、やめてよ? 黒の神子でも、おばけは怖いんだよ?
「あれ? 猫さん?」
突然現れたオプスの動向に夢中になっていると、隣からヒナタちゃんの声が聞こえてきて我に返った。
「この猫さん、どこかから迷い込んでしまったのでしょうか」
私にすり寄るオプスの様子から、「人懐っこい普通の黒猫」だと思ったのかもしれない。
ヒナタちゃんは私とオプスを見比べた後に、珍しいものを見るような様子でしゃがみこんでオプスに手を出そうとする。
でもオプスは手が近づいてきたことに驚いたのか、引っかくような仕草をした。
「フー……!」
「ひゃっ!?」
「だ、大丈夫? 怪我してない?」
「は、はい……」
幸い触れる前に手を引っ込めたので怪我をしていなかったみたいだけど、黒猫に嫌がられたヒナタちゃんはしょんぼりしてしまう。
私はオプスが触らせてくれるから良いけど、ぬこに触ろうとして逃げられると悲しいよね。
分かります!
そんな訳で、私の足元でオプスがすり寄る傍ら、ヒナタちゃんをよしよしと慰めると言う謎構図が出来上がった!
そう言えば、オプスは黒の神子の使い魔だけど、白の神子に目撃されても大丈夫なのかな。
いつもは呼んでも出て来ないオプスが、寄りによってヒナタちゃんと一緒のタイミングで現れるとは思わなかったよ……。
今のところヒナタちゃんはオプスを普通の猫だと思っているようで、闇の勢力バレしたような反応は見られない。
ひとまずは、安心しておこう!
それにしても……。
「う、動きがたい……!」
オプスはいまだに私の足元にピッタリくっついて離れようとしないし、抱っこしようとすると器用に避けられるので、大変身動きが取りづらい。
べ、別に、久々のもふ味をもうちょっと楽しみたいから動きたくない! と思っているわけではないので!
……若干は思ってるけど!!
どうしようかと思っていると、少し元気を取り戻したヒナタちゃんが首を傾げて言った。
「黒猫さん、キュリテくんと遊びたいのでしょうか?」
「う、うーん。それにしては抱っこしようとすると避けるんだよね……」
なので、もふいのは足元だけである!
「私……先に戻っていましょうか?」
「一緒に戻りたかったけど、そうしようか」
「はい。あの、キュリテくん。出来れば……早めに教室に戻って来てください」
「ん? 何か用事?」
「学園内で少しだけ……闇の気配を感じるので……」
「えっ? 闇の気配……!?」
まさかオプスの正体がバレた!?
「あっ! まだ、確証はないので、戻ったら皆さんに相談してみようと思うんです。早いうちに気付けば、きっと……この前みたいには、ならないと思います」
この前、と言うのはきっと駄犬くんの闇の使者騒ぎのことを言っているんだろう。
あの時はオプスとウォルターが助けてくれたから無事で済んだけど……。
もし最後まで一人だったら、私は破滅イベントの前に死んでいたかもしれない。
当然、無関係な人が巻き込まれたりでもしたら……と考えただけでも恐ろしい。
悲惨な未来を想像してしまい、思わずぞっとして身体を抱くような姿勢の私に、ヒナタちゃんが優しく言った。
「大丈夫です、ノ……キュリテくん。私たちが……守ります」
「へっ?」
まさか白の神子に……それも普段気が弱そうなヒナタちゃんに、守ると言われると思わなかった私は、思わず間の抜けた声を出してしまった。
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