第2着 女の嫉妬は駄犬も食わぬ
第093粧 黒の神子は白の神子のお手伝いをする
気付けば、ヒナタちゃんは学園生活に慣れて来た様子。
ノワールを演じる兄さまだけじゃなくて、他の女の子とお話しているところも段々と見かけるようになった。
この傾向は、よきかなよきかな。
兄さまが男の子だから、そうせざるを得なかった可能性も否定できないけど……。
相変わらず多くの男の子とは距離を置いているけど、使者との交流は少しずつ出来ているみたいなので、白の神子としては問題ないんじゃないかな。
ついに、兄さまが案内から卒業出来る日も近いかも?
なんて風に日々の彼女の様子を見ているうちに、気付いたら親心みたいなのが芽生えていたよ……。
私はヒナタちゃんとは敵対する黒の神子側だけど、なんだか彼女のことを放っておけなかった。
そんなある日の休み時間。
ヒナタちゃんが印刷物を大量に持って廊下を歩いている場面に遭遇。
ふらふらした足取りで、そのうちこけちゃうんじゃないかと心配になるくらいで見ていられない。
「そんなに沢山印刷物持って、どうしたの?」
「あっ、ノッ……キュリテくん。先生に頼まれて……職員室まで持って行くところだったんです」
ヒナタちゃんに敬語は使わなくて良いと言ったけど、相変わらず口調は変わらなかった。
まあ彼女はみんなに対して敬語を使ってるみたいだし、すぐには無理だよね……。
あたりを見回すと他に誰も見当たらないので普段通りに話しかけたけど、ヒナタちゃんは私をキュリテとして返事してくれた。
そっか、他に誰か見てるかもしれないもんね。
なので、私も男の子モードにあわせることにした。
「誰か手伝ってくれなかったのか?」
「その……申し訳なくて……」
心から申し訳なさそうに言うけど、そこ遠慮するところじゃないでしょ!
「半分持つよ。ほら、貸してごらん」
「あ、え、で、でも……! それは私が頼まれたことなので……!」
「わた……俺がやりたくてやっているんだから、こういう時は遠慮しないで。それに、使者のハウザーやガイアスも頼っても良いんだからな?」
そう言えば、ウォルターは使者として認識されてるのかな?
「でも、これは使命とは関係ないので……みなさんに迷惑をかけるのは……」
「大丈夫、迷惑だなんてことないって。普段から話すきっかけになると思うよ。それにこういうのは、持ちつ持たれつ。だから、その荷物の半分は貰うよ」
「あっ……!」
抵抗してこないし、ささっと紙を上から半分ちょっとのところで勝手に取る。
「あ、有難うございます……!」
「お礼はちゃんと届けてからな」
「はい!」
と言うわけで、私たちは二人並んで教室に向かう。
「もうこの世界は慣れた?」
「はい、いつもノワールちゃんが良くしてくれるので……! それに、最近はガイアスくんたちとも少しお話しできるようになりましたっ……!」
どっちのノワールだろう? 兄さまかな? なんて考えつつ、ぱぁっと花が咲くような笑顔を見せて話すヒナタちゃんの様子に、私は安心した。
「うんうん、それは良かった」
「あの、どうして私にここまで良くしてくれるんですか?」
「えっ?」
ヒナタちゃんは周りをキョロキョロ見渡してから私の方に近寄ってきて、小声で呟いた。
「えっと……ノワールちゃんと私は、直接関りがなかったですよね……」
今度のノワールとは、私のことだね。
確かに。
駄犬くんの決闘騒ぎがなかったら、気になってソワソワしながらも直接は関わらなかったかもしれない。
もし関わったとしてもきっと、悪役令嬢は今兄さまがやってるから……。黒の神子としてかな?
「うーん。一人って寂しいじゃない?」
距離も近いことなので、普段通りに話すことにした。
「は、はい」
「私ね、普段は兄さまたちがいてくれるけど、同性の友だちって今までいなかったんだ」
「そう……なんですか?」
意外そうに言うヒナタちゃんに、私は頷いた。
「だから、もし女の子だけの輪に入ることになったら、私はきっと孤立する。そうなったら、一人で寂しい思いをすることになるでしょう?」
「……そう、ですね」
「そう考えたら、孤立しそうなヒナタちゃんのこと、自分のことのように思えて放って置けなくてね。……それに、友だちが欲しかったのもあるかな」
黒の神子としてどうしたらいいか、と言うのは別にして。
折角お話するきっかけを持てたんだから、普通の女の子として、友だちになりたかった。
最初にヒナタちゃんを遊びに誘ったときにはもう、無意識にそう思っていたのかも。
「だから、これからも……仲良くしてくれると嬉しいな」
「は、はい!」
はにかんで返事をしてくれるヒナタちゃんを見て、私も嬉しくなって微笑み返した。
「よろしくね!」
黒の神子として目覚めることがなく、このまま仲良く出来ますように……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます