第092粧 白の神子は恋愛に夢見がち(※ただし他人に限る)

 兄さまがまだ戻ってこないので、ヒナタちゃんと二人でお店の外を眺めながらのんびりお茶をする。


「そうだ! ヒナタ嬢」


 この機会にヒナタちゃんともうちょっとお近づきになろう!

 ……後で兄さまから何か言われそうだけど。


 目指せ! 白黒神子の友情エンド!


 勢い込んだ私は、机に少し乗り出してヒナタちゃんに話しかけた。


「はい」

「二人っきりのときにヒナタちゃんって呼んでいい?」

「ひぇっ!?」

「ほわっ!?」


 えっ? 何でこのタイミングで驚かれるの? 驚く要素なんかあったっけ?


「あっ……馴れ馴れしいかな?」

「い、いえ……! あの、ただその。今のノワールさんは男性の格好なので……。二人っきりのとき、と言われると……緊張してしまって……」

「あ、そうだね。それに良く考えてみると、案内役でも無しい、二人っきりになるタイミングってあまりなさそうだもんね……」

「あ、あの! 今回みたいに一緒に遊びに行くときは、その……ぜひ、ヒナタちゃんって呼んでください」


 しょんぼりしかけていると、ヒナタちゃんが上目遣いに照れた様子言う。


「あ、ありがとう! ヒナタちゃんも、二人きりのときは私のことノワールって呼んでね! さんって付けなくて良いんだよ? それに、他の人がいないときは敬語も使わなくて大丈夫だからね」

「えっ、で、でも……。ノワールさんとキュリテくんは、理由があって変装しているのですよね……?」

「う? うん」

「それなのに、あの……変装中でも本当の名前で呼んでしまって大丈夫なのでしょうか?」


 はっ!? もしかしてこれは、遠回しに迂闊だと言われている!?


「ガイアスに気付かれなければきっと大丈夫!」

「は、はあ……」


 自信をもって答えると、何故か心配そうな顔で見られた。


「でもお二人は……婚約者なのですよね?」

「うん」


 たぶん、どうして婚約者に入れ替わってることを秘密にしているんだろう、と言いたいんだろうなあ……。


 本当は破滅回避のため、ヒナタちゃんにも秘密にするはずだったんだけど……。

 バレたおかげか、前回のお出かけのときよりもヒナタちゃんのぎこちなさが減った気がする。

 そう考えると、結果的にバレて良かったのかもしれない、と思った。


「ガイアスは入れ替わっていること、気付くのかなあ」

「気付かれてないのですか?」

「うーん、違和感はあるみたいなんだけどね」

「違和感……ですか。……はっ!」


 ヒナタちゃんが何かに気付いたように真顔になった。


「どうしたの?」

「入れ替わりが秘密なのは、ノワールさんからガイアスくんに対する……愛の試練ですね……?」

「ん? ……試練?」


 なんだって? 今この子、なんて言った?


「愛の試練です……! ノワールさんはガイアスくんがいつ気付くか試しているんですね……! 入れ替わりに気づいたとき、ノワールさんはガイアスくんのことを認め……」

「ちょっ、待って! そう言うのじゃないから!!」


 妄想と共にどこかにトリップして行きそうなヒナタちゃんを慌てて止める。


 ヒナタちゃんって、素はこういうキャラなんだ!?


 乙女ゲームのヒロインだけあって、恋愛には夢見がち……なのかな?


 ただし、男性恐怖症のことを考えると他人の恋愛に限りそうだけどね……!


 そうやって雑談しているうちに兄さまが戻ってきて、お待ちかねのスイーツもやってきた!


「ノ……ノワールちゃん、少しいりますか?」

「うん! ありがとう!」


 羨ましそうにヒナタちゃんのシフォンケーキを見ていると、恥ずかしそうに一切れ分けてくれる。

 うーん! いい子だねー!!


 結局ヒナタちゃんは、私のことをさん付けではなくて、ちゃん付けで呼んでくれることにしたらしい。


「……ちゃん?」

「あ、その……」

「私がそう呼んで良いって言ったの」

「いつの間に……。だいたい、普段呼ばれることになるのは俺なんだが?」


 兄さまがムスッとした表情をするので、思わずほっぺたをツンツンしてしまった。


「そのほっぺた、ちょっとだけ突いても良いかな? かな?」

「もう突いてると思うんだが?」

「それは失礼しました」


 だけどあともう二突きくらい失礼して……。


「いつまで突いてる気だ?」

「あまりにも感触が良くて、手が止まらなかった」


 真顔で返すと兄さまにほっぺたを突き返された。


「ぷー……」

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