第006粧 兄さまとポンコツ令嬢参上
翌日、私はスキップしながら兄さまの部屋に向かった。
「にーいさまー!」
そしてウキウキ気分で扉を開けると。
「うわあああ!??!?!」
――ガタガタガタッ。
珍しく兄さまが慌てている。
と言うか、なんでか床に這いつくばっているんだけど。
え? なんで??
「あ、あぶなっ」
「え? なに、今何か隠してた?」
「なにも隠していない」
「えー、その下見せてよ!」
「だから何もない。腕立て伏せしてたらお前が急に入って来るから、びっくりしてバランス崩したんだ」
「ほんとにー?」
ほら、と言って立ち上がった兄さまがいたところには、確かになにもない。
うーん? じゃあなんであんな派手な音したんだろう?
よく見るといつもしてる手袋をしてないから、本当に腕立て伏せやってた……のかなあ?
ふかふかじゅうたんの自室で?
「それよりも、扉を開けるときはノックをするように」
「良いじゃない、兄妹なんだから減るもんじゃないでしょう」
「一応、嫁入り前だろう!」
「兄さまの言い方、父さまっぽい」
「あの人の神経質なところが似たのかしらねえ」
ふと会話に割り込んで来た、私と兄さま以外の声。
部屋に来たのが私だけだと思ってたのか、兄さまは目を真ん丸くして驚いていた。
「は、母上?」
そう!
突然登場したこちらの方が、なんと本日の最終兵器・母です!
「今日はあなたたちの進路について、話をしに来たのよ」
「進路? 俺たちは春から王立学園に入学する予定でしたよね」
春って言っても、もうそろそろなんだけどね。
ちなみに兄さまは、両親には丁寧語で話す。
……私の扱い、雑じゃありませんこと?
「そうね。ノワールの入学試験の成績はちょっと……ポンコツが過ぎるかなってところがあったけど」
「えっ」
母さま母さま、いまポンコツって言わなかった?
なんで私の話してるの?
事前に話していた『キュリテ姉さま計画』はどうなったのー!?
「それでも何とか入学できそうだから良かったわ」
「ノワールの言動はちょっとあれですが、そこまで頭悪くないですよね。なのになんとか、ですか?」
え? ちょっと兄さま発言が何気に辛辣じゃない?
あれってなに? なんでそこをオブラートにしたの??
「それがね……。解答欄を一つずつ間違えて記入していたそうなのよ……」
「はあ……?」
「きちんと解答していれば、全問正解に近かったのよ……」
「通りで! なんか最後に謎の空白があると思ったよ!」
私は顔の前で左手の甲を外側に向ける中二病のポーズをとって見せた。
なんかこのポージング、好きかもしれない。
兄さまの前では、ぜひとも今後も使って行きたいと思います。
「だからそのアザをむやみに見せびらかすんじゃない。……最初の一問目はどこに?」
「名前のところに書いていたそうよ……」
「お前、どうやったらそんな間違いができるんだ……」
二人して私のことを呆れた顔して見てくる。
あれ? それにしても、何かおかしくない?
「なんで名前のところに解答が書いてあったのに、私って分かったの?」
「あなた答案用紙の隅っこに、『悪役令嬢ノワール参上!』なんて書いていたじゃない!」
バーン! と言う効果音が鳴りそうな勢いで、母さまが解答用紙を私たちに掲げる。
「えっ!? ……あっ!!」
「本当に書いてあるな……」
そうだ! 割と時間が余ってたから、余裕風吹かせて落書きしてたんだった!
それが、まさかの消去忘れ……!?
「これを先生に見せられたとき、とんでもなく恥ずかしかったわ!!! 『こちらの解答用紙ですが、お嬢さまのものですよね……?』なんて、生暖かい目で聞かれたときのあの気持ち!!! 恥ずかしかったわ!!!!」
しかも、まさかそれが母さまに見られることになるなんて……!
「母さま、大事なことなので恥ずかしかったことを二回言ったんだね!!!」
「おバカ!! あんなの書いている暇があったら、名前のところからちゃんと見直しなさい!! やればできる子なのに!!」
それ褒めてるの? 貶してるの?
あと母さまったら、そんなに大声で言わなくてもいいじゃない。
消去し損ねた黒歴史の公開処刑だよ!
両手で顔を覆う母さまの隣で、兄さまがため息交じりに痛い子を見るような目でこっちを見てくる。
「俺の妹が厨二病な件……」
ヤメテ。
私も母さまみたいに顔を隠したいよ!
と思ったけど、よく考えてみると、手を下ろすタイミングをなくしてさっきの中二病ポーズのままだった。
なので、そのままのポーズでちょっと呟く。
「悪役令嬢、ノワール参上……」
「ふっ」
兄さまが笑ってくれる。
「ノワール。それ、入学したらやめるように」
笑いながらも警告するのも忘れなかった。
それにしても、おかしいな?
私は兄さまに女装を促しに来たはず……。
本来の用件を話さなければー!
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