第007粧 兄さまを回り込んだ!!

「こほん。さて本題はこれからよ」


 咳ばらいを一つして、冷静になった母さまが仕切り直しを始める。

 私も背筋をピシッと伸ばす。


 本当の戦いは、これからだ!

 ノワール先生の説得にご期待ください!


 説得するのは母さまですが!


「ああ。さっきのが本題ではなかったんですね」


 あれが本題でたまるもんですかー!


「それでも進路の話と言うことには変わりありません。さて、キュリテ」

「はい」

「ノワールから聞きました」


 何の話? と問いたそうな視線をこっちに向ける兄さま。


「ノワールはちょっと……事情が複雑でしょう。同性の友人もいないものだし、他の子と一緒に学園へ通うのは心配なのよ……」


 母さまから手の掛かるちびっ子みたいな扱いを受ける件。


「黒の神子に関してなら、手を隠せば良いだけだと思うのですが」

「しっ」


 ツッコミ気質な兄さまを喋らせてはいけない!


「この子……どこか抜けているところがあるから心配なのよね」

「ああ……」


 そこ!

 納得しない!

 脱線しない!

 こっちに矛先向けない!


「なので、提案があります」


 良かった、脱線の末に脱輪しなくて済んだー!


 先を促すように、兄さまはじっと母さまを見返した。


「キュリテは女装してノワールと入れ替わりなさい」

「……」


 兄さまが今度は何かを訴えたそうに半目でこっちを見てくる。

 と言うか睨まれてる!


「あなたなら上手くノワールになりきれるわ」


 母さまのお墨付き、頂戴いたしました!


「いくらなんでも無理ありませんか? 入れ替わるってことは、ノワールが俺のかわりをやるわけでしょう」

「頑張ります!」

「本人はこうは言っていますが、絶対にボロ出ますよ」

「そうね」

「えっ」


 母さまから安定の信頼感のなさも、頂きました!


 いや、こっちは嬉しくないって!


「だから入れ替わること自体は、仲のいい子たちに言うべきでしょう。キュリテの友人なら、きっとフォローしてくれるわ」

「えっ!?」


 何それ聞いてない!


「ガイアスにだけは言いたくない、みたいな顔してるな……」

「それはもう、もちろん!」


 婚約破棄のための弱みを握られるような気分になるし!


「秘密を共有する人はあなたたちが好きに選びなさい」

「やったー! 兄さま母さま大好きー!」

「ノワール? 俺は、うんともすんとも言ってないんだが?」


 そう言いながらも、諦め加減な表情でいる兄さまでした。

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