第004粧 兄さまと破滅回避計画

「それで、俺に女装させて、お前が良く言う破滅を回避したいって?」

「そうなの! 例えば私の婚約者でかつ攻略対象の一人、ガイアスルートだと、こう!」

「いや、散々聞かされたし知ってるんだけど……」


 兄さまには英才教育を施し済みである、まる。

 そんな兄さまのツッコミはさておき、私は説明を続けた。


「婚約者と白の神子の仲が良くなったことが許せなくて、悪役令嬢ノワールは嫉妬に狂って黒の神子としての力に目覚めるの! その力を使って白の神子たちを襲おうとするんだけど、逆に退治されたノワールは生涯幽閉されることになるんだけど、孤独に耐えきれなくなってじっ……破滅するんだよ」


 破滅の直前までは息継ぎしないで説明したよ、どうだっ!

 噛まずに言えた!


 前に同じ説明をしたときに「自殺する」って言ったら、すごい剣幕で怒られたのを思い出して言い直した。


 今は微妙に睨まれてるのでちょっとアウトだけど、まだ怒られてないからセーフセーフ。


 ちなみに今言ったルートだと、ノワールが自殺することによって黒の根源が目覚めてしまう。


「ノワールはお前だろう、なんでそんなに他人事のようにイキイキと……。そもそもお前、婚約者に見向きもしてないじゃないか」

「それも破滅回避計画の内だよ! どう? すごいでしょう?」


 それなりに育っている私の胸を張ってみせる。

 兄さまは綺麗な顔に微妙な表情を浮かべていた。


「そもそも将来ガイアスルートに行くことがあるとしても、あまりの放置プレイに時折あいつが哀れになるくらいなんだが……。まあ構うと調子に乗るから、これぐらいが良いのかもしれないが……」


 浮気するような相手に憐れみを感じる必要なんてありませんー!

 実際のガイアスは、まだ浮気してないけど。


 だって白の神子ちゃんはまだ召喚されていないし。


「そんな状況で、お前が嫉妬に狂うとか考えられないんだが……」

「油断は禁物!」

「俺はそれを、お前のアザに対して言いたい」

「ぐっ」


 ぐうの音も出ない。出たけど。


「それなら、嫉妬のしようがないガイアスルート以外なら、問題ないだろう?」

「それもダメなの! どのルートも最終的にノワールは白の神子と敵対するの」

「なんでだよ、黒の神子だから? 面倒くさいやつだな、ノワールってやつは」

「私のことだけど、私じゃないから私に文句言わないでよ!」

「本当にそう思う。いつも聞いてる限りじゃポンコツなお前と性格が違うだろう? 完全に別人の話してるな、これは」

「ポンコツ言わない! とにかく!」


 ごほん。と一つ咳払い。


「白の神子と私が関わるとロクなことにならなさそうだから、兄さまと私とで入れ替わってフラグを回避しよう! と言うのがこの『キュリテ兄さま美少女化計画』、略して!!!」


 商品を紹介するような感じで、さっき下げさせられたウィッグと衣装を手に取って見せる私。


「ぱんぱかぱーん!! 『キュリテ姉さま計画』の趣旨でございます!!」

「ね、え……さま?」


 ふふふーん。

 一度兄さまを女装させてみたかったんだよねー!

 それで「姉さまー!」って言って沢山甘えたかったんだー!!


 女の子の格好した兄さま、もとい姉さまは絶対にきれいでしょう!

 これは間違いありません! ふふふー!


 呟いたまま目を見開いて呆然としていた兄さまが我に返った。


「ちょっと待て。なんだその計画名。目的と手段が逆になってないか!?」

「そんなことないものー! 一石二鳥なんだもーん。趣味と実益を兼ねるんだもーん!」

「ノワールはどうしてこんなに欲望に忠実に育ってしまったんだろう。悪役令嬢、黒の神子の宿命? いやそんなバカな」


 ぶつぶつと呟く兄さまの胸元にぐいぐい衣装とウィッグを押し付けると、嫌そうな表情で押し返された。


 でもそんな表情もなんか可愛い! いいよね!

 この顔が女装すると思うとたまりませんね!

 可愛くて、ぎゅーって抱きしめたくなるよね!


「こういうときだけ以心伝心って思うんだよ」

「え?」


 おっと。どうやら興奮が顔に出ていた様子。


 疲れた様子で兄さまは溜め息をついていた。

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