38. 親友との再会
→『今日本にいるんだけど、飲みにでも行かね?』
「蓮のやつ、帰って来てたのかよ。というか二年半ぶりだってのに挨拶もなしって……。あいつらしいけど」
大学から下宿先へと帰宅する際のいつもの帰り道。最近は珍しいバイトのないオフ日で何をしてやろうかと思案していたところに届いた親友からのメッセージを見て、思わず独りでツッコミを入れてしまう。
多少の驚きはあったものの、あいつの話は聞きたいし、俺も色々と話すことがある。随分と長い間会っていない気もするが、別にいまさら緊張するような仲でもないし、それほど文章を考えることもせずすぐに返事をした。
『久しぶりだな
ちょうどバイトもないから都合はいいけど、どこらへんに集まる?』←
→『あ、オレ一応有名人だった
できれば結人の部屋かオレの家で』
『それならうちに来るか?
その方が気も遣わないで済むし』←
→『そうだな
いろいろ持っていくから住所教えてくれ』
話が早くて助かる。正直なところ、蓮の家は行きたくなかった。何故かって? そんなの大豪邸で高そうなものばっかり置いてあるからだよ。子供のころは壊したらヤバいって思いながらビクビクして遊んだもんだ。
「よし、俺も買い出し行くか」
住所とマップアプリのスクショを送り、スーパーへと向かう。最後に会ったのは高校の卒業式で、なんだかんだ初めて酒を酌み交わすというのが感慨深い。
しかし、あいつは酒に強いのだろうか。それとも桜井先生のように弱いのだろうか。そういえばふみちゃんがお酒を飲むところは見たことないな。夏葉と芽衣はまだ当分先の話だけど、あいつらと飲むのは少し怖い。
そう考えながら、ふと思ったことが口をついた。
「あいつがいない大学生活はずっとボッチかと思ってたけど、気づけばいろんなところで関わって、こうして思い出すくらいに仲良くなった人たちがいるんだよな……」
女性ばかりということは置いておくとしても、これは俺も進歩しているということではなかろうか。こういう話も蓮に聞かせてやりたい。あいつはきっと、俺にいらない負い目を感じてるだろうから。
「……俺があのトラウマを乗り越えれば、きっと蓮も」
聞きたいことも話したいこともたくさんある。でもどうしてこのタイミングで帰国したのかは分からない。成人式のときにも帰ってこなかったし、今はけっこう忙しい時期のはずなのに。
「まああいつが誘ってきてくれたんだから気にせず楽しめばいいか!」
分からないことを考えるのはバカバカしいので、思考を放棄して酒とつまみを買い込む。店員から年齢確認を求められたりしたが、それなりの量を確保した。ただ、蓮は家もそうだがあいつ自身も金持ちだ。なんたって欧州の一部リーグでプレーするサッカー選手だぜ? しかも最近では日本代表候補に挙がるスター選手である。年俸もうなぎのぼりと言われているようだ。
あれ?あいつ酒飲んでもいいのか?
いや、それも気にすることではない。繰り返すが、誘ったのはあいつだ。容姿端麗、スポーツ万能、頭脳明晰、友達思い、家柄も超が付くほどいい。物語の主人公とは彼のことをいうんだと俺は思っている。
そんなすごい人間と幼馴染で親友というのは鼻が高い。けれど俺自身があいつの汚点になっている気もしてならない。
あいつに言うと本気で怒られるから口にはしないが、本気で俺みたいやつはいるべきじゃなかったと思うことがある。なあ蓮、あのときだってお前は……。
トボトボとネガティブな思考で下を向いて歩いていた俺は、いつの間にかアパートの前に到着していた。ふと顔を上げると、目の前には両手に大きな袋を持った親友の姿。
「よう、久しぶりだな。結人!」
「おう、久しぶり。早かったな」
くそ、相変わらずの爽やかイケメンだ。挨拶を返しながら、久しぶりの親友の姿を瞳に映す。
身長は少し伸びていて、筋肉量は格段に増えている。ジャージ姿がここまで似合うのはサッカー選手だからだろうか。声はまったく変わらない。手に持っているのはヨーロッパの酒とつまみだろう。
ん? これはまさか……。
懐かしさとともに時間の経過を感じながら蓮の様子を観察していた俺は、ここで一つの異変に気が付いた。
「車で送ってもらったからな。それよりも突然で悪かった。色々あって都合付けられるのが今日しかなかったんだ」
「それは全然いいんだけど……足のケガは大丈夫なのか?」
ゆとりのあるジャージによって見掛け上の違和感はないが、わずかながら立ち方と歩き方にゆがみがあった。ただ、足を引きずってはいないため軽傷だとは思う。
「やっぱりバレたか。考えてる通りもうほとんど治ってるから大丈夫だ。メディカルチェックのついでに日本代表の選考について話を聞くってことで急遽帰国したんだけど、思いのほか自由がないんだよな。チームもシーズン中で長くは帰国させられないらしいし」
「忙しいのに俺と酒飲んでて大丈夫なのか?」
「オレが誘ったんだぜ? 大丈夫に決まってんだろ。久しぶりに帰って来て結人に会わないなんて選択肢はオレにねえよ」
やべえ、かっけえ……。なんだこのイケメン。太陽みたいに輝く笑顔でそんなこと言われたら惚れちまうだろ。
「そ、そうか。時間つくってくれてありがとな」
「こっちこそいきなりの誘いなのにサンキューな。予定とかなかったのか? デートとか」
サラッと心を貫いてくる親友に俺は文句を言うしかない。自分の口から答えを言いたくなかったんだよ、チクショー。
とはいえ、例の件を気にしているはずの蓮がここまで思い切った質問をしてきたことには驚いた。何か心変わりでもあったのだろうか。
「……分かってて言ってるだろ」
「いや、本気で聞いたぞ。芽衣からいろいろ聞いたが、仲のいい女の子がいるんだろ?」
「また芽衣かよっ! あいつの口は豆腐か!?」
話しながら部屋の前まできたところで衝撃のカミングアウトをくらった俺は、ただそう叫ぶしかなかった。ご近所さん、夕方なので許してください。
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