第26話 業火に焼かれる

 「Eチーム全滅しました」

 オペレーターが冷静に状況を分析する。

 「あれが化け物の顔か」

 指揮官は最後にタマキが装着していたボディカメラの映像を見ている。

 そこに映るシューティングスターの姿は鬼と言っても過言じゃない程の恐怖を感じさせるものだった。

 「目標の移動範囲の予測ですが・・・」

 「アテにならんのだろ?」

 「すいません。情報不足です」

 「化け物過ぎる。人間だけだったら・・・敵わないな」

 恐怖を感じながら、決して、ヒューマアニマルが敵わないとは言えない為に出た言葉だった。

 

 Eチームが全滅した事を知った他のチームはEチームが居た場所を囲むように移動を始めた。その中で最も近い場所に位置しているのはFチームであった。班長のマカは全員にステルスを命じた。猫のように足音を立てず、静かに、素早く、彼女たちは進む。ヘルメットから飛び出した耳は常に周囲の音を聞き分ける。

 緊張で息が詰まりそうだった。

 マカは息を飲んだ。

 手にした短機関銃を握る手がグローブの中で汗ばむ。

 突如、先頭の隊員の首が飛んだ。

 「敵!」

 誰かが避けんだ。不用意に叫ばないように訓練をされた者達でもそのあまりの事に危険を叫ばずにはいられなかった。

 仲間の頭が宙を舞う間に残された者達は銃を構え、周囲を探った。

 何が起きた?何処に敵が居る?

 何もかもが不明だった。

 銃声が鳴り響いた。二人目の隊員の胸に大穴が開いた。

 防弾チョッキも含めて、弾丸が貫通したのだ。

 彼女はそのまま、地面に崩れ落ちた。

 「11時の方向!」

 そう叫んだ三人目の顔が破裂した。ヘルメットは宙を飛び、彼女の身体は激しい衝撃で数メートル、後方に吹き飛んだ。

 マカは構えた短機関銃を撃つ。まだ、敵の姿は見ていない。だが、撃たれた方角は解る。相手の持つ銃は多分、対物ライフル銃。距離は左程は無い。多分、店の中などから撃ったはず。ならば、弾幕を張れば、当たる可能性だってあるはず。彼女は咄嗟にそう思った。

 確かにそれは間違いでは無かったかもしれない。ただし、相手は間近に居た。

 巨大だったはずのヘカートⅡ対物ライフルの長い銃身はギリギリまで短く切断され、取り回しを優先させていた。その荒い切断面の銃口がマカの目前にあった。

 激しい銃声。

 マカの頭は吹き飛んだ。

 そこに立っていたのはシューティングスター。

 「うぅああああ!」

 最後に残った隊員がシューティングスターに銃口を向けて発砲した。だが、シューティングスターはそれを軽々と躱し、一瞬で隊員の傍に立った。その時には左手に持った大型ナイフが隊員の腹を刺し、背中まで貫いていた。

 「遅いぞ。仔猫ちゃん。それじゃ、殺せない」

 シューティングスターは小声で隊員の耳に囁くと、ナイフを引き抜いた。

 多量に噴き出す血と内蔵。

 隊員はガクガクと身を震わせながら、その場に崩れ落ちた。

 その時、銃弾がシューティングスターを襲う。新たなCATのチームが姿を現したからだ。そこにはタマの姿もあった。

 新たにそこに集結したのはCATの残りのチーム全てである。4チームは互いの位置を確認しながら、シューティングスターを囲い込む。

 「タマ、あまり前に出るな。連携が崩れる。確実に追い込め」

 クロが冷静に指示を出す。まだ、新人の多いCATではあるが、日頃の訓練のお陰で冷静に対処が出来ていた。

 シューティングスターは飛び交う銃弾を避けつつ、思うように身動きが取れなくなっていく。

 「ははは。こいつはヤバい。数で攻められると・・・さすがにね」

 だが、彼女の余裕の笑みは消えない。腰に装着した手りゅう弾を取り出すと口で安全ピンを抜いて、投げつける。

 爆発が起きる。CATの隊員の1人が爆発に巻き込まれた。

 「くそっ、隊員の後送に戦力を割けない。機動隊に突入させて、負傷者の後送をさせろ」

 部下が負傷したBチームの班長は無線機に叫ぶ。

 彼等も懸命だった。少しでも力を抜けば、シューティングスターはそこに飛び込んで来る。それは明らかだったからだ。

 たった一匹の敵を相手に19匹の特殊部隊隊員が総攻撃を仕掛ける。僅か半径500メートルも無い範囲での戦闘が長引く。

 シューティングスターの放つ銃弾や手りゅう弾がジワリ、ジワリと隊員達を傷付ける。激しい銃弾は街の至る場所に弾痕を残し、それでも尚、シューティングスターを捉えられない。

 「化け物か。普通、こんだけ、撃ったら、当たるだろ?」

 クロさえも相手の尋常じゃない動きに圧倒される。

 「軽機関銃でも投入して、火力で圧倒しないと無理じゃないですか?」

 ポチが叫ぶ。その通りかもしれなかった。ここで用いられるのは拳銃弾程度。貫通力はしれている。シューティングスターはそれを見越して、遮蔽物を上手く使い、走り回る。そもそも、シューティングスターの身体に拳銃弾は効果があるのか?誰もが、実は彼女の身体には拳銃弾が効いてないのではと言う疑問さえ湧き上がっていた。

 「拳銃弾がダメならライフル弾を撃ち込ませろ!狙撃班を前に出せ」

 クロの指示で後方で待機していた狙撃班が前に出る。彼女達が持つのはホーワ2000ボルトアクションライフル銃と64式狙撃小銃である。どちらも旧警視庁や陸上自衛隊が使用していたお古であるが、しっかりとメンテナンスされ、現役であった。

 狙撃手と彼女を支援するサポッターが動き回るシューティングスターを捉える。

 「くそっ、動きが早い。64式に任せる」

 それを聞いた64式狙撃小銃を構えた狙撃手が狙いを定める。視野の狭い照準鏡で動き回る敵を捉えるのは難しいが、それでもサポッターの指示を受けながら、何とか狙いを定めた。

 放たれる銃弾。

 だが、それはシューティングスターの鼻先を掠めただけだった。だが、彼女は一気に連射させる。それは狙ってはいない。多分、その辺りだという勘に基づいた射撃だ。

 だが、それは功を奏する。シューティングスターは慌てたように転げ回る。さすがにライフル弾を躱すなんて芸当は彼女にも出来ないようだ。

 

 「自動小銃か・・・やるじゃねぇか」

 シューティングスターは撃ち尽くした大型回転式拳銃を放り捨て、ナイフ一本だけとなった。

 「相手はナイフだけにゃ!」

 タマはそれを見て、飛び出す。

 「あっ!バカ!飛び出すな!」

 クロが叫ぶ。それと同時にポチも後を追うように飛び出す。

 タマは短機関銃を撃ちながら、シューティングスターに向かって駆ける。

 シューティングスターはナイフで弾丸を弾き飛ばす芸当を見せながら、タマを迎えるように睨む。

 

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