第27話 怪物退治

 「へへへっ。いつぞやのバカ猫じゃないか」

 シューティングスターはこの状況を楽しむように飛び掛かってくるタマに向かって叫ぶ。

 「黙れっ!」

 タマは手にした短機関銃が弾切れになると、素早く、手放し、レッグホルスターの自動拳銃を手を伸ばす。

 「遅いよっ!」

 その一瞬を見切ったシューティングスターはあり得ない程の速さでタマの目前に飛び降りた。

 だが、そこにポチに持つ短機関銃の銃口が向けられる。シューティングスターは即座に手にしたナイフを放り投げる。それをポチは短機関銃で防ぐが、刃が機関部に深く刺さる。

 タマが至近距離で抜いた拳銃をシューティングスターに向ける。だが、その銃をシューティングスターは回し蹴りで弾き飛ばす。

 「にゃぁ!」

 拳銃を蹴り飛ばされた衝撃でタマも吹き飛ぶ。

 「おせぇよぉ!」

 崩れ落ちるタマに回し蹴りを終えたシューティングスターの手刀が背中を打ち付ける。瞬間、タマは地面に激しく叩きつけられた。

 ポチは短機関銃を手放し、腰からナイフを取り出す。それは自衛隊が使う銃剣。抜き放ったと同時にシューティングスターに向けて刃が振られる。だが、その切っ先をシューティングスターは紙一重で躱しながらナイフを握るポチの右手首を左手で掴む。

 「ぐぅ!」

 あまりの握力にポチは手首が折られるかと思う程の激痛を感じる。だが、それに負けず、ポチはシューティングスターを前蹴りで吹き飛ばす。

 「ぐぅううあはあぁあ!」

 痛む手首を押さえながらポチはシューティングスターを睨む。今の前蹴りもあまり効いていないみたいだ。

 「二匹とも慌てるな。距離を置け」

 クロの指示に倒れたタマも何とか身体を起こしつつ、短機関銃に弾倉を装填する。

 クロは二匹が無事なのを見て、シューティングスターに叫ぶ。

 「おい。もう包囲されている。丸腰だろ?こっちは完全武装の特殊部隊だ。勝ち目は無い。諦めろ。投降すれば、命は取らない」

 クロの言葉にシューティングスターは笑った。

 「ビビったのかい?やれるなら、とっととやりな?」

 シューティングスターは叫びながら駆け出す。クロたちは一斉に射撃を始めた。

 飛び交う銃弾をシューティングスターは紙一重でアクロバティックに躱しながら、彼女達に迫る。何故か当たらない弾丸にクロたちは恐怖する。

 シューティングスターの右手がクロに迫った時、タマがシューティングスターに体当たりをする。ラグビーのタックルのような鋭い突進に共に倒されるシューティングスター。

 「全員で押さえ込め!」

 すでに弾の切れた短機関銃を手放し、クロ達が倒れた二匹に飛び掛る。4匹が圧し掛かり、その間にクロが短機関銃の弾倉を入れ換える。

 「おもてぇええええ!」

 シューティングスターは怒りを露わにしながら、4匹を一斉に吹き飛ばした。

 タマは軽々と空中で身体を捻り、見事に着地する。その際に腰から予備の回転式拳銃を抜いた。

 「てめぇ・・」

 シューティングスターの目の前に銃口が向けられる。驚きの表情をしたシューティングスターに向けて、タマは発砲した。

 躊躇なく、至近距離からニューナンブマークⅡ回転式拳銃の全弾が発砲される。だが、シューティングスターはそれを両腕で防いだ。

 「にゃ!?」

 それに驚いたのはそこに居並ぶ隊員達だった。素手で至近距離からの38スペシャル弾を防ぐなんて、ヒューマアニマルだからってあり得ない話だった。

 「あたしの筋肉を舐めるな!」

 防ぎ切ったシューティングスターはその腕でタマを殴り飛ばす。

 「化け物・・・」

 タマを庇うようにナイフを構えたポチがシューティングスターの前に立つ。

 「ふん・・・化け物か・・・そうだろうな。この特異な身体と頭に埋め込まれた軍用電子回路による電脳。あたしは兵器なんだ。兵器として、産み落とされた。だから、人を殺すしか・・・無いのさ」

 悲しそうにそう呟いたシューティングスターはポチに襲い掛かる。ポチはナイフで彼女を牽制するも圧倒的な力とスピードの違いから一瞬にしてナイフを弾き飛ばされ、軽々とポチの巨躯が放り投げられる。

 クロがポチがシューティングスターから離れた瞬間を狙って、撃つ。だが、その銃弾をシューティングスターは微かな動きで紙一重にして躱す。

 「やらせないにゃ!」

 タマがシューティングスターの足元に転がり寄る。

 「なぁ?」

 彼女はその動きに一瞬、躊躇する。タマは手にした催涙スプレーをシューティングスターの顔面に向けて拭き放つ。暴徒鎮圧用のそれはシューティングスターが手で防いでも容赦なく、ガスを充満させる。同時に至近距離で放つため、ガスマスクをしいないタマもダメージを受ける。

 「痛いにゃ!」

 地面を這いずりながらタマは悶絶する。

 「ぬああああ」

 だが、シューティングスターも悲鳴を上げながら、逃げるようにして、飛び去ろうとする。だが、それを逃がす程、クロ達は愚かでは無い。すでに弾倉を入れ直した短機関銃を構え、悶絶するシューティングスターを狙い撃つ。

 放たれた弾丸を苦しみながら、踊るように躱すシューティングスターだが、強烈な催涙成分によって、目と嗅覚をやられた彼女が本来の力を発揮が出来なかった。

 銃弾が次々と体に当たる。だが、強靭な肉体は弾丸の侵入を拒んだ。

 それでもクロ達は諦めない。ありったけの銃弾を浴びせる中、狙撃班が近付いた。手にした64式狙撃銃が唸る。

 その一発がシューティングスターの腹を貫いた。

 吹き飛ぶシューティングスター。

 「があああああ!」

 叫ぶ彼女はそれでも立ち上がろうとした。

 「化け物が」

 狙撃銃を構えた隊員がその光景に怯えながら、狙いを頭に定める。

 一撃だった。

 銃弾はシューティングスターの頭を貫く。だが、銃弾は軽々と弾かれた。金色の髪の合間から見える金属質の素材。

 「ははは。あたしの頭蓋骨はチタン合金製なんでね・・・ちゃちなライフル弾じゃ、貫けないよ!」

 腹を撃たれて、フラフラとするシューティングスターだが、笑いながら狙撃手に飛び掛る。一瞬にして、狙撃手の首がへし折られ、手にした銃が奪われる。

 「くそっ!化け物め」

 タマ達は再び、射撃を始める。だが、銃を手に入れたシューティングスターはそれを恐れずにクロ達に発砲した。銃弾はクロの身体を掠め、次々と隊員達が倒れる。トドメを刺す事なく、シューティングスターはボロボロの身体を引き摺りながら、その場から逃げ出した。

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