第24話 狂い猛る獣

 SATの隊員達は扉を静かに特殊工具にて開錠する。

 相手の規模、位置など一切の情報が無い以上、ハードな突入は危険だからだ。

 相手が一般人を人質に取っている可能性などを考慮して、あくまでも情報収集がメインだった。可能ならば、相手を制圧する。それがSATに与えらえた命令だった。

 M870ポンプ式散弾銃を構えた隊員が静かに先頭を進む。中の状況が不明なので、装填されている銃弾はゴムスタン弾である。万が一、一般人を誤射しても出来る限り、命を守るためだ。


 この商店街に監視カメラは無い。それは警察側の勝手な思い込みだ。すでに小型の有線式小型カメラが至る場所に設置してある。その情報は最終的に携帯電話の電波を使って、シューティングスターの左目を覆うヘッドアップディスプレイに投射される。

 「丸見えだよ・・・猫共・・・そんなへっぴり腰じゃ・・・殺してくださいって言っているようなもんさ」

 彼女はニヤリと笑いながら、手にしたコントローラーのボタンを押す。それと同時に列を成して、歩いていたSAT隊員の側面が爆発する。無数のベアリングが爆発と同時に撒き散らされ、それらが隊員の身体を撃ち抜く。

 一度に7匹の隊員が倒れ、悶絶をしている。

 「アルファチーム。爆発物だ。7匹が倒れた。すぐに救護を願う」

 被害を免れた隊員が懸命に倒れた隊員達に応急手当を行う。

 「周囲の警戒を怠るなよ。ガキじゃあるまいし」

 爆風で粉塵が舞う現場に声がした。

 応急手当をしていた三匹の隊員はハッと気付き、短機関銃を構えようとした。だが、遅かった。激しい一撃で1匹が吹き飛んだ。次々と残りの2匹も面白いように宙を舞いながら吹き飛び、倒れた。

 「ははは。500S&Wの威力はどうだい?効くだろう?」

 粉塵の中から姿を現したのはシューティングスターだった。両手にリボルバー拳銃を握り、彼女は笑った。

 

 隊員のカメラで状況を知った。SAT指揮所ではすぐに別動隊であるブラボーチームとチャーリーチームを現場に急行させる。同時に狙撃チームを襲撃現場を囲むように配置を移動させる。

 「相手の位置は判明した。確実に追い込め。相手は1人だ」

 アルファチームは全滅したが、それでも相手の位置と数が判明しただけでも成果はあったとSATの指揮官は思った。

 ブラボーチームは冷静に現場へと近付く。相手が待ち構えている事は間違いが無いからだ。

 角に立つ先頭の隊員がミラーを使って様子を伺う。

 冷静にミラーを動かし、状況を確認する。その時、ミラーの付いた伸縮棒が掴まれた。

 「よう!何か見えたか?」

 突然、姿を現したの女。同時に銃声が鳴った。

 先頭の隊員の顔面が潰れて、ヘルメットが貫通した。

 飛び散る血。現れた女。

 そして、彼女が両手に持った短機関銃が唸る。

 激しい銃弾が一瞬にして、残された4匹の隊員の身体を穿った。

 シューティングスターは弾切れとなった二丁の短機関銃を放り捨てる。

 「ははは!チョロいチョロいな。訓練通りじゃ、動きが丸見えだぜ?」

 彼女は倒れた隊員の短機関銃を拾い上げ、駆け出した。

 

 「ブ、ブラボーが全滅・・・チャーリーは現場に・・・相手は逃走を始めた」

 指揮所では一瞬の事に驚きを隠せなかった。

 「相手は獣です。人間と同じだと考えない方が良い」

 唖然とした表情でSATでヒューマアニマルとして最高の地位にある副隊長が隊長にそう忠告をする。

 「獣だと・・・お前らでも勝てないと言うのか?」

 「我々は人間相手の訓練しかしておりません。それに・・・人間に逆らえぬように能力にも限りがあります。だが、奴は・・・最強の兵器となるだけに人と獣を掛け合わせた化け物。今の動きで確信しました。多分、ここに居る我々は奴に皆殺しにされます」

 「皆殺しだと?何故・・・皆殺しだと?」

 「理由ですか・・・あくまでも直感ですが・・・奴は殺戮を楽しんでいます。逃走者ではありません。追い込んだつもりでしたが・・・どうやら我々は奴の猟場に誘い込まれたようです」

 彼女はそう告げるとニューナンブM60マーク2拳銃を抜いた。

 「隊長・・・ここも危険です。出来れば、退避を・・・」

 そう告げる彼女の瞳は険しかった。だが、隊長は一度、嘆息してから同じように拳銃を抜いた。

 「悪いが・・・俺もSATの一員だ。非力かもしれんが・・・逃げ出せんよ」

 彼はそう言って、指揮所から出た。

 「総員!ここから目標を逃がしてはならん。もし逃がせば、この新東京の全てが奴の狩場と化すぞ」

 隊長は外で警備に当たる機動隊員や一般警察官に向かって叫ぶ。

 すでに状況は最悪であった。

 指揮権を持つ管理官はSAT隊長からの報告を受けて、絶望的になった。

 「猛獣が解き放たれたのか・・・そうか・・・CATはどうなっている?」

 彼の隣にはCAT局長が立っていた。

 「うちは出動準備は出来ております・・・猛獣狩りですね・・・腕が鳴ります」

 彼女はニヤリと笑う。

 「そ、そうか・・・頼んだ。すでにSATは壊滅状態だ」

 「はい」

 

 待機室に集められていたCAT隊員達の前に隊長が姿を現す。

 「出番だ。相手は猛獣。捕縛・・・不可能なら殺せ。間違っても逃がすな。逃がせば、多くの命が失われるぞ。いいな」

 その言葉に全員の気勢が上がる。

 タマもポチもやる気満々だった。

 「タマ!戦争だ。戦争!」

 クロも興奮している。

 全員が駆け足でその場から飛び出た。

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