第22話 けものたち

 突然の攻撃に車列は大きく乱れる。

 激しく燃え上がる装甲車に道路は塞がれる。

 ミーシャは状況を冷静に眺めた。

 「ロケット弾だ。総員、降車戦闘開始。警護車両は盾になれ、プランCに移行する。プランCだ」

 相手がロケット弾を使うまでは予想を大きく上回っていたが、このような状況は想定済みだった。これ以上の進行は不可能である為、避難を優先して、後退する計画に変更した。

 総理大臣は突然の爆発に驚いていた。

 「大丈夫か?」

 ミーシャはそんな総理を不安にさせぬように笑顔で応じる。

 「問題ありません。これより総理官邸まで戻ります。すでに応援を要請しております。付近のパトカー並びに警視庁本部から増援が参ります」

 「そ、そうか」

 総理を乗せた車は勢いよく後進する。他の車両は進路を開けつつ、盾になるように動く。

 自動小銃や軽機関銃を持った男達が車両に銃撃を浴びせる。至近距離での激しい銃撃は降車したSPの何人かをその場に倒した。だが、SP達も手にした短機関銃での応戦を始める。激しい銃撃戦が始まった。

 武装勢力の足を止めている間に総理を乗せた車は来た道を戻る為に激しくスピンターンをさせ、車の向きを変えた。

 刹那、爆発が起きた。一瞬にして左前のタイヤが吹き飛んだ。車は大きく傾き、コントロールを失い、ガードレールに衝突をする。

 ミーシャは総理を庇うように守っていた。

 「総理、大丈夫ですか?」

 「私は大丈夫だ。何が起きた?」

 「多分、ロケット弾の攻撃を受けたかと」

 「この車は大丈夫なのか?」

 総理の言葉にミーシャは一瞬、口籠る。

 総理専用車は世界最高水準の防弾処理車には違いが無いが、決して装甲車では無い。想定されるのは銃弾と爆発物、毒ガスや火炎瓶などだ。ロケット弾などの対戦車兵器に耐えうる程では無い。

 「総理・・・外に出ます。私達が盾となりますから、この場から離脱する事だけを考えてください」

 ミーシャは即座に決意した。部下達が扉を開け、手にした短機関銃をぶっ放す。彼女達は自分達に攻撃を仕掛けた男達をすぐに発見して、攻撃する。相手も自動小銃を発砲してくる。その中にはロケット弾の装填をしている者の姿もある。

 ミーシャは彼女達を盾にするようにして総理を庇いながら車外に飛び出た。アタッシュケースの中の防弾シートを垂らし、それを盾にするようにして総理を庇いながらとにかく、敵の居ない方角へと走る。

 「あのビルへと入ります。そこで応援を待ちます」

 ミーシャと総理は歩道を渡り、ビルへと入ろうとした。との時、激しい衝撃がミーシャを一瞬にして吹き飛ばす。その一撃は彼女を路上に転がす。彼女に庇われていた総理大臣も路上に転がる。

 「一撃で仕留めろよ」

 女の声が聞こえた。ミーシャは薄れる意識の中で見た。倒れた総理の傍に立つ女。白い腕に黒い縞模様が入っている。その手には大きなリボルバー拳銃が握られている。

 「や、やめっ」

 ミーシャは痛む身体を何とか動かし、脇の下から拳銃を抜こうとした。だが、それよりも先に総理大臣の頭が撃ち抜かれた。相当の大口径なのだろう。総理の頭はまるでスイカ割りのように派手に散った。

 「任務完了っと・・・こんだけ揃っていれば、楽なもんだ。撤収するぞ。後は無事に逃げ切れば、大金が入る」

 女はそう言って、ミーシャを無視して、歩き出した。すでにミーシャの部下達も制圧されてしまったようだ。銃撃の音は止んでいる。

 「に、逃がさないっ」

 ミーシャはP230JP中型自動拳銃を抜いた。だが、その瞬間、去ろうとしていた女はミーシャに銃口を向けていた。


 刑事と共に捜査を続けていたタマの携帯電話に着信が入る。

 「はい。タマにゃ」

 相手はクロだ。

 『総理が襲撃され、殺害された。至急、戻れ。CATはすでに総理襲撃犯を追撃するために出動している』

 「ほんとかにゃ?一体、どうやって・・・」

 驚くタマ。その時には相棒の刑事にも刑事課から連絡が入っていた。

 「おい。猫。相棒は解消だ。俺はこれから犯人を追う」

 刑事が走り出そうとした時、タマも駆け出す。

 「相棒は解消じゃないにゃ!現場は近いにゃ。二人で追うにゃ」

 タマの言葉に刑事は一瞬、驚くが納得して、パトカーの助手席に乗り込んだ。

 タマは運転席に乗り込み、アクセルを踏み込んだ。

 「おい。糞猫。警備部の奴ら、俺らの介入を防ぐ為に総理の移動を極秘にしてやがったみたいだ。どうせ、情報漏洩が云々って事だろうが・・・それが何故か。敵に完全に読まれていた。何故だと思う?」

 刑事はスマホで襲撃された地点を確認しながらタマに問い掛けける。

 「うん・・・それはきっと情報漏洩があるにゃ」

 「あぁ・・・だが、俺の勘では警察じゃない。政治的な問題だろ」

 「政治的?」

 「あぁ・・・総理の移動に関する情報は確かにトップシークレットだ。幾ら凄腕の連中でも警視庁のネットワークをハックするのはリスクが大き過ぎる。お前ら猫から漏れるとも思えない。だとすれば、数少ない人間側からだと思うが・・・それも正直、メリットが少ない。総理殺害に関与したとなれば、捜査の手が伸びるのは解っているからな。だとすれば、警視庁以外だ。一番可能性が高いのは政治側。特に総理の所属する党とかは臭いな」

 「なるほど。総理は自分の身内にやられたにゃ?」

 「そうなるな。まぁ・・・相当な恨みか・・・何かあるんだろ。ここまでする必要ってのがな。どこまで追えるか・・・忙しくなる。まずは実行犯を捕まえる事だ。逃げられれば、警視庁のメンツが失墜する」

 「メンツなんかどうでもいいにゃ!悪い奴は逃がさないにゃ」

 タマが一気にパトカーを加速させる。鳴り響くサイレンに街行く人々は驚く。


 襲撃現場は騒然としていた。

 応援に駆け付けた警察官達が到着した頃には戦闘は終わっており、そこには転がっているのは警察官やSP。そして、総理やその関係者であった。

 「皆、死んでいる。付近の監視カメラ映像などを確保しろ。すぐに襲撃者の特定と逃避ルートを探れ。付近一帯の封鎖だ。検問の設置を急がせろ」

 現場で指揮を執るのは駆け付けた警備部の警部であった。彼はこの事態が警備独断の総理移動にある事を知っている。総理が殺された時点で警備部の失点として、取り返しのつかない事だと解っている。それでも少しでも失点を取り戻す為にはこの事件を主導して、犯人逮捕まで繋げなければならないと思っていた。

 「おい!こいつ、まだ、息があるぞ!」

 駆け付けた刑事の1人が倒れているSPの一匹に息がある事を確認した。すぐに応急手当と救急搬送が行われた。


 シューティングスターはフードを被り、暗い中に居た。

 「へへへ。圧倒的な火力での制圧。楽なもんだ」

 暗闇の中で誰かが呟いた。

 それは当然であった。この作戦を成功させる為に相手よりも圧倒的な火力と戦力を用意したのだから。問題はここからだ。

 暗闇。

 ライトや暗視ゴーグルでも無ければ、普通は見えない。

 だが、闇夜を得意とするのは・・・獣の本能だ。

 シューティングスターは音も無く立ち上がった。そして、両手に手にしたリボルバー拳銃を構える。その場には12人の仲間・・・否、仲間だった者達が居る。

 ニヤリと口角を上げた後、銃声が響き渡った。

 

 

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