第21話 荒くれ者達の宴
総理大臣の命を狙う。
荒唐無稽でどんな意味がるのかさえ解らない。
だが、雇われた者達がそんな事を考える事じゃない。見合った報酬と生きて逃げ切れるだけの成功率が示されれば十分だった。
集められたのは50人の傭兵。
どれも元軍人で、世界中の戦場で戦い抜いた猛者達だ。
こんなキケンな作戦でも参加するには理由がある。それはあまりに高額な報酬である。作戦が成功しても失敗しても払われるという約束で彼等は参加している。
「すげぇな。どうやって運び込んだだ?」
男達は目の前に置かれた武器を見て、驚く。軍用の武器ばかりだ。これだけの数を揃えるとなれば、相当に苦労する代物である。
「俺らを甘く見るなよ。これでも国際的に活動するテログループだぞ」
この作戦の責任者であるテログループの幹部が笑いながら言う。
「しかし、総理大臣の暗殺なんて、派手なことを考えたな?」
誰かが言った。
「あぁ・・・テロって言うのは最後は派手かどうか。世界中に知れ渡るかどうかが資金集めには重要視される。それに総理大臣が死ぬ事で、儲かる奴も居るからな」
「なるほど・・・違いない。幾ら、日本の総理の首が安いと言っても、暗殺されれば、株価でも為替でも影響は出るわな」
男たちは笑った。そこに一人の女がやって来た。
「ちっ・・・くだらねぇ。私はとにかく暴れればいいよ」
「暴れれば良いか・・・あんたが有名なシューティングスターか?」
若い男が彼女をバカにしたように寄ってきた。
「くせぇ口を近付けるな」
シューティングスターは睨みながら答える。それに男は激昂する。
「くそアマがぁああああ!」
殴り掛かる男をシューティングスターはカウンターパンチを入れて、軽々と吹き飛ばす。
「殺しちゃまずいから、手加減してやったぞ」
シューティングスターはそう言うが、軽々と5メートルは吹き飛んだ男は気絶をしていた。その様子は男達は絶句した。
「あぁ・・・シューティングスターは流石だね。期待しているよ」
責任者の幹部は苦笑いしながら言った。
総理大臣の警備は強化され、SPは倍増していた。
身辺警護に特化して鍛えられたヒューマアニマル達が鋭い眼光で周囲を警戒する。
更に一般警察官なども動員され、周辺の警備は厳戒態勢であった。
「CATが第一種警戒態勢らしいな?」
SPを指揮する江藤管理官が部下に尋ねる。
「はい。警視庁総監の命令です」
「ふん・・・CATに手柄を持っていかれる事態だけは避けねばならない。我々警備部の意地を見せてやる」
警備部の意地を見せる為にもSPは命に代えても守れと命じられていた。
SPは背広姿で、内側に薄めの防弾ベストを着こんでいる。基本的にはショルダーホルスターにシグザウエル社P230JP中型拳銃を収納し、特殊警棒に手錠を装備。一部にはアタッシュケースにMP5K短機関銃を収納したコッファーや防弾用シートを収納した物を装備している。
身辺警護にしてもこれは重装備であった。
SPの1人、ミーシャは総理大臣の最も近くで警備をする警部だ。
総理の盾となるべく、アタッシュケースには防弾シートが入っているし、防弾ベストも二枚重ねである。彼女の場合、襲撃時は拳銃や警棒を抜くよりも身を挺して、盾となるポジションだ。
常に総理の身近に位置する。
総理の動きは全て、SPで把握されている。総理大臣は警備の関係上、身勝手に動き回る事を許されない。必要であれば、事前にSPを通して、警備計画を立てねばならない。
予定通りの総理の移動。時間も全てが予定通りである。
ミーシャは周囲に鋭い眼光を放つ。そして、鼻を動かし、匂いを嗅ぐ。
犬ほどで無いにせよ。それなりに嗅覚はある。見えなくても臭いで隠れている者も発見する。それがヒューマアニマルの最大の利点でもあった。無論、窓を閉じた状態の車では意味をなさないが。
襲撃をされるには幾つかポイントがある。一番は車列が停止した時だ。次に周囲に遮蔽物となるような建物が少ない。または迂回・回避するような道路が無い事である。襲撃者からすれば、目標の逃走路を奪う事が成功への必須条件である。その為、警護計画においてはそれらを出来る限り排除する。だが、残念ながら、東京都に比べて、インフラの整備が遅れている新東京都では高架となった高速道路は無いし、幹線道路も基本的に渋滞が酷い。
総理の移動の為に警察によって規制しては経済活動が滞る為、あまり幹線道路を占有する事も出来なかった。
故に比較的交通量の少ない道路を走る事になる。基本的には歩道もあるような広さの道路を選んでいる走っているが、ただの一般道では駐車車両なども多い。事前に先行するパトカーなどが確認をしたりしているが、時間的な問題でそれが完璧に行えるわけじゃない。
一台のワゴン車の横を車列が避けるように走り抜けようとした時、ワゴン車が爆発を起こした。爆発をした爆風と車の破片によって、総理を乗せた車は派手に損害を受けて、重たい車体も浮き上がる程だった。だが、それでも防弾仕様の車は何とか走行が可能であった。
「おうお、装甲車並だね」
それを見ていたのはシューティングスターだった。彼女は被っていたフード付マントを放り捨てるように脱ぎ去る。金髪の髪がサラリと靡き、獣耳が露わになる。そして、少しでも身軽にするためか、タンクトップだけの上半身。背中から腕に至るまで黒い縞模様が露わになる。
「さぁ・・・宴の始まりだ」
彼女は両手にS&WPC M500リボルバーを握り、駆け出した。
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