第18話 捜査協力

 総理大臣の警護は厳重となった。

 相手が対物ライフル銃まで用意している事から、並の防弾処理では防ぐ事は出来ず、総理専用車両には戦車などに用いられる複合装甲の装甲版が窓になどに追加された。それから、総理を警護する人員も増やされ、車列には機関銃弾にさえ耐える装甲を用いた装甲車が並んだ。

 SPの数も足りない為、機動隊の銃対応班が補充される。

 一個小隊程度の規模で総理大臣の警護は固められた。

 並の襲撃者では到底、太刀打ちが出来ないはずだった。

 だが、それでもSP達には緊張があった。事実として、先ほど、襲撃してきた相手は圧倒的な力と速さでSP達を翻弄し、逃げ延びた。能力は落ちるとしても並の人間に比べれば遥かに高い身体能力を有する一般警察官にも多大な損害を与えてだ。

 相手は並では無い。その認識が彼女達には共有されていた。

 

 その間にも捜査本部えは逃走した容疑者の確保に血道を上げていた。

 最高責任者に任命された出口管理官は全員に檄を飛ばす。

 「相手は警察官を30名以上、死傷させ、未だに逃走をしている。残念ながら、相手はこの街を事前に調べているらしく、街灯の監視カメラは途中で完全に行方を見失った」

 街灯の監視カメラも街が日々日々、変化しているこの街では全てを網羅させる程には設置されていない。ましてや、監視カメラと言えども精確とは言えない。最近では光学的に監視カメラを誤魔化したり、カメラ自体にハッキングして、映像を差し替えたりなど、そうした技術も格段に上がっている。

 つまり、幾ら監視カメラが全てを網羅していても、逃走者に知識と技術があれば、監視カメラから逃れる事は可能なのだ。

 タマは捜査にはあまり関わらないはずだったが、容疑者の女と戦闘した経験などから、捜査会議に呼ばれていた。

 ふあぁあああああ

 退屈そうにタマは欠伸をする。その隣でクロが彼女の脇腹を肘で突く。

 「バカ猫。欠伸をするな。捜査会議だぞ。そろそろ、お前に話が振られる。準備をしろ」

 「準備って何にゃ?」

 タマは不思議そうにクロを見る。

 「バカ猫・・・お前が戦闘をした大柄な女の話だ」

 「あぁ・・・虎の奴にゃ」

 そう言っている時に管理官はタマを指名した。

 「タマ巡査長、君はこの容疑者と実際に戦闘を経験して、撃退した数少ない警察官だが、彼女が・・・君らと同じヒューマアニマルじゃないかと言う話もあるが、君の印象はどうかね?」

 そう尋ねられて、タマは少し考え込む。

 「そうにゃねー。力とスピードは半端なかったにゃ。同僚のポチが居なかったらヤバかったにゃ」

 その言葉に居合わせた人間の捜査員達が動揺する。

 「万が一・・・人間の捜査員が襲撃された場合、撃退は可能かね?」

 「無理にゃ。あのスピードなら、逃げる間も無く、皆殺しにゃ。そもそも、近付いて来るのでさえ、気付かせないにゃ。相手に気付いた時には銃弾を撃ち込まれるか、ナイフで切り刻まれているにゃ」

 「それは・・・ヒューマアニマルでも?」

 「すでに多くの同僚を失っているにゃ。それが答えにゃ」

 タマの言葉に人間の捜査員の間からどよめきが起きる。

 ヒューマアニマルの戦闘力の高さは誰もが知っている事だ。だが、それを上回るとなれば、当然、人間では太刀打ちが出来ないとなる。

 管理官は驚きながらも話を始めた。

 「それでは容疑者はヒューマアニマルだとする。当然ながら、人間の捜査員だけでは逮捕は困難であると思われる。その為、今後は捜査において、捜査員の護衛にヒューマアニマルをつける。必ず、一緒に行動するように」

 

 その日から捜査員は常にヒューマアニマルと一緒に行動する事になった。当然ながら、一般警察官には通常業務があるわけで、そうなるとこの手の任務につけられるのは普段、あまり任務の無いCATとなる。

 CATの中で選抜された隊員が捜査員と行動を共にする事になる。その選抜メンバーにタマが入っていた。

 「面倒なのは嫌にゃ」

 タマは普段、着る事の無い背広を着ている。これは私服の刑事と服装を合わせるためだ。ついでにヒューマアニマルだと解り難くするため、帽子も被っている。

 「拳銃と警棒だけじゃ、不安にゃ」

 タマはショルダーホルスターに入れた9ミリ自動拳銃と伸縮式警棒だけの装備に不満を言う。それを聞いたクロが怒鳴る。

 「五月蠅いバカ猫。あくまでも捜査だけだ。戦闘をするわけじゃない。何かあれば、捜査員を守りつつ、退避するんだよ」

 「解ったにゃ」

 タマは嫌々、捜査員の待つ刑事部捜査一課に向かう。

 捜査一課では迫田が手持無沙汰で居た。

 「迫田さん、暇そうですね」

 若い刑事が話し掛ける。

 「相方がいねぇからな。一人で捜査は内部規定違反だって言われるしよ」

 迫田はつまらなそうに言う。そんな彼の背後から声が掛けられる。

 「迫田のおっさんにゃ」

 迫田が振り返るとそこには背広姿のタマが居た。

 「なんだよ・・・七五三か?」

 「黙るにゃ。応援に来たにゃ」

 「応援だって?糞猫が何を応援するって言うんだ?」

 「おっさんの死体が転がらないように守ってやるにゃ。感謝するにゃ」

 「死体って・・・まぁ、そうだな。今回の奴はかなり厄介みたいだし・・・お前、犯人とやり合ったそうじゃねぇか?」

 「やりあったにゃ。唯一の生き残りにゃ」

 「そいつは・・・まぁ、良い。ついてこい。捜査の手伝いをさせてやる」

 「解ったにゃ」

 一人のおっさんと一匹がぶらぶらと捜査一課のオフィスから出て行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る