第9話 追い込む
グェンは悩んでいた。無論、それは宝石の取引についてだ。
「くそっ、CATは何故か俺の周りをウロウロしやがるからなぁ。このままだと、取引が出来ないどころか。俺が原因で、奴等が捕まってしまう。そうなれば、俺もこの業界に居られなくなるしな。諦めるか。しかし、あれを買い叩けるなら、良い商売になるんだが・・・実に惜しい」
「ご主人様、迫田様がお見えです」
店番の女の子が呼びに来た。
「迫田さんか。良い所に来た。裏へ通してくれ」
グェンに言われて、女の子は迫田と若い刑事を店の奥の部屋に招き入れた。
グェンの待つ部屋に一人の男が入ってきた。定年間近の刑事、迫田だ。その後ろから若い刑事が入ってきた。
「グェンさん、久しぶりだな」
「えぇ・・・今日は何か用ですか?」
「いや・・・なんだか、CATの猫が悪い事をしたみたいで、侘びに来た」
「侘びですか・・・それはどうも。まぁ、厳しく躾けてくださいよ。あの猫には参ったもんです。うちの店員も痛い思いをしましたし」
グェンは苦々しい表情で訴える。
「そうか、それは悪かったな。すまん」
迫田は深く頭を下げるので、グェンは慌てる。
「迫田さん、あんたが頭を下げる事じゃないですよ」
「ははは。そうだな」
迫田は笑いながら顔を上げる。
「それで、今日は何の用ですか?最近はテロのお陰で、どこもかしこも、息を殺しているようで、騒ぎが無いはずですが・・・」
「あぁ・・・そうそう。その、テロなんだが・・・お前、何か知っていないか?」
迫田は懐から煙草を取り出して、安物ライターで火を点ける。その間、グェンは黙っていた。
「はぁ・・・私は何も知らないですなぁ」
迫田が煙草を吹かしている時にグェンはそう答えた。迫田はそれを何となく、聞いているようだった。
「テロリストは大量の宝石を手に入れたが、それが捌かれた様子も無い。奴等はどこに流そうとしているんだろうな?」
迫田はグェンに笑いながら尋ねる。
「さ、さぁ?」
「歯切れが悪くないか?」
迫田に言われて、グェンは慌てて、背筋を伸ばす。
「そんなことは無い。とにかく、宝石のことなんて知らない」
「慌てているな?」
「慌ててなど・・・無い」
グェンは跋の悪そうな顔をして、迫田を見る。
「なぁ、グェン?南部デパートの事件について、警視庁は何と思っているかわかるか?」
迫田に突然、質問されて、グェンは困惑する。
「さ。さぁ?」
「復讐だよ。多くの市民が殺され、警視庁のプライドは地に失墜したわけだ。CATを指揮していた奴なんて、将来有望視されていた奴なのに、今じゃ、窓際も窓際。マスコミ対策なのか、誰の目にも触れない場所に飛ばされたんだぜ?」
「そ、そうですか」
グェンは明らかに困惑した表情だった。
「そ、それで・・・今日は・・・どういった用事で?」
グェンは改めて迫田に尋ねた。
「南武セントラルビルを襲った奴等を教えろ」
迫田は笑いながら尋ねる。
「し、知りませんよ」
グェンも笑いながら答える。その胸倉を迫田は掴み、グェンの鼻先に触れそうなぐらいに顔を近付ける。迫田の臭い口臭にグェンは顔を背けたかった。
「なぁ・・・お前は使える情報屋として、今まで便宜を図ってきたんだぜ?」
「そ、そうですか」
「だから、ここは大人しく答えるべきだろう?」
「お、大人しくって言っても、本当に知りませんよ」
「おい、舐めるな?何も確証が無くて、こんなことをやっていると思っているのか?」
迫田はグェンを放り投げる。彼はグェと蛙が潰れたような呻きを上げて、床に倒れる。
「こ、こんなことをして・・・ただで済むと思っているのか?」
グェンは迫田を睨む。
カチン
グェンの言葉に合わせて、店員の女の子が青竜刀を鞘から抜いて、部屋の入口に現れた。
「ほぉ、抜いたか?」
迫田は冷静だ。青竜刀の刃を見ても、顔色一つ変えない。
「迫田さん、悪いが・・・あんた達、ちょっと、やり過ぎだよ?」
「それで?」
迫田は憮然とグェンを見ているが、若い刑事はかなり動揺している様子だ。
「うちの子は、並みの腕前じゃないよ?」
グェンは笑いながら言う。確かに女の子の刀の構えは堂に入っていた。
迫田は懐に手を突っ込む。女の子は刀を振り上げた。
「止せ!」
グェンが叫ぶと女の子はそこで動きを止めた。迫田は懐から煙草を出す。
「刑事さんは通常、拳銃は携帯していない。諦めて帰りなさい。私はテロリストの事は知らない。それで良いだろ?」
グェンは迫田を脅していた。迫田はその顔に煙草の煙を吹き掛ける。
「それで?さっさと吐けよ。南武セントラルビルをやった奴は誰だ?」
グェンはゲホゲホと咽ながら、迫田を睨む。
「てめぇ・・・しつこいな」
「あぁ・・・皆から蛇なんて、呼ばれていたからな」
「悪いが・・・ここからは無事に帰れないぜ?なんせ、店の周囲にも俺の手下は居るからな。お前等はここで死体になるだけだ」
女の子の刃が鈍く光る。だが、迫田は少しも怯える素振りを見せない。
「外の奴等ねぇ・・・。それは面白いな」
迫田の言葉にグェンは苛立つ。
「てめぇ、単なる脅しだと思っているのか?」
「いや・・・思っちゃいないよ?確かにお前の言う・・・コワイ奴等が居るんだろ?」
迫田は余裕の笑みを浮かべていた。グェンはそれが何だかとても、怖かった。
「こ、こいつらを見張っていろ。逃げようとしたら、容赦なく、殺せ」
グェンは女の子に迫田達を見張らせて、店の外に向かった。刹那、店の自動ドアのガラスを突き破って、小太りの男が店内に転がり込んだ。
「な、何だ?」
グェンは驚く。
「タマ巡査部長!店内を検索します!」
ガラスが破られた自動ドアから入ってきたのはポチだ。彼女は手に拳銃を構えて、店内を探る。そして、グェンと目が合った。グェンは銃口を向けられて、一瞬、殺されると思った。
「動くな!撃つぞ」
「よ、止せ!俺は何もやっていない」
グェンは両手を挙げて、叫ぶ。
「おっ、グェンにゃ。久しぶりにゃ!」
後ろからタマが入ってきた。
「外の奴等は銃を持っていたから、銃刀法違反で検挙したにゃ!こいつらはお前の部下かにゃ?」
タマは笑いながら言う。
「い、いえ・・・違います」
「そうかにゃ。まぁ、それは刑事が調べる事だから良いにゃ。それより・・・ここに刑事が入って来なかったにゃ?」
タマの質問にグェンはブルブルと顔を横に振って、否定する。
「嘘はいかんにゃ。なんなら・・・公務執行妨害と監禁の容疑で逮捕しても良いにゃ?」
「そ、そんな証拠がどこにある?」
「ははは。面白いにゃ。迫田が入った事はこっちは知っているにゃ」
「てめぇ・・・迫田とグルか?」
グェンは怒りを露わにする。
「グル?お腹はいつもグルグル言ってるにゃ。旨いもん食べさせるにゃ」
タマは笑って答える。ポチは少し呆れたような感じだ。
「ちっ・・・外の奴等を倒したぐらいで・・・舐めるなよ」
グェンはレジの下から何かを取り出す。それはポンプ式の散弾銃だ。ガシャリと銃身下部にあるポンプを下げると銃身下にあるチューブマガジンから散弾が薬室へと送り込まれる。
「ぶっ殺してやるよ」
「銃を置くにゃ。お前がそいつをぶっ放すにょり、先に射殺する事も可能にゃぞ?」
「馬鹿野郎。こっちには刑事が二人、人質に居るんだぞ?」
グェンは唾を飛ばしながら吼える。
「タマ巡査部長、どうしますか?」
「そいつに用事があるにゃ。殺すなにゃ」
「了解」
ポチが狙いを定める。グェンは慌てて、散弾銃を構えようとした。銃声が鳴り響く。弾丸は散弾銃の機関部を貫いた。その衝撃でグェンは散弾銃を落とす。
「そいつは、半端無く、銃の腕前が良いから、安心するにゃ」
タマは笑いながら店の商品であるポテトチップスの袋を破って、食べる。
「はあああああ!」
店の奥から飛び出してくる黒い影。あまりに素早い動きにポチは一瞬、反応が出来なかった。それは店番の女の子だ。手にした青竜刀をポチ目掛けて振り下ろす。ポチは慌てて、撃つが、弾丸は女の子の傍を掠めただけだ。鋭い一撃がポチの頭に落ちる。そう思った瞬間、その刃を真横から弾く黒い棒。
「なかなか、やるにゃん。刀で拳銃を恐れないなんて・・・」
タマが特殊警棒を振るっていた。刀を弾かれた女の子は、すぐに間合いを取るように構える。ポチは女の子に銃口を向ける。
「ポチはグェンの確保にゃ」
タマは警棒を片手にダラリと持って、女の子に近付く。
「大人しくするにゃ。今なら、まだ、罪は軽いにゃ」
タマはそう言いながら女の子に易々と近付く。女の子はタマを睨みながら刀を構え直す。
「タマ巡査部長、幾らなんでも、危険です。拳銃で対応してください」
ポチはタマのあまりに無防備な姿に驚く。
「大丈夫にゃ。相手は刀を振り回しているだけにゃ」
「舐めるな・・・猫。幾ら防刃チョッキを着ているからって、強気なの?」
女の子はタマを睨む。だが、それを無視して、タマは女の子に向かった。
「近付くな!」
女の子が刀を振るう。その手首にタマは警棒を振り落とす。鋭い一撃に女の子は刀を落す。
「抵抗するから、手首の骨を折ってしまったにゃ。あまり、抵抗をしない方が良いにゃ。殺さないまでも・・・動けない身体にすることは出来るにゃ」
激痛に顔を歪める女の子は、タマを見た。その目は本気だった。
「な、なんて奴だ」
グェンが後退りしようとした時、その首根っこが掴まれた。
「よう、そいつらは一般警察官じゃないからな。CATだ。警視庁でも最強の隊員だからな。半端じゃないだろう?」
それは迫田だ。
「お、俺をどうするつもりだ?」
「俺の知りたい事を吐け。それだけだ。お前、情報屋なんだろ?」
迫田に耳元で囁かれて、グェンは諦めたようだ。
「解かった。だが、お願いだが、このことはあまり口外して欲しくない」
「ほぉ・・・ここに来て、そんな事を言うのか?」
「解かってくれ。俺もこちら側の人間だ。売っていた情報はあくまでも俺等じゃない奴等の物ばかりだ。裏切ったと知れ渡ったら・・・殺される」
「あぁ・・・そうか。お前等の世界も色々と面倒だからな。わかった約束しよう。それで?」
グェンを取り囲むように刑事とタマが立つ。ポチは外の奴も含めて、拘束している。
グェンは諦めたように口を開く。
「わかった。言おう。リーダー格の男はヤンという男だ。名前は・・・それ以上は知らない。それが本名かどうかもだ。ただ、ヤンとだけ名乗っている」
迫田は少し考える。
「ヤン・・・確か、指名手配を受けている奴に居たな。あまりに情報の少ない奴だ。なるほどな。奴なら、やりかねないな」
迫田の言葉を受けて、グェンは話を続ける。
「これは本当の話だが、ヤンの奴がこの街へ来た理由も、時期も知らない。この街にある難民団体が手引きしたとか噂があるが、正直、この点は不明だ。それに奴がどうやって、あれだけの爆薬や武器を用意したのかもだ」
グェンが一気に捲くし立てる。
「へぇ~、なかなか言うじゃないか。本当か?」
「信じろよ?俺は何も関わっていない」
タマがグェンを睨む。
「睨むなよ。俺は本当にテロには関わっていない。もし、関わっていたら、俺はテロが起きる前に逃げ出しているよ」
「なるほど・・・そいつは確かにそうかもな」
迫田は納得したように言う。それでタマは睨むのを止めた。
「わかってくれれば良い。俺が奴・・・いや、正確には奴の手下から受けた依頼は宝石についてだ」
「南武セントラルビルから奪われた宝石か?」
迫田は興味津々にグェンに尋ねる。
「それはどうか知らないが・・・かなり上質の宝石を持って来た。ただし、一発で盗品だとわかるような代物だ。それを捌いてくれという依頼だった」
「ほぉ・・・奴はなんでお前にそんな依頼を?まさか、捌く算段もせずに襲ったのか?」
「それは俺も不思議で聞いたよ。奴は元々、海外で捌くつもりだったようだ。ところが、何かの手違いで、この街から脱出が出来なかったようだ。それで、とにかく金にするために武器などを
調達させた奴にも依頼したらしいが、量が半端じゃないから、どうにもならなかったらしい。それで、俺のところに話が来たわけだ」
「なるほど・・・」
逆にグェンが迫田に話し掛けた。
「それよりも、何で俺が奴等と関わっているとわかった?」
「それは・・・俺も知らんな。そんな情報は無かったからなぁ」
迫田はタマを見た。タマはテロリストの名前が解かって、興奮している様子だ。
「おい、猫。お前は何で、こいつがテロリストに繋がっていると思った?」
「知らないにゃ。こいつがこの辺では一番、有名な情報屋だと聞いていたから当たっただけにゃ」
グェンは唖然とする。
「そんだけの理由で、ここまでやったのか?本当に違ったら、どうするつもりだったんだ?」
グェンが顔を真っ赤にして抗弁するので、迫田は笑いながら答える。
「ははは。そん時は・・・てめぇの口を塞ぐだけだよ」
その冗談とも取れない微妙な声のトーンにグェンは凍りつく。
「今日は、許してやる。ヤンについて、何か解かったら、すぐに教えろ。黙っていたら・・・」
迫田は吸い終わった煙草を床に捨て、踏み潰す。
「猫達、行くぞ」
迫田に言われて、タマ達も店を後にした。
この数分後にヤンの元に部下が慌てて、駆け寄った。
「グェンのところを監視していましたら、警察官が襲撃をしていました」
その報告にボロボロのソファに横になっていたヤンはガバッと起き上がった。
「それで・・・グェンはどうなった?」
「何か、取引があったのか・・・何もせずに警察は帰って行きました」
その言葉にヤンは訝しげに部下を見る。
「俺等を・・・売ったか?」
「情報を売られても、グェンは我等の場所を知りません。大丈夫かと」
ヤンはグェンを信用していなかったので、常に監視をして、彼と会話する時も不必要に情報は流さないように注意していた。
「ちっ・・・情報が足りないな・・・グェンが何で警察にやられたかだ。それを確かめないと・・・。それと、どうにか、この宝石を持って、この街から無事に脱出する方法も考えないとな」
下手に動けば、警察に嗅ぎ付けられる為に慎重に動いているため、未だにヤンはこの街から逃げ出す事が出来ずにいた。
「ヤンさん、どうしますか?グェンの方にアタリを入れますか?」
「いや、グェンの方は警察が張っているはずだ。今、張っている奴等も引き揚げさせろ。そこから追跡されたら、敵わないからな」
ヤンは考え込んだ。だが、すぐに何か浮かぶわけは無い。
「くそっ・・・手元には30億の宝石があるって言うのに、俺は何をしているんだ?」
ヤンは苛立ちを抑えながら、必死に考えを巡らせる。
その頃、グェンも必死だった。どうにかしないと、自分の命が危険だった。自分が警察と接触したのはすぐに裏社会に広まる。下手な噂話を立てられては、商売どころの話じゃない。まずはヤンと会って、状況を説明する必要がある。だが、どうやって、説明するか?それが悩みだった。
「やはり・・・逃がす為の経路を作ってやるか」
グェンはまだ、警察に屈したわけじゃないと言うことをアピールして回らないといけないわけだ。その為にはヤンを見事にこの街から出す事だ。厄介者が居なくなれば、また、この街で平穏に仕事が出来る。
グェンは地図を取り出す。そこに書き込みをしてから、店番の女の子に手渡す。彼女はそれを持って、店から出て行く。
グェンはヤンの居場所を知らない。互いに連絡を取る時はスラム街にある居酒屋だ。そこは昔からある古びた居酒屋だ。街がスラム街になってからも、営業を続け、スラム街の住人にとって、憩いの場所であり、情報交換の場所になっている。
夕闇に染まる路地裏にある居酒屋の扉が開かれる。一人の男が入ってくる。店内には頑固そうな店主と客が5人程度。客はどいつも、酔っ払っている。いつから飲んでいるのか。そう思わせるぐらいに泥酔した客ばかりだ。
「オヤジ、ホッピー」
「居酒屋に来て、ホッピー飲むな」
「うるせぇよ」
そう言って、ホッピーが彼の前に置かれる。男はそれを一口、飲む。それから、客は店主に尋ねる。
「いつもの客は・・・今日は居ないのか?」
「へぇ・・・あんた・・・グェンさんのお使いかい?」
店主は半笑いで尋ね返す。
「あぁ・・・使いだ。大事な話があるってな」
カチリ
金属音がした。泥酔していたはずの客の一人が拳銃を隠し持っていた。
「グェン・・・警察にシッポを捕まれたお前には用が無いと言っておけ」
男は微笑を浮かべる。銃口を向けられていることに気付いているはずなのに。
「何がおかしい?」
銃口を向けた客は苛立った口調で問質す。
「いや・・・何。ようやく・・・本星に近付けたと思ってね」
「な、なんだと?」
泥酔した客は飛び跳ねるように立ち上がり、拳銃を構える。それは店主以外の店内に居た客達全員だ。
「刑事か?」
客は苦々しく男を見る。
「あぁ、そうだ。この街で俺の顔を知らないとは・・・な」
「野郎!」
客は今にも発砲しそうだった。
突然、窓が割れ、激しい銃撃が建物の外の四方から撃ち込まれた。客や店主が次々と撃たれ、倒れる。最初に男を狙った客も体を撃たれてカウンターに倒れ込んだ。そして、扉が乱暴に開けられて、中に完全武装したCATの突入班が入ってきた。そこにはタマの姿もある。
「全員を拘束しろ」
生死を問わず、彼等は倒れた店主や客を拘束した。それから、生きている者にはすぐに手当を開始した。
「口が利ける奴はすぐに連れ出して、ゲロさせる。良いな」
店に入ってきた男。迫田はそう指示を出した。クロは不思議そうに迫田を見た。
「なんだ・・・猫?」
「いや、こんな危ない作戦をよくやるにゃと思って」
「ふん・・・。確認もせずに襲撃しても意味が無いからな」
店主は怯えている。彼も肩を撃たれて重傷だ。
「おい、松永・・・お前、昔から、ここで店をやっているのに、なんでテロリストに手を貸している?確か、アチラさんとは繋がりが無いはずだが?」
迫田のドスが利いた尋ね方で、松永はさらに震え上がる。
「ち、違うんだ。俺は脅されて、場所を提供していたんだ」
「脅された?」
「あぁ、逆らうと殺すぞって言われたんだ」
「そいつは・・・ヤンとか言う奴か?」
「いや、手下みたいだった。他の奴がホウとか呼ばれていた」
迫田は少し考える。
「まぁ・・・良い。じっくりとゲロしたくなるようにしてやる」
遡る事、一日前。
グェンは迫田に彼にとって、唯一のヤンに繋がる情報として、スラム街の居酒屋について教えた。
迫田は不審に思いつつ、彼の情報を信じた。それは単純な事だった。現状でグェンはヤンに命を狙われている。
CATの暴走とも言える行為によって、グェンは計らずも、警察と関係しているとヤンに思われている。そうなれば、情報漏洩の原因になる。だからこそ、ヤンは身の安全を図るためにグェンを消そうとする。それに気付いたグェンは先に手を打とうとした。事実、これは正解だった。グェンは情報屋としての力を発揮して、ヤンの動向を探っていた。その全てが謎である男の情報を探る事は、容易ではなかった。だが、ヤンとの連絡役をしていた男が姿を消した事で、グェンは決意した。
更にグェンは南武セントラルビルで使われた大量の爆薬と武器についても出所の予想をした。それは不確かながら、この街に外から大量の爆薬などが運び込まれたという噂話を集めて、分析した結果だった。
道具屋。
そう呼ばれる奴が居る。そいつの仕事は彼方此方から物を集める仕事だ。依頼を請ければ、ガキから、原子力潜水艦まで、何でも揃えると豪語するような輩だ。
その中でも、徳田と呼ばれる男はかなり出来る男らしい。そして、彼は不法移民を中心に手広く仕事をしている。
グェンは彼がヤンの為に動いていると迫田に伝えた。今回の襲撃はそこら辺の情報の裏付けをするためにも、ヤンの手下を捕らえるための作戦だった。
負傷した傷は手当を受けたものの、すでに鎮痛剤が切れて、痛む。店で最初に迫田に銃口を向けた男。彼は取調室で迫田を前にダンマリを決め込んだ。
「よう・・・悪いが、これは取り調べじゃない」
迫田の言葉に男は訝しげな表情をする。
「だから、ここの記録用カメラは停止している」
「なんだと?そいつは・・・違法な取調べだぞ?」
「取調べならな」
迫田は男の目の前に顔を近付ける。その鋭い眼光に男は一瞬、怯む。
「自前の弁護士も呼べないような奴が、ゴタゴタ言ってるんじゃねぇ」
「てめぇ・・・吼えるなよ」
男がそう言った瞬間、迫田は彼の顔面を殴った。男は後ろで手錠をされているために椅子ごと倒れてしまった。
「さぁ・・・夜は長いぜ?まずは名前から聞かせろよ」
一晩を掛けて、拷問が続いた。男の顔は腫れ上がり、原型を留めていない。それに関して、迫田は何も気にする素振りなど見せなかった。
「名前は美和宣夫。日本人。31歳。無職。学生時代に政府に反発する若者の政治団体に参加する・・・か」
ボロボロの美和は憔悴して、何も言わない。
「お前が、道具の手配や情報収集などをやっていたわけか」
美和は涙を流しながら、頷く。
迫田は美和から得た情報の裏付けのために部下を走らせる。その間、美和は留置場に放り込まれた。
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