行き場所がないのでちょっと気晴らし
空に月は二つ。太陽も二つ。
数は釣り合っているのに、いつもより格段に熱く感じる。太陽の数と、精霊が活発化どうかは反比例の関係にあり、太陽多めの今日は、精霊の数が少ない。
精霊の数が少ないことで、歩きやすい城下町を、ジュラールはのんびりと歩く。
日差しが肌に刺さるような錯覚を覚えるほどに強い為、日向をかける人の数も少ない。時折日向を歩く人を見かけて、親近感を覚えるが、すれ違うときに種族を確認すると、火の民であることがほとんどで、汗を流すこともなく、どちらかというと少し肌寒そうにしている顔を見ると、それまで覚えていた親近感などどこかへ行ってしまう。
布を頭上にかけ、日陰を作っている通りに出た。
それまで日向にいた為、ささやかな日陰がありがたく感じる。
ふと、日陰の通りの奥の方から、人の立てる音が聞こえた。
何かと思いそちらを覗き込むと、まだ幼いように見える獣人の男たちが、一人の翼の生えた子供を囲い、暴力を加えている。
何か声をかけようとするが、この場面に適切な言葉が思いつかなかった。かと言って、このままにしておけば、今叩かれ、蹴られている子供が大けがをするような勢いだ。あるいはもう大けがをしていて、動けないのかもしれない。
仕方なく、ジュラールは手近にあった小石を拾い、その小石を男たちの足元に放り投げる。
が、力加減を誤った。
足元に投げつけるはずの小石は、ジュラールに背を向けて暴力を振るっている男の背中に当たった。
「いってぇ!!」
男から悲鳴が上がる。
それまで自分が散々暴力を振るっておきながら、自分は小石が当たった程度で悲鳴をあげるのか、とわずかに呆れる。と、同時に、男たちの視線がジュラールに集まった。
「なんだよおっさん!なんかもんくあんのか!!」
まだ何も言っていない。それに、普段であれば、この程度の暴力行為は見逃す。ではなぜ今回はわざわざ介入したのか。
イヴの機嫌が非常に悪い為、家に帰れないからだ。だからこうして、子供をいたぶる小さな戦争にわざわざ手を出している。何も言わずに近づいていけば、男たちはジュラールに何かを感じ取ったのか、ジュラールとは反対方向に駆け出した。
はて、自分は何かしただろうか、と首をかしげる。もっとも、逃げられればつい追いたくなるのが習性というもので、無事に逃げられた、と安心したところに襲いかかるつもりだ。
ともあれ、今は目の前の子供だな、とそちらに目を向けた。
ら、なぜか怯えた瞳を向けられた。
釈然としない思いを抱きつつも、外見上、その子供の命に関わるような外傷はないため、このままにしておいても問題ないな、と判断。
追いかけっこに段階は移行させる。
かけ出したジュラールの背に、声が掛かる。
「ありがとうございました!」
ただの憂さ晴らしなので、例など言わないでほしい。
そう思い、ジュラールは逃げた奴らを追い詰めることに集中した。
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