悪夢から解放されて
気がつけば、周囲には立派な大理石で作られた神殿があった。
しかし、その場の空気は一般的な神殿に馴染みのある清浄さや神々しさではなかった。かと言って、神殿に馴染みのない空気かと聞かれれば、否と答えることができる。そこにあるのは陰気さや禍々しさと言ったもので、教会の裏の顔とも言えるものだ。
ジュラールからしてみれば、わりと馴染みのある雰囲気だ。あまり馴染みたいと思ったことはないが。
教会内のこの雰囲気になる場所は、これまでに幾度か訪れたことがある。そして、その要件は常に同じで、だから今回もそのために訪れたのだろうな、とは思う。
そこで、首を傾げる。
己の意思に関係なく、視点が動き始めた。あ、これは夢か、とその段階になってやっと理解ができた。夢であれば、この後どうなるかも容易に想像できる。
視点が止まった。周囲はいつのまにか白一色で満たされていて、目の前にはいつのまにか1人の少年が恨みがましそうにジュラールを睨んでいる。
随分と過程を省略し、ジュラールがピンポイントで思い出したくない場面を見せてくるな、と苦々しく思う。
「くそッ!せっかく異世界にきて、これから第2の人生が始まると思ったのに!どうして邪魔するんだ!別にいいだろ、1人ぐらいこっちで生きても!!」
目の前の少年は知らないが、その前例を、ジュラールが作ってしまったからこそ、2人目以降は許すことができないのだ。ジュラールの事情など、少年は理解してくれないだろうし、そもそも話すつもりも、少年の名前を聞くつもりもない。
「恨みたければ恨めばいい。こっちにもこっちの都合があるからな」
だんだんと色が抜けるようにして姿が見えなくなる少年に対して、ジュラールは謝るつもりはない。そして、許してほしいとも言わない。
「絶対に、許さないからな!!」
そう言い残して、少年は消え去り、恨みのこもったその視線だけが、ジュラールの記憶に残された。
そして、そこで体に振動を感じ、夢の終わりを察知した。
「大丈夫?」
そう声をかけてきたのは、銀髪の美しいジュラールの相方だ。
目を開けると、精霊の光に照らされ、幻想的な雰囲気のイヴがそこにいた。
何も言わずに、イヴの背に両手を回し、彼女を抱き寄せる。
「夢見が悪かった?」
「……うなされてたか?」
結構うるさかったよ?と、茶化すような声が耳をくすぐる。
愛しい女を腕にだき、その匂いを嗅いだことで、夢の残り香はもう消え去っている。
もう少し彼女を強く感じたくて、腕に込める力を大きくする。
「もう、どうしたの?いつもより素直だけど」
「俺はいつでも素直だよ」
「はいはい」
とにかく今は、このままで。とイヴに囁けば、イヴは黙ってジュラールの頭を撫でてくれた。
それにこわばっていた体の力を抜かれ、再び眠気に襲われる。
「おやすみ。いい夢を」
耳元で響いたイヴの声に送り出され、ジュラールは再び夢の中へ旅立った。
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