第786話 小さな畑
「なんだ。知り合いか」
「敵かと思った」
「またバーンってやっつけると思ったのに」
ゲオルニクスにまとわりつく子供達が不満の声をあげる。
「村長様もいるだよ」
そんな子供達に、ゲオルニクスが笑って答えた。
「まったく、このクソガキどもが。静かにせんか! お前達、ここにおわすのは……」
「いや、それよりも、どうしてこんなところにいるんだ?」
村長が、子供達にオレを紹介しようとしたので遮る。自然体でワイワイやっているところに水をさしたく無い。それよりもゲオルニクスだ。
「野菜を育ててるだァ」
「オイラ達が手伝って、ようやく成功したんだ」
「ゲオルニクスは下手くそだから、何回も失敗したんだ」
「どんくさいから」
「ガハハ。でも、リーダ達は惜しかったなァ。もう少し遅かったら、野菜をご馳走できただのに」
子供達のチャチャを受け流し、オレの質問に答えたゲオルニクスは力なく言った。
彼の畑は、村にある他の畑と比べると小さいが、それでもなかなかのサイズだ。車が2か3台は留められるスペース。そこには、緑色の葉っぱが顔をのぞかせていた。4列になって等間隔に姿を見せる葉っぱは、ピンと立っていて生命力を感じるが、確かに小さい。
「そうでもございませんな」
収穫は先かと思っていたオレ達に、村長が異議をとなえる。
「村長、もう大丈夫だか?」
「左様です。最近の寒さ、そして雲行き。そろそろ雪が降るやもしれません。確かにまだまだ、大きくなるでしょうが、雪を考えると早めに収穫しておくのも良いかと。それに、この時期の若いものも美味しくございます」
しゃがみこみ、畑の野菜をジッと睨んだ村長が断言した。
ちょっと小ぶりだけれど、畑の野菜は食べられるらしい。子供達の中にも頷く人間がいることから、その判断は正しいのだろう。
それに村長が言うように、最近は寒い。いつのまにか、雪を考える季節となっていたようだ。
「だったら、収穫するだ! 生まれて初めてこしらえた野菜の収穫だよ!」
ゲオルニクスが困り顔から一転し、笑顔になって大声をあげる。
「塩茹が簡単だぞ」
「おらは、干し肉とのスープがいい!」
「んだら鍋を用意するだ」
「おい、まずは収穫だろ」
「土ごと食べちゃダメ!」
子供達がゲオルニクスの手をひっぱり畑に進む。そして、何やら口々に訴えている。
どうやら収穫する時のコツを説明しているようだ。
会話の内容から、ゲオルニクスは一人で収穫したいようだ。
「では、料理人を手配しましょう。他にも大猪の肉もございます!」
子供達に厳しい指摘をうけながら、ゲオルニクスがニコニコ顔で野菜を収穫するなか、村長が提案する。
だけど、その提案は却下したい。楽しそうに収穫するゲオルニクスを見ていて、料理して食べるところまで彼が主役であるべきだと思った。
「いや。それには及びません。それに、何やら向こうから誰かがやってくるようです。村長には是非とも村の仕事を頑張っていただきたい」
遠くから、こちらへと向かってくる馬をみつけた。その背にのっている獣人は、みなりから村の人のようだ。せっかくのチャンスだ。村長には多少世話になったが、この場からは外れてもらうことにしよう。
「はい! 村の仕事をがんばらせていただきます!」
村長が背筋を伸ばして言った。近づく馬に乗った人は、村長に用事があったようだ。すぐさま村長はやってきた人と交代するように馬の背にまたがり、駆け出す。そして乗ってきた人は、去っていく馬を追いかけていった。
早速、収穫を始める。
「ふひぃ、大変だなァ」
「ゲオおじちゃん、手伝ったほうがいい?」
「いんや、ノアサリーナ。これは全部オラがやりたいだよ。ちょっとだけ辛抱しておくれ」
ゲオルニクスは嬉々として収穫作業を続ける。並行して、子供達は手分けして収穫後の作業の準備を始めていた。いつも手伝いをしているからだろう。手際がいい。小屋の側にある井戸から水を汲んだり、どこからか持ってきたカゴに、引き抜いた野菜を丁寧に並べている。
その野菜は拳サイズの白い玉に緑の葉っぱが生えているものだった。つまりカブそっくりというか、カブ。
「水はボクも運ぶっスよ」
オレ達も収穫作業以外の手伝いをする。バケツを運んだり、カブが痛まないようにカゴの中におさめていく。
作業はたいしたことがなく、すぐにゲオルニクスの収穫待ちになった。
子供達は飽きたようで、思い思いに遊んでいる。
今は、ひょっこり顔を出したツルハシを持ったモグラ……ノームを追いかけて遊んでいる。
「てやんでぇ」
地面から頭を出したノームに皆で襲い掛かるように飛び掛かっている。
いうなれば、広い道を縦横無尽につかうモグラ叩きだ。すばしっこい子供達を、ノームは翻弄し、たまにツルハシを振り回して勝ち誇っている。
それで、ますます子供達はヒートアップといった調子だ。
「リーダ! 終わったよ」
ノーム相手のモグラ叩きに奔走する子供達を見ていると、ノアが言った。
気がつくと、カゴに入ったカブは綺麗になっていた。
モグラ叩きに参加しなかった子供が、収穫の終わったゲオルニクスと協力して野菜を洗ったそうだ。
ノアも少しだけ手伝ったという。濡れた両手を誇らしげに見せてくれた。
「ようやくご馳走を作れるだァ」
カブが山盛りになった籠を背にして、腰をたたきながらゲオルニクスが笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます