第785話 広がる村

「……で、ありますからして」


 カラフルで背の高いシルクハットを被ったレッサーパンダの獣人。ピッキー達の故郷の村で村長をしている彼は、上機嫌に説明しながら進んでいく。

 入り口そばとは違い、家はまばら、あとは延々と広がる畑だ。

 畑には牛や巨大な猿が、暇そうにしていた。村長がいうには、ピッキー達がきたので、仕事そっちのけで偉人……ピッキー達のまわりに集まっているという。

 それから村長の説明で、村が急拡大した経緯もわかった。


「あれが、砦ですか?」


 カガミが畑の中にポツンと立つ小さな塔を指差す。


「左様です。さきほどお話した砦にございます。今は、兵士は去って共用の倉庫として使用しております」


 村が発展したきっかけ。それはノーズフルトが出した指示が最初らしい。

 いまいち理解はできなかったが、彼は銅像のために私財をなげうち、さらに自身の父親である領主にも、この村の防衛に兵士を出すよう依頼したという。

 領主がその訴えに耳をかたむけ、兵士が村を守るようになった。その名残が、カガミと村長の会話にあった砦だ。

 魔神復活が近いといわれた時期だ。兵士の守りというのは心強い。結果として、安全となった村には近隣より人が集まることになった。魔物に村を襲われ逃げてきた農民達が、大部分だったという。


「ここまでが、以前の村の境目にございます」


 しばらく進んだあと、村長が足元の水路を指差し誇らしげに言った。

 水路の向こう側にも畑は延々と続く。

 増えた農民と協力し開墾し村を拡張していったそうだ。銅像を造ったときに余ったお金もあって、村の拡張は順調だったという。


「あの細長い建物も倉庫なのか?」

「いえ。あれは聖女様の魔導具ハーモニーの祭壇でございます」


 進む途中、サムソンが細長い建物を指差したずね、村長が答える。

 縦に細長い木造の小屋。倉庫だと思っていたが、魔導具ハーモニーの設置場所らしい。

 魔神復活の時、ハーモニーは大活躍だったという。その魔導具が奏でる音に、死に忘れは浄化され、村人達だけでもなんとかしのげたそうだ。

 ハーモニーの話のついでにと、その後の事にも話が及ぶ。


「ところが、みんな、魔神との戦いでとても疲れていまして。兵士も含めて、疲れ切ってしまいまして。そんなときに魔物が……魔物が襲い掛かってきたのです」

「魔神が倒れたのに、ですか?」


 村長の言葉に、ノアが驚きの声をあげる。


「ノアサリーナ様。魔神が倒れたといっても、魔物が滅びたわけではありません。そして、人が集まると、魔物の脅威は増すのです。人の集まりは時として魔物を誘き寄せるのです」


 イオタイトがノアの疑問に答える。小さな農村は魔物に見つかりにくいが、人が多く集まると、魔物に見つかりやすくなるらしい。さらに人が多くなれば備蓄などの財産も増える。賢い魔物はそれを狙うという。もっとも、人が増えて防衛にかかる人員の整備なども行われれば、魔物がきても排除は簡単になる。

 ピッキー達の故郷は、ちょうど人が増え、守りを整備する直前だった。そういった事情で、魔物に狙われやすかったのだろうと、イオタイトが説明した。


「左様です。疲れ切った我らが、魔物の襲撃に対して、なんとか一踏ん張りと頑張っていた時です。向こうに見えます大魔法使いゲオルニクス様が助けてくださったのです!」


 両手で帽子を押さえながら頭を上下し村長が言った。

 彼の視線の先に、小屋が見えた。そして、ずいぶんと遠くにしゃがみ込んだゲオルニクスがいた。


「ゲオルニクス、なにしてんだろ」

「畑を見ているのでございましょう」


 目を細めてつぶやくミズキに、村長が答える。


「畑っスか?」

「えぇ。ゲオルニクス様は、魔物退治のお礼を申し出た我らに畑を所望されたのです。そこで、さっそく立派な畑をといいましたところ、小さくても良いとのとこ」


 村人は困惑したという。

 魔物の群れを倒したゲオルニクスは本当にすごかったと言う。雷を雨のように降らせ、大地を操り魔物を生き埋めにしたそうだ。

 そして、そんな大魔法使いに小さな畑を差し出すだけでいいのかと。


「それで、畑を見張る家を合わせて贈る事になったのです」


 村長は言いながら、ゲオニクスが座っている場所の近くに建っている小屋を指差す。


「わぁ」


 話をしながら近づく途中、ミズキが声をあげた。

 ゲオルニクスと一緒にいる子供に目を輝かせていた。

 彼は一人ではなかった。沢山の子供達と一緒にいた。ノアよりもはるかに幼い子供もいる。

 種族も、レッサーパンダの獣人以外に、犬の獣人、それから人間の子供もいた。

 そして向こうも気がついたようだ。


「おい! ゲオルニクス、いっぱい人がきたぞ!」

「沢山だ!」


 子供達が次々と、ゲオニクスを叩いたり引っ張ったりしながら声をあげる。


「久しぶりだなぁ」


 その声に答えるように、ゲオニクスがのっそりと立ち上がった。

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