第756話 怒り方
「それにしても、室内で水遊びってさ……ホント、リーダは子供なんだから」
「そうよねぇ。リーダは大人の貫禄がないわよねぇ。すぐに道に迷うし」
謝罪するオレに、ミズキとロンロの口撃がふりかかる。
半笑いで非難してくる2人の外野。
オレを罵る2人へ反論したいが、ネタが無い。悔しいだけだ。
「はいはい。悪うございました」
2人の言葉に、オレは開き直るしかない。
「ノアサリーナ」
そんなとき、レイネアンナがノアに近づき静かに見下ろし声をあげる。
「はい、ママ」
「遊ぶなとはいいません。ですが、節度は守るように。貴方はもうすぐ大人なのですよ。めっ、です」
「申し訳ありません」
レイネアンナに怒られて、ノアがシュンとなって頭をさげた。
ノアが、レイネアンナに怒られ落ち込むのは初めて見た。
久しぶりに母親に再会できたノアは、レイネアンナに怒られても嬉しい様子だったのに。日がたって、慣れたのかもしれない。
「リーダ様も」
小さくなって謝るノアをしばらく見つめていたレイネアンナがオレに向き直った。
「はい」
「ノアサリーナのため、良き将来につながるよう、模範となる行いをしていただきたく存じます」
レイネアンナがオレを見上げて訴える。
確かに、やり過ぎたかもしれない。それにしても、レイネアンナに怒られるとはなぁ。
ずっと恐縮した様子で、一歩引いた感じだったのに。
あれかな。
ミズキがレイネアンナに言った言葉が理由かな。
――レイネアンナさんのが年上なんだし、お姉さんとしてビシッと言っちゃって良いよ。
とかなんとかミズキが言っていたんだよな。
ミズキは精神年齢の事を言っていたらしいが、レイネアンナは実年齢だと判断したらしい。
その年上というのは、オレがノアに年を聞かれて、適当に25歳と言ったのが理由っぽいけれど。
こちらに来たとき20歳になったとして、5年過ぎたから25歳とか言っただけで、実年齢はもっと上なのだが、こうなると説明しづらい。
まぁ、どうでもいいかな。
「リーダ様、聞いていますか?」
そんなことをつらつら考えていると、レイネアンナがダメ押しとばかりに声をあげる。
オレを見上げて怒った様子を見せるレイネアンナは美人だと思う。なんというか、怒った表情もサマになっている。
「はい。聞いています。今後は気を付けます」
「お願いしますね。それから、ボーッとしないでくださいまし、めっ、です」
「プッ」
しまった。オレを見つめて「めっ」とか言うレイネアンナに思わず噴き出してしまった。
いや、流石に人生で「めっ」って怒られるとは思っていなかった。
「なぜ笑うのですか!」
一方、レイネアンナは真っ赤になってオレに詰め寄ってくる。
「あちゃー」
ミズキが間の抜けた言葉で茶化し、ノアが驚いた様子でオレとレイネアンナを見た。
さて、どうしよう。いつもと違い取り繕った様子もないレイネアンナを見て困惑する。
そして、真っ赤な顔で詰め寄ってくる彼女への対応を考えていた時のことだ。
「レイネアンナ様、リーダ様にはソレ、通用しないですよ」
いつの間にか部屋に入っていたイオタイトが言った。
「それ?」
「あぁ、そうだよ。リーダ様。レイネアンナ様は魔力の操作による簡易的な威圧を行使したのさ。それにしても怒りなんかの感情をまったくのせず純粋な威圧に留めるなんて、レイネアンナ様の技量は凄いね」
「へぇ」
威圧か。よくわかんないけれど、さっきのノアはそれでシュンとしてしまったのかな。
魔法が存在する世界では、人を怒るときも少し違うらしい。
「あれだよ。リーダは鈍感だからさ、そーいうのはダメなんだよ」
「確かにそうよねぇ」
真っ赤になって頬を膨らませ、涙目でオレを見上げるレイネアンナをよそに、ミズキとロンロが茶化し始める。
一瞬だけでも殊勝に謝ったオレより、ずっとふざけているあいつらのほうが失礼だと思う。
「うるさいな」
「だってリーダが悪いんじゃん」
「そうそう」
「確かに、笑ったのはリーダが悪いと思います」
「魔神を超える存在にすら戦いを挑むリーダ様だからね。押さえるのは難しいんだろうね」
ちょっとしたミズキとロンロへの抗議も、倍返しされる。
イオタイトまで加わって。
「そうですね……。わたくしなどでは……」
「しょうがないからさ、あれだよ、レイネアンナ様。もう、テストゥネル様にでもお願いして叱ってもらうしかないよ」
落ち込むレイネアンナに、ミズキがロクでも無い事を言い出す。
「おい。ミズキ。変なことを言うな。なんでテストゥネル様が出てくるんだよ」
「だって、リーダ、懲りないし、流石にテストゥネル様だったら怖いってなるんじゃない?」
「変なこと言うな。反省してるって、まったく。本当に怒られたらどうするんだ」
「えっ、リーダ……テストゥネル様に怒られるような事をしたんですか? 一応、教えて欲しいと思います」
「いや、してないし。変なフラグを立てるな」
あの人、龍神とかいうだけあって、妙に貫禄あって苦手なんだよな。
昔に一回、殺されかけたし。
「確かに、リーダ様を押さえる事ができるのは、今やテストゥネル相談役くらいなのかもね」
イオタイトまでヘラヘラと笑いやがって。
「まったく、変なこと言うな」
そう言って、オレはそそくさと部屋から出た。
それにしてもテストゥネル様か……オレ、何もしていないよな。
ミズキのヤツが変なことを言うから不安になってくる。
とはいえ、その後は何事も無く、平和な日々がすぎた。
「明日の夜には、王都へと到着する」
そしてイオタイトから報告があった。
無難に空の船旅は続き、流石に飽きが来た頃、ついに王都へとたどり着いたのだ。
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